第15話
体つきが極端に貧弱なために頭部が肥大したように見える奇妙な男から、あの女、と聞かれて、俺はもちろんメイコを連想した。
答えずじっと自分を見つめる俺に、男は、そうメイコのことですよ、と言いたげに薄く笑って頷いた。
あの女には、と男は俺に向かって語り出した。
「あの女にはね、非常に困ったことをされたんです、それが何かはもちろん聞かないでもらいたいですがね、
でもね、誤解しないでもらいたい、これはほんとうに誤解してほしくないんだが、我々は別にあの女を悲鳴が枯れるまで痛めつけたいとか、二度と女の幸せなど望めない体にしてしまいたいとか、まぁあの女がそんなものわずかでも望んでいるとは到底思えませんが、とにかくそういう、暴力的な結末を用意しているわけではないということです、
個人的にですがね、私はあの女にちょっと妙なくらいに強い関心を持っているんです、男女の特別な感情、なんていう腐りかけの感情じゃありませんからね、それも誤解しないでほしいんですが、
なんというのかな、ひとつの個体としてね、どうしてああいう生き物が生まれてきたのかなというか、そういう興味なんです、
あなたならわかるでしょう?」
話の冒頭に聞かれたらまったくわからないと答えたはずだが、男の言いたいことは、なんとなくわかる気がした。
メイコには、狂人を超えた何かがある。
そしてそれは、一部の人間たちを惹きつける。俺や、この男のように。
何をしたんだ、自分でも気づかないうちに俺は男にそう聞いていた。
あの女は、メイコは、いったい何をやったんだ?
「いや、語弊がありました、困ったことをされたんです、と私は言いましたね、
そうじゃない、そうじゃないんだ、今も続いてるんですよ、あの女は今も、この瞬間も、その行ないを続けてるんです、誇張じゃないですよ、きっと今、こうして私があなたに語りかけているあいだにも、食っていますよ、絶対にそうだ」
食っている? 男の言葉をくり返した。
俺の反応が意外だったのか、ほんの少し目を見開いた後、愉快そうに口を歪めて、その口元に細い指をはわせながら、男は言った。
「そう、食っているんです、あの女は人間を、実にうまそうに食い続けているんですよ」
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