第5話

だんだんと落ち着いて来た。

これは会社を辞めないといけないと、わかった。

ひとときの過ちの代償は、あまりにも大きなものだった。

身の回りの荷物を片付けた、吉岡さんが心配して、何やかやと助けてくれた。他の男の人達は知らん顔だった。誰も止めてくれなかった。

その日の4時に

「お世話になりました」

とだけ言って会社を辞めた。

福間さんが出て来てくれて「まあ、悪う思わんといてください」と言ってくれた。

会社を辞めた理由を夫に何て言おうか悩んだ。

浮気の代償は大きい。骨身に染みた。

まさか土井垣が「景子ちゃんとやったもんね」などと言うとは思いもしなかった。

社長も社長だ、こんな事をみんなの前で言わなくてもいいのに。

 5時に土井垣が会社に戻って来た。川崎が廊下に呼んでいきさつを話した。

「何でバレたのだろう、社長に話したからかなあ」

「不倫したなんて人に言うもんじゃないよ。当たり前じゃないか」

「だって本当なんだもん」

「本当の事だから言ってはいけないのだ、不倫は男にとって勲章だけど、女にとっては隠すべき事なんだ、だから人に言うもんじゃあないんだ。中野さん可哀そうに会社辞めたぞ」

「えーっ辞めたんですか、何も辞める事は無いのに」

箸にも棒にも掛からぬ奴とは土井垣のような奴を言うのだと思う。

景子はこれから、土井垣との関係をどうしようかと考えた。

夫しか男を知らなかった景子にとって、若くてたくましい土井垣の肉体は天にも昇る喜びであった。

でも、事があからさまになった以上、関係を続けるわけにはいかなかった。

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