第12話

 ふと、壮馬の顔を見ると、自分の話をしている時より、辛そうに、苦しそうに、傷ついたように歪めている。

「そんな顔しないでよ! 私は、大丈夫だから。」

 顔を見るのが辛くなり、目を手元に戻す。

 トントントントンと野菜を切る音だけが部屋に響く。


 ムクっと壮馬は急に立ち上がると、私の方へと駆け寄って来た。そして、ぎゅーっと力強く、後ろから抱きしめられた。

「壮馬、今は危ないよ? 」

 料理中だからと言い聞かせて、離してもらおうとする。しかし、離してもらうどころか、さらに強く抱きしめられる。

「僕、あかりに出逢えて良かった。」

 やっと発した言葉は、涙声で、震えていた。

「あかり、まだ地球にいてくれてありがとう。」

「壮馬も、産まれてきてくれて、まだ地球にいてくれてありがとう。」

 身体を壮馬と向き合う形に直される。今度は優しく、そっと抱きしめられたかと思うと、唇に柔らかい物が当たる。

「今気づいた。これが『好き』って感情なんだって。」

 さっきの歪んだ表情とは打って変わり、心から愛しさを噛み締めるかのように穏やかに笑う君。


「あかり、好きだよ。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る