第3話かっこいいオライオン

 話し合いは、順調に進みました。

 まずは、大きな動物、中くらいの動物、小さな動物。その中でも動きの速さに分けると少なくとも六つにはわかれるようです。

 一グループにつき一日。

 しかも、決まった場所まで連れて行ってもらえたら、なるべく離れてみていてほしい。

 動物たちにも、危険な行動はしないことを約束させる。

 町の人たちが驚かないよう、動物園から前もってお知らせを出す。などの事をしてもらう。

「どこに連れて行ってもらうかは、グループごとに話し合って園長さんに報告するっていうのはどうだい」

「いいね! いいと思うよー」

 みんなは、手をたたきました。

 オライオンの前にアルカリイオン水の入ったお皿が置かれました。傍らには肉もおかれています。

「おいらにはないブ」

 ぶた太とアルダブラ君には浄水器の水が置かれました。

「じゃあ、さっそくみんなに話して来ようよ~」

 アルダブラ君が首を持ち上げました。

「アルダブラ君が行くブ?」

「そうだよ~」

「全部回るのは大変だから…… アルダブラはほかのリクガメやナマケモノのマナさんたちにどこに行って何をしたいか、聞いてきてくれ」

「そうなの~」

 少し不満そうでしたが、言うとおりにしました。

「ぶた太は、中くらいのなかまたちに聞いてきてくれ。羊やポニーやアルパカたち担当だな」

 ぶた太は、オライオンに『担当』を与えられて嬉しそうに部屋を出ていきました。

「ちっちゃい動物たちはどうするの?」

 よし子さんが聞くと、

「それはやっぱり親代わりのよし子さんしかいないだろう」

「ああ、でも私、ぐりちゃんたちの顔をまともに見られるかしら」

「大丈夫さ。よし子さんは、ぐりちゃんたちの母親みたいなものだからな」

「わかったわ」

 よし子さんは、きっぱりと顔を上げました。

「まだみんな興奮しているようなら、おれ様が話してあげるから安心して」

 オライオンはにっこり微笑みました。


「オライオンは、かっこよすぎるなあ」

 りょうさんがオライオンの肩をつつきました。

「それほどでもないさ」

 オライオンは、ゆっくり大股で部屋を出ていきました。

 後に残ったスタッフたちも、飲み物をそれぞれ入れなおしました。

 外では、マナさんがゆっくりと二枚目の葉っぱにとりかかろうと腕をのばしています。

 

 アルダブラ君は、リクガメの部屋に向かいました。隣ではぶた太が文句を言っています。

「どう思うブ。いくらオライオン君がしっかりしていて、 『カウン何たら』 をしているからってかっこよすぎだブ」

「ひがんでもしょうがないよ~。だって、僕たちはあんなにみんなのこと考えられないし~」

「ひがんでなんかいないブ」

「さっきぶた太君が 『カウン何たら』 っていていたけど、あれ、カンパンじゃなかったっけ?」

「カンパンっていうのは地震の時に食べる固いパンの事だブ。オライオン君は食べられないブ」

 二匹がすっとぼけている会話をしている間にリクガメの部屋を通り過ぎてしまいました。


「やあ~。ひょうもん君とガラパゴス君~」

「やあ、アルダブラ君。今日も相変わらずのんびりしてるね」と、ひょうもん君。

「やあやあ、本当にアルダブラ君は、見ているこっちもゆったりするよー。こんなにゆったりしているのに、この間は思い切ったことをしたよねえー」

 ガラパゴス君は水を飲みながら、アルダブラ君を見つめました。

「本当だよな」

 ひょうもん君もアルダブラ君をじっと見ました。

 二匹からじっと見つめられて、アルダブラ君はドキドキしました。

「あのっ 実はね~ そのことで~」

「なになに? いい話?」

 ガラパゴス君がぬっとアルダブラ君の顔に近づきました。

「うん。さっき、オライオンが園長さんやりょうさんたちと話していたんだけどね~。僕たちが脱走してから、ほかのなかまたちも外に行きたがっているらしいんだよ。だから、グループに分かれて外に連れて行ってくれることになったんだ~」

