第4話たのしいかーい?

 行先は決まりました。

 オライオンはさっそく園長さんのところへ走っていきました。

「園長さんよ。どうやら、みんなの行きたいところをまとめると、《海》ということになる」

 オライオンはたてがみの乱れを直すと、呼吸を整えました。

「 《海》 だって! 考えもしなかったよ」

「みんなの意見はこうだ。 (ぐりちゃんたちは、安全で広いところに行って外の草を食べてみたい。ポニーたちも広いところに行って駆け回りたい。草を食べたい。実はひょうもん君とマナさんは以前から 《海》 にあこがれていた。ひょうもん君情報によると、海には広くて駆け回れる 《砂浜》 というところがあるようだ) それならみんなで一緒に 《海》 へ行ってみたら楽しいんじゃないか、ってことになったわけよ」

 オライオンはえへん、胸を張りました。


「さあ、園長さん。教えてくれよ。ここらへんで動物園から一番近い海はどこだい?」

「それは簡単だよ。君がこの間走り回っていたおすまし村のドッグランの先に大きな森があっただろ。その森を抜けた先が 《楽しい海》 だよ」

「そうなのか。じゃあ結構遠いんだな。カメやナマケモノたちが歩いていったら、何日かかるかわからないな。」

「僕たちはそんなに遠くまでは歩けないよ~」

 やっと追いついたアルダブラ君とぶた太は、はあはあいっています。

「ぐりちゃんたちは、安全なところで走り回りたいと話していました。海が遠いなら、トラックにのせてあげてもらえませんか?」よし子さんが手を合わせます。

「おいらもトラックがいいブ」

「僕だって~」

「ぶた太は、おれ様の背中にのせてやるよ」

 オライオンが自分の背中を指さしました。

「それでもいいけど、おいら重いぞブ」

「ちゃんとしがみついてくれたら大丈夫さ。なんたって、おれ様は百獣の王だからな」

 オライオンはぶた太をくわえると、えいっと背中に持ち上げました。

「どうだー」

「乗り心地がいいブ!」ぶた太は、ブヒっと鼻を鳴らしました。

「いいなあ、ぶた太は。僕は無理だよねえ?」

「ああ、悪いな。さすがに200キロはおれ様も持ち上げられねえ」

 オライオンは、頭を下げました。

「いいんだよ~ ちょっと言ってみただけだから~」

 アルダブラ君はてへへっと笑いました。

「アルダブラ君は、マナさんやぐりちゃんたちと一緒にトラックにのせてあげるよ」

 園長さんがポンポンとアルダブラ君の頭をたたくと、

「途中でカタツムリ君たちものせてあげてねえ~」

 と園長さんを見上げました。

「もちろんだよ」

「じゃあ決まったな。おれ達走れる組は走って、ぶた太はおれ様の上。カメたちやマナさんとちっちゃい者たち+アルダブラ君のお友達はトラックで海まで連れて行ってもらう。決行は来週の休園日だ。」

