♡29 コインランドリーの怪事件 1/『パンツ盗まれちゃった』宇宙海賊はお兄様
雨が降っています。
かれこれ三日連続。洗濯物が乾きません。どうしましょう。
「コインランドリーで乾燥してこようかな」
僕はどっさりたまった生乾きの洋服たちに埋もれていた。
三日でこんだけたまるのか、というとたまる。うちはたまる。
かな子さんはファッションモデルだけあって、洋服持ちさんで量がやばい。それを日に何度もとっかえひっかえして遊ぶ。で、土いじりも好きなので汚す。
最近はベランダでいそいそ泥団子を作っているのを発見した。ちょっとびっくりしたけど、かなりのこだわり団子を作っていたらしく、完成品は玄関に展示するといってきかなかった。
それは今もちゃんと展示してある。たまに宅配便のお兄さんが見てびっくり顔をするが、たぶん何かの糞かと思うんだろう。そんなものは、さすがに朝倉家でも飾りませんよ。
と、まぁ。そんな遊びを繰り返すのがかな子さんだ。雨とくれば水溜りダイブといって「とうっ」と掛け声とともに水溜りに飛び込んでもいる。
だから汚れる。そして、生乾きの服がたまる。いいんです。べつにグチってませんから。むしろ、のろけてるんで。と、なんの話だっけ。そうそう。コインランドリーに行こうかって話です。
「かな子さーん。ちょっと出かけてきますね」
僕はリビングで『くまボンと宇宙海賊団』という劇場版くまボンアニメを見ていた妻に声をかけた。彼女は、ピッとリモコンで停止ボタンを押すと、こちらを向いて、「なにかいった?」と聞き返してくる。
「外、出てきます。コインランドリー」
洗濯物を入れた布バックを持ち上げてみせる。すると、
「ん? じゃ、アイス買ってきて。ガリゴリくん」
と、すぐに再生ボタンを押す。
『出たな、宇宙海賊・ゴルゴンゾーラ。吾輩が相手をしてやる』
『ふははっ。貴様がくまボンか。久しぶりだな』
『な、なに。お前は初対面のはずである。なぜに、久しぶりと言うのか』
『それはだね……』
ごくりと息を呑むかな子さん。
もう何十回も観てるんですけどね。画面に食い入ってます。
『ま、まさかっ』
さっと顔色が変わるくまボン。
(僕には黒毛にまみれている熊の顔なので顔色の違いは分からないのだが、どうやらハートでその変化は透視できるらしい・かな子談)
『ふふふ』
と宇宙海賊・ゴルゴンゾーラはかぶっていたお面(宇宙海賊なのになぜか赤天狗の仮面)をもったいぶった態度で外す。
『う、嘘だっ』
ゴルゴンゾーラの素顔を見たくまボンが膝から崩れ落ちる。
かな子さんも「なんてこった」と声を上げる。(毎回驚けるのがすごいと思う)
『くま吉兄さん……』
『弟よ、すまない』
そう。誰であろう宇宙海賊・ゴルゴンゾーラは、くまボンの兄くま吉だったのだ。ちなみに、くまボンには十二人の兄弟がいて、くま吉兄さんは三番目。くまボンは末っ子なのだとか。
……って、どうでもいい。なんだか込み入った展開を迎えている『くまボンと宇宙海賊団』だが、それよりも我が家の洗濯物がピンチだ。
「かな子さん、お留守番よろしく」
「うーす」
ひらひらと画面に見入ったまま手を振るかな子さん。
僕は帰りにコンビニに寄らないとなぁと頭にインプットしながら、玄関を出たのでした。
そして、一時間後。なんやかやありまして、コインランドリーから帰ってきたのですが……
「ヒロくん、おパンツ盗まれちゃったの?」
ガリゴリくんをガリゴリ食べながら、かな子さんが目を丸くする。
僕は大きく肩を落とし、
「はい、盗まれました。テントウムシ柄とヒヨコ柄です」
と打ち明ける。パンツが……、下着泥棒にあったのです。
乾燥中、ちょっとコンビニに行ったのが間違いでした。
注意喚起のポスターが貼ってあったのに。まさか、まさかの下着泥です。
「ガーンですね、ガーン。かな子、ヒヨコ柄おパンツ好きだったのに」
ヒヨコ柄のおパンツ。お尻にはPIYOPIYOの文字と二羽のヒヨコがプリントしてある。さらに、それだけじゃなく、かな子イチ押しポイントは前プリントで、切込みのところからヒヨコが「家政婦は見た」的なかんじで顔をのぞかせ、「見ちゃやーよ」とローマ字で文字が書いてあるのだ。
かな子さんが雑貨屋で見つけて買ってきてくれたもので、かな子どストライクデザインだったらしく、うひょひょーとハイテンションで見せてくれたパンツでした。「ヒロくん、ヒロくん。ぜったいモテモテになるよ」ってまぁ、それはもう「はいてみせろ」と恐ろしいほどの強引さで、ズボンを脱がそうとしてきたので、急いでトイレに逃げ込んだという愉快な思い出がって……
あ、パンツというのは、僕のですよ。はい。
かな子さんの下着は、外に持ち出したりしませんので。
正直、このヒヨコパンツもテントウムシ柄パンツも、なくなったらなくなったで困ることはないのですが。むしろ、なくなれば今後はかなくてよくなるし……、誰に見せるわけでもないですけどね。ちょっと僕には冒険的すぎるパンツだったので恥ずかしかったのです。
でも、やっぱり下着泥だと思うといい気分じゃないです。
僕のパンツ。誰が盗んだんでしょう。
「たぶん、間違えて盗んだんだと思うんですよね」
「と、いいますと?」
「あのね、あれって、派手なデザインだったでしょ。というか、かわいいデザイン? だから、男ものだとは思わずに盗ったんじゃないかと。広げて、サイズ見れば気づくと思いますけどね」
「ふーん。で、おまわりさん、呼んだの?」
「いやぁ……それが」
――2につづく。
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