♡50 アニーとみきちゃん 2/『ラブラブきゅんきゅん』お姫様抱っこ禁止!
「おい、貴様。それでも男かっ」
「こら、みきちゃん。小山くんをいじめないで!」
「ひっ。かな子、本気か。なんでそんなもっさりして根暗そうな奴をかばうんだよ。今までの私たちの友情を思い出しなさい。おいしい食事をくれるからって、心まで許してはいけません」
「いいんだもん。かな子は小山くん大好きだもん」
と、くるっとこちらを向いて、
「ね、小山くん。わたしたち仲良しよね?」
なんて言えばいい。朝倉先輩の向こう側には、メラメラと燃え盛る怒りの炎が見える。荒ぶる元会長を敵に回して、僕は無事クラスに生還できるのでしょうか。
「ね、小山くん。かな子とラブラブきゅんきゅんだもんね」
「ら、へ?」
ラブラブきゅんきゅん!
と、僕だけじゃなくて、あちらのみきちゃんも衝撃を受けたらしい。よろろっと倒れそうになっている。
「か、かな子。二股はいかん。しかも、こいつと股をかけても損するだけだぞ。やるならもっといい男を選べよ。なんだって、こんな、もっさ」
「うるさいよ、みきちゃん。かな子は小山くんが一番好きなの」
「ひぃ。や、やめてくれ。女の友情は大切だぞ。簡単に男を選んじゃいかん」
「あ、あの」と僕は声をかける。が、無視だ。
「小山くんはいい人なのっ」
「うそだ。かな子、病院に行こう。きっと目か頭がおかしくなったんだ。よく見ろ、もっさりメガネだぞ」
「みきちゃんは小山くんを悪く言うから、きらいっ」
「き、きらいだとぉぉぉ」
ぐらりと横揺れしたかと思うと、みきちゃんさんは地面に倒れ込んだ。あまりにドサリと倒れてしまったので、僕は心配になって彼女に駆け寄る。
「大丈夫ですか。おーい」
「あぁ、なんてこった。飯田も危険だと思っていたが、まさかこんな冴えない男に、か、かな子が騙されるなんて」
がくっ。死んだ。……わけじゃないが、魂が抜けたようになる。
「先輩、ねぇ、川田先輩ったら」
抱き起してゆすったが、ぐらんぐらんしているだけ。
目は虚ろで、口は半開きだ。
「大変だ」
僕は保健室へ行くために、彼女を抱いて立ち上がる。
すると、朝倉先輩が、「小山くん!」と叫び声をあげた。
「え、どうしました? 大丈夫ですよ。すぐに運びますから」
「ちがう」
「え?」
「お姫様だっこはダメ。みきちゃんの王子様になっちゃいやなの」
「は?」
「いやなの。みきちゃんは別の人がいるはずなの。小山くんじゃないの」
「あのぉ?」
ぺちりと頬を叩かれた。なんだか、さっぱりわからん。
「保健室行かないと」
「かな子がおんぶする」
「重いですよ」
「誰が重いじゃ」
「あ、起きた?」
気づいたと思ったら、暴れ出す川田先輩。
「おろせ、変態。どこ触ってやがる」
「そうよ。おりてよ、みきちゃん。小山くんが重いでしょ。ほんと、みきちゃんは、エッチね。小山くんに、くっつかないでよっ」
「な、なんだって!」
「みきちゃん、やらしいよ。小山くんが気持ち悪がってるもんっ」
「ひっ。私が気持ち悪いだと!」
また、ショックで気を失いかけている。僕はそっと地面に彼女を降ろしたのだが、また、よろろとふらつくので、体を支える。と、朝倉先輩が、「もう。みきちゃん、立ってよ!」と足踏みして怒り出した。
「先輩、川田さんは体調悪いみたいなんで」
「悪くないよ。みきちゃんは水浴びしたって、風邪ひかない人だもん」
「で、でもですね」
「やだもん。どうして小山くんは、かな子には冷たくて、みきちゃんには優しいの?」
優しいのか? とにかく、片方はふらふらしていて、片方はプンスカしているので、僕はそっと地面に川田先輩を座らせると、彼女からは距離をとって朝倉先輩寄りに移動する。
「みきちゃん、しっかりして。じゃないと置いていくわよ」
厳しい人だ。
