第17話
意識がようやく戻ったとき、目を開けた瞬間に眩い光が眼球に飛び込んできて、目を細めた。
その眩い光はカーテンの閉めていない窓から差し込む朝日のようだった。
身体を起き上がらせる。後頭部と腰の辺りが鈍く痛む。
ずっとリビングに転がっていたようだ。昨晩のことがよく思い出せない。記憶がとっちらかっている。
昨日は夜遅くに帰って、玄関のドアに鍵がかかっていなくて、リビングの窓が開いていて、風が吹き込んでいて、誰かがいて、誰かがサチを犯して殺していて、その誰かはネコミミ喫茶の店員で、あーっと、えーっと、あとどうだったっけ? どうなってなぜ私はずっとここで寝ていたのだっけ?
頭痛が酷い。吐き気もする。思い出せない。どうしてこうなった?
というか――というか――サチはどうなった?
私は室内を見回した。サチの姿はどこにもない。サチの死骸の姿もどこにもない。
あの男の姿もない。それはどうでもいい。それよりもサチはどこだ?
サチを探そうと立ち上がったとき、私の身体からひらりと一枚のメモ用紙が落ちた。
どうやら寝ている私の上に乗っていたようだ。拾って目を通してみる。
そこには概ねこんなことが記されていた。
『今回は急な任務だったため、斉藤竜彦様に危害を加えてしまったこと、お詫びを申し上げます。つきましては、お宅のネコミミ、サチちゃんのことですが、残念ながら亡くなっていたため、失礼ながらこちらが処理をさせていただきます。それからサチちゃんを殺した男ですが、そちらも私どもの方で処理致します。この度は、我々の至らなさのせいでサチちゃんを助けられず、改めて申し訳ありませんでした。なお、この件に関してましては、どんな質問も当機関に訊ねられても秘密保持のためお答えしかねます。ご了承ください。 ネコミミ保護協会より』
それがこのメモ用紙に記されていた内容だった。
私は文章が上手く頭に入ってこず、何度も読み返した。
そうして全文理解したとき、私はその場に唖然と立ち尽くすしかなかった。
サチが死んだ? 処理? どういうことだ?どういうことだ、これは?
すべての真実を伝えるための文章のはずなのに、私の頭は混乱するばかりだった。
私は出勤もせず、半日かけて家の中を隈なく探した。
ゴミ箱まで引っ繰り返し、部屋の隅々まで目を皿にして、とにかくサチを探した。サチは死んでおらず、どこからか「にゃー」と呑気に鳴いて顔を出す気がした。
だが、結局サチはどこにもいなかった。当たり前に、もうこの世にすらいなかった。
私は泣いた。ぼろぼろ涙を流して泣いた。サチの餌皿にしがみついてだらしなく泣いた。
泣いて泣いて泣き疲れて、気づけば日が暮れて夜になっていた。
留守電が何件も家電と携帯電話に来ていた。ほとんどが学校からだった。
私はそれら全部を削除して、眠った。サチとの昔を思い出しながら、眠った。
そのせいか、夢の中でサチと逢った。サチは能天気にごろごろ喉を鳴らして私にじゃれついてきた。
私はサチをギュッと抱いて、頭を撫でていた。いつまでもいつまでも、撫でていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます