堕天
手元に広げていた週刊誌から窓の外に目を遣る。西日は臆病な子供のようにビルの背に沈みかけていた。
特集記事は実にいい加減なものだった。威勢のいい表紙の煽り文とは裏腹に、中身は殆ど新聞報道の焼き直し。女性ばかり狙われる連続殺人です。被害者は全員首を裂かれており、警察は長身の男性による犯行と見て捜査しています。が、遺留品は皆無です。断片的な事実の乱数表。まるで小学生の作文発表じゃない。殺人が起きました、女性がたくさん死にました、楽しかったです、終わり。
私は死んだ女性達を思った。彼女らの中には以前から知っている顔もあった。当然だ。私や彼女らの子供達は皆、同じ私立の小学校に通っているのだから。彼女らは所謂ママ友だった。参観日の時、子供の中学受験や学習塾の評判について議論している様子を見て、随分教育熱心なんだな、と感心した記憶がある。彼女達が一人のママ友を虐めていたことも、だから知っている。
燻る教育熱が、出来の良い娘を持った気弱な母親への嫉妬となって燃えあがる。遣る瀬無い話。彼女は散々虐められた挙句、自殺した。天国へ行ったのだろう、と私は思う。でなきゃ救われない。続けざまに死んだいじめっ子達は皆、地獄に落ちたに違いない。でなきゃ救われない。虐めは良くない。なんて、私が言えた台詞じゃないか。
私は警察の無能ぶりに、憤りにも似た感情を覚えていた。
殺人犯が今どこで何をしているか、見当もついていないなんて! 愚鈍な警察は警察署にいて、私はマンションの七階にいて、いじめっ子達は地獄にいて、犯人は今、どこにいる?
ピンポーン、と音が鳴り、私は顔を上げる。
頭上にあるインターホンの奥から犯人の声が返ってきた。母を殺した犯人は、私を家に入れてくれた。エレベーターの中から見たのと同じ夕陽が、天から垂れる蜘蛛の糸のようにカーテンの隙間から射しこんでいます。
しゃがんで、と私はいつものように笑顔でせがみました。
終わり。
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