「はっ。か、かな子。私と友達やめないでよ。ね?」
「じゃ、小山くん、いじめない?」
「いじめないよ。たぶん」
「たぶん?」
仁王立ちでにらむ朝倉先輩。しゅんと地面で肩を落としている元生徒会長。力関係がなんとなく読めた。
「かな子が小山をお気に入りなのは分かったよ。でも、二股はよくない。かな子のイメージじゃないだろ? 小山だって嫌だよな?」
「え」と僕。頭の中が真っ白だ。
それでも、飯田先輩と別れることには賛成だから、
「そうですね。飯田先輩とは、はっきりさせたほうが」
「だろ? それは私も同じだ。あいつ、エロいんだよ」
「ですね」
ふいに、二人のキスシーンが浮かんだ。あのブチュッてキス。
汚いなって思わず吐きそうになるキスだ。それに、噂では、飯田は朝倉先輩のほかにも、たくさん女子に手を出しているらしい。
「小山よ。お前に期待してもいいか」
突然立ち上がり、重々しくみきちゃん先輩は言った。
「き、期待ですか?」
何事をさせられるんだろう。
「あいつ、飯田をぶちのめしてくれ。私も何度か厳しく言ったんだが、正直、こっちの腕力じゃかなわんのだよ。竹刀でぶん殴るか、原付ではねてやろうかとも思うんだが」
「そ、それはもう少し待った方が」
「だよな。こっちが逮捕されちゃかなわんからな」
「そうですよ。話し合いで」
「かっ」とつばを吐く勢いで、罵られた。
「甘ちゃんか。んなもん、無理だ。あいつは大バカなんだ。これじゃあ、いつ、あいつにかな子が汚されるか、分かったもんじゃ」
「もう、汚れちゃった」
「えっ」
僕とみきちゃん先輩が同時に朝倉先輩を見る。
朝倉先輩は悲しげに眉を下げて、
「いっつも、ブチュって。お胸もお尻もつまんでくるの」
「な、なんたるこったぁぁぁ」
宇宙にまで届きそうなほどの絶叫が響いた。
川田先輩は頭を抱えると、よろろとまた地面に倒れ込む。
「し、知らなかった。まだ、ハグですんでいるかと」
「ううん。ブチュってして、ぺろぺろして」
「や、やめろっ。聞きたくない」
耳をふさぐ川田先輩。僕もドキドキしたが、ちょっと正確な情報を確かめたくなって、思い切って朝倉先輩に尋ねた。
「あのペロペロって……?」
「顔舐めるの。あと、首」
「ああ」かなりキワドイ。でも、ここで寸止めなら……
「あのぉ……」と訊きかけて、やっぱりやめた。聞かなければ、無に等しいんだ、うん。ないない。彼女は無事だ。うんうん。
「とにかく、飯田先輩とはお別れした方がいいですね」
「うん。かな子もそうしたいの。でもね、『かな子の彼氏なの?』てたくちゃんに聞いたらね、『そうだ』って言ったから、『じゃあ、お別れしましょう』って話したんだけど、『ダメだ』って言われたの」
「そうなんですか」
ぐだぐだやっているのかと思ったら、案外はっきり断っていたようだ。でも、向こうは手放す気がないらしい。今日だって、登校したときに、朝っぱらから下駄箱でイチャイチャしているところを見たばかりだった。
二人で抱き合って、べったりくっついて……
不快だったから、そそくさと逃げたのだが、もしかしたら、朝倉先輩は彼に襲われていただけだったのかもしれない。
そうだ。いままでだって、ちゃんと考えてみれば、朝倉先輩はいつも苦痛そうだったんだ。カップルなんだからと流していたが、それですませてはいけない問題だった。朝倉先輩は愛らしいから、飯田先輩がしつこい態度をとる理由も分からないでもないが……
でも、大切にしているならまだしも、飯田先輩に朝倉先輩に対しての、ちゃんとした愛情があるようには思えない。絶対ない。
うん、僕は決めたぞ。
「たくちゃん先輩を、やっつけよう!」
天にこぶしを振りあげると、おーっと賛同する声がふたつ聞こえた。
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