「ようし、ではまずは町内会に回覧板を回そう。後は園内にポスターを貼る。トラックの点検だ」

「もうトラックなら、アルダブラ君を見つけに行った後に点検しましたよ。園長」

「私も、この間の会議のあとさっそく回覧板用のポスターなどは作っておきました。」

「あとは、動物たちの体調を整えて当日に備えるだけです」

「さすが、うちのスタッフたちは優秀だね」

 園長さんは、遠くのマナさんを眺めました。

 マナさんやひょうもん君が、海に行きたいと思っていたなんて知りませんでした。




「海に行けるのねえ~~~」

 マナさんは、アルダブラ君の報告を聞いて、木から落ちそうなほど喜びました。

「来週行けるのね~~~ 風邪ひかないようにしないと~~~」

 アルダブラ君は、つい

「マナさんも風邪ひくんだ」と余計なことを言ってしまいました。

「失礼ねえ~~~ 私だって風邪ぐらい引くわよ~~~」

 マナさんは、怒っても顔が変わりませんでした。


 リクガメたちもこうらをゆすって喜びました。

「おれ達、ここに来てからトラックに乗るの初めてだよな」

「そうだね、ひょうもん君」

 ガラパゴス君もひょうもん君も嬉しそうにはあはあ息を吐きました。

「アルダブラ、ありがとうよ。俺の行きたかったところに連れて行ってくれるなんて、うれしいよ。ありがとうな」

 珍しくひょうもん君にお礼を言われて、アルダブラ君は、戸惑いました。

「僕も 《海》 って見たことないし~。みんなで行くと、きっと楽しいよお」

「待ってろよ、ウミガメー」


 アルパカさんたちも大喜びです。

「うわあ、嬉しいわ。ぶた太さん」

「嬉しい! ぶた太大好き!」

 ポニーが勢いよくぶた太の鼻にキスしました。

 ぶた太のほほがポッと赤くなりました。

「でも、私羊だからそんなに早く走れないわよ。長い距離も走れるかめえ~?」

 羊さんが不安そうに言いました。

「そういえば、海までは遠いの?」

 とアルパカさんも言い出しました。

「海まではドッグランの先の森を抜けたところらしいブ」

 ぶた太にしては珍しくわかりやすく説明します。

「私達も、トラックにのせてもらえないかしらねえ」


 ぐりちゃんたちは、よし子さんの周りをくるくると回っています。

「やったわやったわ」

「初めて外に行けるのよ」

「 《海》 には砂浜もあるっていうし、砂堀りし放題よ!!!」

「砂の中で眠ることもできるかしら?」

「でも、ぐりちゃん、ねている間に波が来たら、流されてしまうわよ」

「きゃあ~ それは大変!」

 ちっちゃい者たちは、妄想しすぎてパニックになりかけていました。

 ただ一匹冷静なゴル君だけは、

「まったく、女どもははしゃぎすぎだぜ」と言いながら、海へ行く準備をはじめていました。

「みんなは、アルダブラ君やそのお友達たちと一緒にトラックで行くのよ」

 よし子さんは、ハムスターたちに教えてあげました。

「楽しみ~」

 ハムスターとモルモットたちは

「きゃぁあああああ~~~!!!」と小屋の中を全速力で駆け回っています。



 決行は次の月曜日です。


 準備は整いました。

《アルパカさんとポニーは走れるだろう。羊さんは途中でくじけてしまうかもしれない。 (楽しい海) につくまでにばててしまったらかわいそうだ。アルパカさんとポニーも途中でバテそうになったら、ちょっときついがトラックに乗せてあげよう》ということで話はまとまりました。


 当日は、良いお天気でした。

 風には少し秋の空気が混じっています。

 赤とんぼがブーンと飛んでいきました。

 

 トラックには、カメたちや羊さん、マナさん、ちっちゃい者たちがワイワイしながらのっています。

「ああ、そこはカタツムリ君たちのスペースだから、エサ乗せちゃだめだよー」

 アルダブラ君がよし子さんに注意しています。

「ああ、ごめんなさい」

「海に入ったら、たくさん泳ぐわよ~~~。水の中なら私、早いんだから~~~」

 ナマケモノのマナさんのことは、わからないことばかりだあ、とマナさん担当の真奈美さん以外のみんなが思いました。

「さすがにこれだけたくさんのると、結構重いなあ。アルパカさん、ポニーちゃん頑張って往復走ってくれよ」

 りょうさんはハンドルを握ると、帽子をかぶりました。

「私、帰り走れるか少し自信ないわ~。その時はのせてね~。走るのなんて久しぶりだし、魚の目ができるかも」

 アルパカさんが不安そうに首を足元に寄せました。

「りょうかい~」

「りょうさんが、了解っていうとしゃれみたいだブ」

 ぶた太が、オライオンの上でどすどすと飛び跳ねました。

「ぶた太、おとなしくしてくれ。重いぞ」

 オライオンはいったんぶた太をおろしてごろりと横になりました。

「出発まで体力温存だ」

「じゃあ、そろそろ行きますよー。職員のみんなは、動物たちの見守りお願いしまーす。海岸は貸し切り状態になっているので、安全なはずでーす。楽しい一日を過ごしましょう」


「サングラスは海辺には欠かせないアイテムだな」

 ハムスターのゴルちゃんが、ちゃっとサングラスをかけました。

 日焼け止めもちゃっかり入れています。

「待ってろよー、ウミガメ」

 ひょうもん君がつぶやきましたが、ウミガメがいるのはもっと南の海だよ、とは誰も言えませんでした。


 さあ、どんな一日になるのでしょう。

「みんな、楽しいか~い?」

 りょうさんが、声をかけました。

「楽しいよ~~~」

「では、しゅっぱーつ!」




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