「おお! それは、ナイスアイデアですな」

 二匹は微笑みました。

「で、どこに連れて行ってくれるの?」

「どこって、外に決まっているだろう」

 ひょうもんくんがムスッと口をとがらせました。

「外って言っても、いろいろあるんだよう。例えば、お散歩するとか~ 広いところで思いっきり走り回りたいとか~ 泥浴びしたいとか~」

「走り回るって言っても、俺たちなあ」

 二匹が顔を見合わせました。

「走り回るほど、足速くないしなあ。泥浴びもいいけどなあ」

「こうら汚れちゃうしね。せっかくの僕のきれいなこうらが、台無しになっちゃう。それで、アルダブラ君はこの間は何をしてたの?」

 きれい好きのガラパゴス君がアルダブラ君に聞きました。

「僕はね。カタツムリ君たちを背中にのせてお散歩に連れて行ってあげるところで、りょうさんに見つかっちゃったんだよ~」

「お散歩してたんだな」

 ひょうもん君がつまらなそうにつぶやきます。

「アルダブラ君は、のんびりお散歩が楽しかったんだね」

 ガラパゴス君は小さくうなずきました。

「そうなんだよ~。カタツムリ君たちも、これから遠くへ行けるっていうところで帰ることになっちゃったから、残念そうなんだよ。毎日のようにまた行きたいってお手紙が届くんだよ」

「アルダブラ君も意外と大変なんだね」

 二匹は、感心したようにうなずきました。

「それはそうと、おれはお散歩もいいけど、実はずっと 《海》 っていうものを見てみたいと思ってたんだよ」

「 《海》 って聞いたことはあるけど、ここから近いのかなあ」

 ガラパゴス君が、遠くを見るように目を細めました。

「 《海》 にもカメがいるって、昔園長さんから聞いたことがあってな。それ以来、 《海》 に住んでいるカメっていうのはどんな奴なんだろう、って時々考えていたんだ」

「ひょうもん君がそんなことを考えていたなんて、全然気が付かなかったよ~」

 ひょうもんくんは、何も言わずに葉っぱをもぐもぐ飲み込みました。

「ひょうもん君が 《海》 に行きたいと言っていたと、オライオンに伝えておくよ~ ガラパゴス君も、 《海》 でいいんだねえ」

「そうだね。ひょうもん君の話を聞いていたら、僕も 《海》 に住んでいるというカメに会ってみたくなってきたよ」

 ガラパゴス君が、片手をわずかに上げました。

「りょうかい~。じゃあ、また決まったら伝えに来るねえ。ぼく、マナさんにも聞いてこないといけないから。またあとでねえ」

「おう、またあとでな」

「オライオンによろしくね」

 二匹は、再び水を飲み始めました。



 マナさんは、二枚目の葉っぱをもうすぐ食べ終わるところでした。

 アルダブラ君は、あわてて用件を伝えました。

 なんと、マナさんも 《海》 に行ってみたかったとのことでした。

 木のてっぺんから 《海》 と思われる大きな水たまりのようなものを毎日見ていて、ずっと気になっていたようなのです。

「 《海》 だと思うのよ~~~ でも一人では行けないし~~~ このまま動物園でおばあちゃんになってしまうのかしら~~~ってちょっと思っていたの~」

 マナさんは、かなり嬉しそうによくしゃべりました。

「わかったよー」

 

