高性能なスキル
まったく、ミツハはなんで突然そんな事を言い出すのか。
俺のスキルの性能が悪いなんて。そそそそんな訳ないのにな。
「名探偵のスキルなんだから高性能に決っているだろう。まぁどうやって使うのかはよく分からないがな!」
「ゴロちゃんてば、そんな自信満々にいう事じゃないでしょ。でも私も使い方なんて……えっ!!」
和やかに話していた俺たちの後ろで不意にガサガサッという音がした。
振り返るやいなや茂みから何かが飛び出してきた。これは……狼っ!?
ここが前世と似たような生態系ならあれは人を襲う。
もし違う生態系だったとしてもあいつ俺たちを襲う。はっきりわかんだね。
グルルという低い唸り声を上げてこっちを見ている狼。
おいおい、俺達を肉親の敵か何かと勘違いしているんじゃないか?
何もしてないよーなんて言っても、もちろん見逃してくれる筈はない。
こうなったら戦うしかないのか……でも素手でどうやって?
はぁ、生き返ったと思ったらいきなりの大ピンチだ。
あのじいさん、もっと都合のいい所に降ろしてくれよ。
やっぱりじいさんの持っていたっていう杖は安物だったのかもしれない。
そんな事を考えていたら突然、狼がミツハに向かって飛びかかってきたのが見えた。
狼との距離は5メートルほどか。間に合わない距離でもない。
ここで動かなきゃ……探偵……いや男性じゃねぇ!
「こっちだおらぁぁ!」
ミツハに向かう狼の横腹に横合いから前蹴りを叩き込むことに成功した。
ちょっと前にあの神童の動きを研究しておいて良かったぜ。
まぁ全く効いてなさそうだったが、多少の衝撃はあったのかミツハへの攻撃は逸れてくれた。
反撃したことで警戒を強めたのか少し離れた所からこちらを睨んでいる。
それにしても蹴った時の"重さ"はなんだ?
なんというか砂が目一杯詰まった土嚢を蹴飛ばしたみたいな感触だった。
あの攻撃を何千発入れても倒せる気は全くしないな。
むしろ先に脚がぶっ壊れるだろう。
目の前の狼は尚も低く唸り、時折ガァッだかゴオッだか吠えてくる。
その度にビクッとなるミツハが可哀想だ。
もちろん俺もビクッとするんだけどな。
っていうかさっきの蹴り痛くなかっただろ?そんなに睨まないでくれよ。
ちらりと見るとミツハはこの状況に小さく震えているようだった。
あのいつも朗らかなミツハがそんな風になる所なんて見ていたくない。
なのにこちらからは何の打つ手もない、それが悔しかった。
ジッとした睨みあいでちょっとした時間は稼いでいるものの、このままでは埒があかない。
こりゃあ即ゲームオーバーでまたじいさんの所からやり直しか?それともバッドエンドか?
いきなりのハードモードだな、と思った所でミツハの後ろの茂みがまた怪しく揺れた。
ん、この揺れはさっきあいつが出てきた時と同じっ!?もう一匹いるのか?
もしやさっき吠えていたのは合図だったか。
「ミツハっ……!!」「きゃっ!」
咄嗟にミツハを突き飛ばしたのは我ながら良い判断だった。
もしかするとこれこそが<推理(迷)>の効果かもしれないな。
ただ、それなら……ミツハのいう通りじゃないか。
ちょっと足りないよ……性能が。
「ゴロちゃんっ!!」
なんとかミツハを守れたが、その代償として俺は右腕に浅くはない裂傷を負ってしまった。
ポタポタと流れる血がミツハのものじゃない、それだけはよかったか。
噛まれたのか引っかかれたのかした腕は、痛い……というより熱い。
なんだか怖くて傷口を見ることも出来ない。三十にもなって情けないか?
でも結局"いま"はミツハを助ける事ができたけれど……ゲームオーバーまでの時間が延びただけ。
ん?いや、もしかしたらここはどこか街の近くで、誰かが助けに来てくれる可能性も……。
よく見れば森はキチンと手を入れられているし、それに木を伐採した跡もある。
こいつは時間さえ稼げばワンチャンあるか?
……こいつらの見た目がワンチャンなだけに……あ、こんな事考えてたら死ぬわ。
そんな考えをバカにするかのように狼達が目の前に二匹揃った。
お互いの姿を確認しあっているその様は打合わせをしているようにすら思える。
同時に行っちゃう?じゃあ俺は女ね、あのおっさんは脂っこそうなんて話しているのだろう。
俺はまだ腹も出てないし脂っこくないぞ。失礼しちゃうな。
たまにトレーニングという名目で引っ越しのアルバイトもしているし筋肉もあるはずだ。
くそ、こんな時だっていうのに頭に浮かぶのはフザけたような事ばかりで困る。
生き残る事を考えろ、ミツハもいるんだぞ。考えろ……考えろ……。
そうだ!切ってある木を見て年輪で方角を……じゃない、穴を掘って飲み水を……違う!
こんな時に使えるサバイバル情報をどうにか記憶から絞り出そうとするも焦りからか上手くいかない。
死んだふりは絶対に悪手だ、それだけはすぐに分かるけどな。
そもそも狼達がそんな隙を見逃してくれる訳がない。
今だって二匹揃って大腿部に力を溜め込んでいる。
あれが解き放たれたら……まぁ終わりだろうな。
そしてその時はすぐにきた。
タイムリミットだ。
ミツハ……すまない。不甲斐ない雇い主で申し訳ない、そう思いながら最後にミツハを焼き付けようと振り返る。
「……ちゃんを……」
ミツハは何かブツブツいっていた。
もしかして念仏を唱えているのかもしれない。
そうだな、もう諦めてせめて痛くしないでネと願うのみか……。
そんな俺の予想は裏切られた。身近な女の子によって。
「……ゴロちゃんを……傷つけたなぁぁぁ!!」
突然、視界が真っ赤に染まると同時に耳をつんざくような轟音と熱波が俺に襲いかかって来る。
ああ、これは…………
目の前が暗くなり、俺は意識を手放した。
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