第2話

 授業やら放課後やらをどうにかやり過ごし、気づけばもう帰る時間。

 この瞬間ばかりは幸福な気分になる。何かから解放された気分だ。

 しかし、また明日の仕事のことを思うと、すぐに絶望的な気持ちになるのだが。

 明日のことを考えるよりもまず帰ろう。帰って飯を食って糞をして風呂に入って眠ろう。

 荷物をまとめて席を立とうとしたとき、沼崎に呼び止められる。

「斉藤待ってくれ。あのさ、今日あそこ行かないか?」

 手を合わせて哀願してくる。私は今日すでに何度目かもわからない溜息。

「またかよ。この前行ったばっかじゃねぇか。ちょっとくらい我慢しろよ」

「我慢できないんだよ。今日は絶対に行きたいんだよ。な? いいだろ?」

「よくねぇよ。大体さ、おまえ家で飼ってるんだろ?じゃあそいつを愛でろよ」

「そりゃうちの子は可愛いけど、他の子を触りたいって気持ちもあるんだよ」

「俺には理解できないな」

「そりゃおまえはそうかもしんないけどさ――」

 沼崎の姿はまるで駄々を捏ねている子供のようだ。

 なぜこんなやつの友人をやっているのか、自分でもよくわからない。

 だが、こうなるとテコでもこいつは願いを取り下げないだろう。私が首を縦に振るまで、恐らく家までついてくるんだろう。そうわかっているので、私は頷かざるを得なかった。

「わかったよ。一緒に入ってやるよ」

「マジで? ありがとう、一生の恩に切るよ」

「はぁ、まったく。俺が一緒じゃなくとも一人で行けるだろうが」

「男一人で行ける場所かよ、あそこが」

「男二人でも行きづらいだろうよ。俺だって恥ずかしんだからな」

「恥ずかしい場所じゃないぞ、あそこは」

「おまえ言ってることが矛盾してるぞ」

「あれ? そうか?」と沼崎は誤魔化すように笑う。本当にこいつは――。

 私は眩暈がしてくるような憂鬱を、とにかく溜息をついて紛らわせる他なかった。

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