後日談
友達の友達
「よう、竹内何してんの?」
俺は机に向かっている友人に声をかけた。
「勉強だよ。もうすぐテストがあるだろ」
「偉いな。休み時間にも教科書眺めてるのか」
「こうしないと点が上がらないからな」
俺は竹内の前の席の椅子を引いて座った。
「竹内、今日の放課後空いてるか?」
「ん、予定は何もないけど」
それが? と目線で尋ねてくる。
「お前に長坂を紹介しようと思ってるけど」
カランという音が響いた。竹内がペンを落とした音だ。
「……本当か?」
「昨日のうちに長坂には言ってある。今日の放課後、教室で話すことになってる」
「分かった。話せるといいなー」
「長坂次第だな、それは」
そろそろ、チャイムが鳴る。俺は自席に戻った。
詩乃の勘違いを無事に解き、長坂にお礼をすることになってから二週間が経った。
長坂は学校終わりに自作ヒロインを見せにくるようになった。俺は毎回それを受け取りはするも、『嫁』にすることはなかった。
俺の好みを直接尋ねてきたのは、感謝を告げたあの日だけ。俺もそれに「趣味じゃない」と回答したから、日々、多種多様なヒロインが俺の元にやってくる。
長坂も手探りに俺の好みを当てようとしているのだろう。
放課後はきちんといつも通りにやってきた。
「あー、緊張する。本当に喋ってくれるのかな」
「俺には話してくれるんだから大丈夫だろ」
一旦、教室を出て、誰もいなくなった時間を見計らって戻る。長坂と話すにはまずそうしなくてはならない。お礼の申し出をした時、長坂にそうするように言われた。
長坂と普通に教室で話せるようになる日は来るのか……。今は分からない。
廊下を歩き、教室の前で立ち止まる。
「よし、入るぞ」
俺は一息に教室の戸を開けた。
教室には長坂の他には誰もいない。約束通
りだ。
「長坂、竹内を連れてきた。いいよな?」
昨日、許可は取ってあるが、一応、確認しておく。長坂はコクンと首を縦に振った。
ん? この長坂は……。
「紹介する。こいつが竹内だ」
俺は竹内を指差して言うが、長坂はそれに反応しない。俺の方も竹内の方も見ていなかった。
床を見つめて、俺達と目を合わせようとしない、素の長坂。
キャラを用意できなかったのか。俺もこの長坂を見るのはお礼を言った日以来だった。
キャラを被っている時は顔を上げて普通に話せているのに。何故、竹内と話そうとする日にキャラを用意していないんだ。
「な、長坂さん、こんにちは。竹内です」
竹内が自己紹介しても、長坂は何の反応も示さない。
数秒待って、竹内が俺に耳打ちしてきた。
「もしかして、避けられてる? 何も言ってくれないけど……」
「俺には話してくれるのにな。なんでだろ」
「長坂さん、俺のこと嫌いなのかも」
「そんなことは……」
俺と竹内のやり取りは小声だったとは言え静かな教室ではよく聞こえたのだろう。
「……ごめん、なさい……」
長坂が小さな体をさらに小さくさせて言った。
長坂と竹内を会わせたのは失敗だったか。
俺は何を言うべきか言葉が出てこない。
「こっちこそ、無理させたみたいだね……。俺、帰るよ。またな」
竹内は鞄を持って教室を出ていった。
それから、数分が経って、
「どうして、今日はキャラを用意してないんだ?」
疑問に思ったことを告げた。
「……た、竹内君が来るって言ったから…」
「素の自分を出そうとしたのか」
キャラを被って竹内に会うのは失礼とでも思ったのだろうか。
「……少し、違う……」
長坂は俺の考えを訂正してきた。
「わ、私がキャラを演じるのは…あ、相川君の前だけって決めてるから……」
「それは……」
長坂にしてはかなり積極的な発言だった。俺は言葉に困る。
「……今日はキャラを作ってないから、もう話せない……」
「悪いな。余計なことして」
「あ、謝らないで……」
長坂は最後まで申し訳なさそうにしながら教室を出ていった。
「あーあ。何してるんだか」
一人になった教室で呟く。
長坂を普通に会話できるようにさせたいと思っての計画は、完璧に失敗だった。
長坂と竹内の初会話は残念な形で終わってしまった。
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