第2話

 今日も私は学校にいる。

 図書室で好きな本を読んでいる時は、この悲惨な世界を忘れられる気がして……。


 1冊を読み終え、落ち着いたその時、ガラガラと図書室のドアが開く音がした。

 顔を上げてみると、そこには、知らない男の子。男の子と言っても、私と同じ位の背丈はある。それに、うちの高校の制服を着ている。なにか用があって来たのだろうか。

「あの……」

 か細く、小さな声でよく聞き取れない。心做しか手が震えているようにも見える。

「えっと、何て言いましたか? 」

 トテトテ、そんな効果音が聞こえてきそうな足取りで私が座っている席の目の前まで移動してきた彼は、周りを見渡して、一呼吸おき、意を決したように、

「君以外は誰もいないの? 」

 発した言葉はヤケに悲しそうだった。

 というか、おそらく彼は悲しいのだろう。真っ赤な目が潤んでいる。

「こんな状況だからね。皆、学校なんか来ないで好きなことやってるよ。」

「じゃあ、なんで君はここにいるの? 」

「私はここが好きだから。」

 近くで見ると真新しい制服に身を包んだ彼はその袖口でゴシゴシと目を擦り、先程まで視界を邪魔していたであろう涙を拭き取ると、

「よかったら、学校の中を案内してくれない? 」

「どうして、うちの生徒じゃないの? 」

 聞くと、戸惑いながら小さな声で

「ずっと入院していて、学校に来るのが初めてなんだ。だから……」

 どうりで制服が新しい訳だ。

 少し迷ったが、特にやることは無かったから、

「じゃあ、行こうか。」

 下を向いている彼の手を引いて、私は歩き出した。

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