第3話
コミュニティ? コミュニティって何ですか。サークルみたいなものですか。
「そうよ、サークルみたいなものよ、最近よくあるでしょ、ちょっと有名な人が自分の趣味のサロンを開いたりして、ほら、イベントしたり、本を作ったり、仲間うちの有名人を集めて対談したり、そういう、主にオンラインのコミュニティのことね」
へぇ、そういうのがあるんですね、オンラインの趣味の集まりですか、
「多様性とか言うじゃない、あれはつまり、嗜好の細分化ということよね、学校の、同じクラスの中に同じバンドの同じ曲が一番好きっていう子は見つけられなくても、日本とか、それこそ世界とかなら、いくらでも見つけられるでしょ」
同好の士っていうやつですね、
「わたしそういう言葉はよく知らないけど、とにかく、同じ趣味を持った人たちだけがグループを作る機会が、いまは無数にあるということよ」
そうなんですか、
「ええ、それで同じ趣味っていうのは、音楽や小説や旅や恋愛っていうのはもちろんだけど、それだけじゃないでしょう、性癖とか、差別とか、悪いこととか、要するに何でもありなのね、ああこんないけないことをずっと考えてるのは世界できっと自分だけなんだって思っても、まったく同じことを考えてる人が、案外けっこういるものなのよね」
女性はそういうことを喋りつづけた。淡々とだ。
興奮して、早口に、酒でもつれる舌を何とか制御しながら一気にまくし立てるように、というふうにではない。その奇妙に落ちついた様子が、静かな狂気のようなものを感じさせた。
俺は圧倒され、間抜けで曖昧な相槌を打ちつづけることしかできなかった。
延々と話してさすがに喉が渇いたのか、女性はグラスに唇をつけてひと口飲んでから、面白いと思わない? と俺を見て聞いた。
「人間を食べたいっていう人の集まるコミュニティよ、どうかしら、とても面白そうじゃない、わたしはそこに入りたいの、あなたはどう、一緒に、それを探してみない?」
女性はそう言って、わたしはメイコ、と名乗った。
バーテンダーは無表情で、視線を落としたまま、同じグラスを磨きつづけている。
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