 ぶた太は、羊やアルパカのいる小屋までやってきていました。

 用件を簡単に説明すると、やはりぶた太がこの間何をしていたのか聞かれました。

「おいらはみんなと一緒に歩いていたけど、暑くてふらふらになっていたから、途中で湧水のところで泥浴びしながらみんなの帰りを待っていたブ」と答えました。

「みんなも外に連れて行ってもらえることになったブ。どこに行きたいブ」

「どこって言われても…… わからないめえ~」

 羊さんが言うとアルパカさんも、

「そうねえ、広いところに行ってお散歩してみたい気もするわねえ」

 ポニーも、草を食べながらうなずきました。

 ぶた太が、オライオンがドッグランで駆け回ったことを伝えると、食べていた草をはきだしました。

「ドッグラン、行きたい!!!」と三匹は大きな声で叫びました。

「じゃあ、三匹はドッグランでいいんだブ?」

「オッケーよ~。ぶた太さん、オライオンさんによろしくねえ~(めえ~)」


 よし子さんは、ぐりちゃんたちの小屋の窓からそっと様子をうかがっていました。

(ぐりちゃんたち、落ち着いたかしら。まだ、 『小さなお子様嫌です運動』 は続けているのかしら)

 後ろに気配を感じて振り返ると、オライオンが立っていたのでひっくり返りそうになってしまいました。

「どうだい、ぐりちゃんたちは意外と落ち着いているだろう」

 よし子さんは、腰についた泥を払いました。

「おれ様が聞いてきてやろうか」

「大丈夫よ。私、行けるわ」

 よし子さんは深呼吸をすると、小屋の入り口からそっと入っていきました。

「みんな、おなかすいていない? おやつを持ってきたわよ」

 小さく切った果物を餌箱に置くと、みんなはわらわらとよし子さんの近くに集まってきました。

「よし子ちゃん。この間は、私たちすっかりよし子ちゃんを困らせてしまってごめんなさいね。ちょっと前の日にちびっ子たちに触りまくられて、疲れていたの」

 ハムスターのぐりちゃんが膝の上によじ登ってきました。

 よし子さんは、手のひらにのせてあげます。

 モルモットのモルちゃんたちも、膝の上に登ってきます。

 よし子さんはうれしくて涙が出そうになりました。

「いいのよ、いいのよ。そういう時もあるわよ。」

 くすんと鼻をすすりました。

 オライオンから頼まれていたことを思い出しました。

「そういえばね、今度みんなで外に行くことになったのよ。どこか行きたいところはあるかしら?」

「ええ~! そうなの?」

「うれしい!それはめっちゃ楽しみ!」

「私、外の草を食べてみたい」

「猫とかに食べられない?」

「みんな多分行きたいところが違うわよ。いったいどうやってみんなを連れて行くのかしら」

 ハムスターたちは、一斉によし子さんの周りで騒ぎだました。

 よし子さんは危なく手の上のぐりちゃんを危うく落としそうになりました。

「みんな、落ち着いて。園長さんは、グループごとに連れて行くつもりよ。ぐりちゃんたちは、ちっちゃい者たちだけで連れて行くから、安心して。もちろん、私もついていくし」

「よし子ちゃんがついてきてくれるのなら、安心だわ。そういえば、この間アルダブラ君たちはどこへ行ったのかしらね」

 ぐりちゃんがみんなを見回しました。

「アルダブラ君は、カタツムリ君たちとお散歩。ぶた太は泥浴び。オライオンは、ドッグランで楽しんでいたところをりょうさんに見つかってしまったのよ」

 ぐりちゃんたちは口々に

「お散歩……ドッグラン……楽しそう……」とつぶやきました。

「どこでもいいけど、広いところに行って外を駆け回ってみたいわね」

 みんなの意見をまとめると、

《どこでもよいが、広くて安全なところで走り回ってみたい。おいしいかどうかわからないけど、外の草がどんなものが食べてみたい》になりました。



 よし子さんとぶた太とアルダブラ君は、みんなの意見を持ち寄ってオライオンのところに行きました。

「ふーむ。そうかそうか。みんな行きたいところがあるんだな。アルパカたちはドッグラン。カメたちは海。ぐりちゃんたちは、どこか広いところ、と。なんだかみんなで行けそうな気がしてこないか、よし子さんよ。」

「私もそう思っていたのよ」

「僕もそう思っていたんだよ~」

「おいらもだブ」

 一頭と一人と二匹は息を合わせて、

「海よ」

「海だな」

「海~~~」

「海だブ」

 行先は、《海》に決まりました。





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