第3話 2ーD組 黒咲美崎
校舎内の混乱を避け、校舎から一人脱出することに成功した私は生徒会室に向かって爆走していた。
『生徒会役員は終業式終了後、来年度に向けての引き継ぎ業務と夏季休暇中の諸事確認を生徒会で行うため、HRは免除される』
この事実を私にリークしてくれたのは他ならぬマイラブ親友の
どうなるかなんて火を見るより明らかだ。今頃、東棟校舎は
うちの学校は生徒数がそこまで多いわけでもないので、校舎は単純に東棟と西棟の二つ、そして東棟と西棟の間には中庭があり、この中庭が若干広めに取られているため渡り廊下がない。東棟から西棟に行くにはどうやっても東棟から出る必要があるのだ。ふふふ、全てが私にとって有利に働いている。あーこれが運命ってやつなのかなー!パラリラパラリラやっぱなー他の皆さんも色々あったんでしょうけどブォンブォンブォボボボボボ私に比べると二枚も三枚も落ちるっていうか、私と国塚先輩との間にある絆?これってLOVE?にはかなわないっていうかビーッビーッ!ブロロロロロこれがいわゆる愛のチカラってやつかなって、ちょっとさっきからうるっさいな私のLOVE♡モノローグに割り込まないでよ!と後ろを振り返ったら金髪サラサラ黒セーラーのバリバリヤンキーが木刀片手に原付きで私に追いつこうとしています。
「でえええええええ!?ちょっと待って待って待って!何それ反則うわっと!?」
「オラオラオラオラァ!」
いくら私でも流石に原付きからは逃げられない。追い抜かれざまに振るわれた木刀を咄嗟にジャンプで躱す。うっわー普通に振り抜いてきたよ今の。ヤンキーはそのまま片手でブレーキングして後輪を滑らせながら原付を止める。乗り慣れてる、っていうか原付き乗ったまま木刀振ることに慣れてる動きだ。
「チッ、良く躱しやがったな。つーかテメエもアイツ目当てかよ
「あはははは、いやーそういう黒咲さんこそ、まさかそうだったとは……」
2―D組、
「他の女共やテメーと一緒にすんな。アタシはアイツに返しきれねえ恩があんだよ」
「へーどんなの?雨の中、高架下の捨て猫にかまってる時に傘と毛布とミルクを差し出されたのが切っ掛けで、その後自分だけ風邪引いたのを看病されたりして、そのまま家庭内の複雑なゴタゴタも親身になって解決してくれたりしたの?」
「……なんで知ってんだテメエ、誰から聞いた。誰にも話した事ねえはずだぞ」
うっはー適当に並べたら全部当たってやんの。まあ要するにそういう人なんだよね国塚先輩。もしかしたら国塚先輩は一人じゃなくて三人くらいで分業してるんじゃないかしら。
「や、そもそも黒咲さんはどうやってここにいるの。HRとかどうしたの」
「アタシがそんなモン出てると思うか?」
ご尤もでございます。
「あとさ、その原付きと木刀はちょっとその」
「ああ、なんかカス共がくだらねー取り決めしてたみてぇだな。けどアタシにゃそんなもん関係ねえ。何故ならアタシは、不良だからだ!」
ご尤もでございます。
「つーかアタシはな、テメーらのそのクソくだらねえ馬鹿騒ぎをぶっ潰すために、わざわざ登校してきたんだよ。そんで最初に目についたのがテメエってわけだ」
木刀の切っ先を突きつけながら黒咲さんは吐き捨てる。その三白眼の目には、はっきりと侮蔑の色が浮かんでいた。
「ぶっ潰すって、そんな物騒な。なんでまた」
「天津坂、お前もアイツに助けられたクチだろうが。だったらなんで分からねえ。……アイツは昨日も今日もそこら中飛び回って人助けしてやがる。きっと明日も明後日もこの先ずっとだ。それこそいつ休んでんだか分からねーくらいに。アイツがなんでそこまでするのか、何のためにやってんのかは分からねえ。けど、ジャマしちゃいけねえ。それだけはこんなアタシでも分かる」
そういう黒咲さんの目には、少し涙が浮かんでいた。それが誰のために流されている涙なのかは、きっと黒咲さんにも分かってない。
「なのにテメーらは惚れた腫れただのクソくだらねえ事を、発情期のネコみてえに喚き散らしながらアイツにすがりつこうとしてやがる。一人残らず、アイツに助けられてるのにだ。アタシはそれが、我慢できねえ」
黒咲さんは再び原付きのエンジンを吹かしながら、左手の木刀を突きの型に構える。さながら
ここで、黒咲さんを折るしか無い。
じゃあここは一発、開戦の狼煙を派手にあげよう。マイラブ透子ちゃん、あなたの辛辣を私に貸して。
「……そっか、黒咲さんは許せないんだ。それは」
銃弾を込める。弾は一発、それで充分。
「アン?」
貫け、私の
「国塚先輩のことが好きな自分を、黒咲さん自身が許せないから?」
「―――。」
黒咲さんの小さな黒目が開かれた。
黒咲さんは無言でスロットルを全開、一旦こちらに背を向けて、あさっての方向に加速し始める。もちろん逃走のためではない。全力全開の
大丈夫、私はやれる。イメージはもう固まった。あとは体でなぞるだけ。
反転し、時速数十キロまで加速して突っ込んでくる黒咲さんに向かって、私は駆け出す。一瞬、黒咲さんの突き出した木刀が僅かに下がるのを私は見る。衝突まであと5、4、3、ここだ。
ダッシュの勢いを殺さず、右へサイドステップしながら沈み込む。
一瞬、私は黒咲さんの視界から消える。
勢いはそのままに両手を地面へ、左足を軸にネジのように右回転。
私の右足が跳ね上がり、弧を描いて打ち出される。――
私の右足に巻き取られ、へし折れた木刀が宙を舞う。
真っ二つに折れた木刀を挟んで、ブレーキを掛けた黒咲さんと私が対峙する。
決着はついた。
「アタシの、木刀……」
原付きを地面に放り出し、黒咲さんがヨロヨロと木刀に近づく。
「アイツが一緒に選んでくれた、アタシの木刀が……!」
跪き、折れた木刀を両手に持って黒咲さんは泣き出してしまう。
そうじゃないかなーとは思ったけど、やはりそういう曰く付きの木刀だったか……
いやだからといって原付き乗ってる黒咲さん自身にカウンターでケリ当てたら死んじゃうし。そして、黒咲さん自身にダメージがない以上、しばらくすれば黒咲さんは立ち上がって再び追いかけてくるだろう。だったら、チャンスは今しか無い。
心の折れた黒咲さんを残し、私は西棟へ足を踏み入れる。
「ごめんね」
私は心の痛みに耐えきれなくて、思わずそう呟いてしまう。
そうだ、私は全く分かってなかった。
150人を出し抜いて、私が国塚先輩の横に立つということは、最初からこういう事なのだと。
それでも私は前に進む。決意を持って始めた以上、止めることなど出来ないのだ。
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