第23話 塔の再構築とファンタズマゴリア
23話(著者/ミステス) 塔の再構築とファンタズマゴリア
「いてて…」
「まったくこりないね星神君は!」
「あなたたちこんな時になにをやっているのよ…」
こんな異常事態にも関わらずいつも通りのやりとりをする氷矢と彩。
それをみてメーネたちはあきれながらも少しだけ安心を覚えた。
一方。
「ここはどこなの?ていうか私は一体…」
事情をほとんど把握していない美羽はかなり混乱していた。
否、把握していないどころかここ最近と記憶も曖昧だった。
「そうだ、透の言われたとおりに透を燃やして…あれ…?」
美羽は顔を真っ蒼にしながら呟く。
「私が…私が透を…」
美羽が断片的に取り戻した記憶は、自分が愛していた人間を自らの手で燃やしてしまったという事実だった。
「うあああああああああああ!」
美羽はその事実に耐えられず絶望の慟哭をあげる。
「いけない、美羽さん!」
里香がとっさに美羽を抱きしめるが美羽の絶望はとまらない。
「ニクス!お願い」
「里香?しかし…」
里香はニクスの魔法で美羽の記憶を封印しようとした。
その時。
「ちょっと待て」
氷矢がそう呟きながら美羽に近づく。
そして美羽の方に触れながら魔法を行使する。
「すこし眠ってもらうぞ」
その瞬間美羽が力なく崩れ落ちる。
それを里香がしっかりと抱きとめた。
「星神君?何をしたの」
「凍結魔法の一つの意識凍結だ。触れている人間の意識を一時的に奪うことができる魔法だ。もっとも心が弱ってる人間にしか使えないんだがな」
氷矢は彩にそう説明する。
「会長さん。ニクスの魔法は強力な凍結魔法しか使えないんだろ?美羽先輩を何年も閉じ込めるつもりか?」
「すいません。助かりました氷矢君。どうも美羽さんのことになると冷静ではなくなってしまって…」
「とりあえずこれで美羽先輩は当分目を覚まさないだろう。あれだけ心が弱っていれば意識凍結の効果はかなり高いはずだ」
「どうして美羽さんを気絶させたの?」
その的外れな質問に氷矢はこけそうになりながら
「いや、あの様子見ただろ…あの調子じゃ心が壊われちまうよ」
「あ、そっか。でもなんであんなに取り乱してたのかな?」
「それは俺にもわからねえよ。ロリ先輩も知らないのか?」
「うん。わからないよってだれがロリじゃこらあ」
またしても見事なドロップキックが氷矢の腹に直撃する。
「いい加減にしなさい。そんなことしている場合じゃないと言っているでしょう?」
堰を切ったようにメーネが言った。
「いてて、そうだよ俺はわけがわからないままわけわからないとこに連れてこられて正直意味わかんねーよ…ここが精霊の塔ってとこなのか?」
腹を抑えながら氷矢が言う。
「そうよ、ここは精霊の塔。今まさに塔の再構築が始まってしまった精霊の塔よ。本来は人間が訪れるのは禁忌とされることだけど調律者の力で入ったのだから問題はないでしょうね」
「調律者?」
聞いたこともない言葉に首をかしげる氷矢。
「まさか、さっきの人が調律者だっていうんですか?」
里香が驚きを隠し切れずに言う。
「多分ね、そうだとしたらいろいろとつじつまが合うわ。まあそのことは今はたいした問題ではないからおいておきましょう」
「そうだよ。俺たちは一体何をすればいいんだ?それとあそこにいる人間は蓮っていう俺の知り合いだし、そもそもお前は一体何者なんだ?」
「私はメーネ。精霊の塔の守護者。もっとも今はこう名乗っていいのか微妙なところだけど」
メーネは自嘲気味にそう名乗る。
「精霊の塔の守護者?」
彩がちんぷんかんぷんといった感じで混乱している。
「そこの御三家のお嬢さんはある程度知っているかもしれないけど。あなたたちにはいろいろ説明する必要がありそうね」
メーネがため息をつきながらそう言うと氷矢たちに説明を始めた。
精霊の塔の役割について。
自分が蓮とともに行動していたことにについて。
足立透と姫神美羽について
そして蓮と鈴について。
「なるほどな。よくわからんけどとりあえずここは精霊の塔で、その塔が今異常をきたしていて、それを修復するためにいま塔が再構築しているからそれを止めろってことか?」
「どうした兄弟?いつになく理解が早いじゃねえか」
ガルフリードが驚きの声を上げる。
「うるせえな。記憶が戻ってからなんか頭がすっきりしただけだ」
氷矢がガルフリードに言い返す。
「その通りよ。ここにこれた以上、塔の再構築はまだ止めることができる。私が存在できている今ならまだ私にも多少の権限がある。あの蓮がいるところまでいけば私の権限で塔の再構築を止めることができる」
メーネは氷矢にそう答えた。
「でもメーネさん?なんで塔の再構築を止める必要があるの?塔が修復しようとしているならむしろいいことなんじゃ…」
「そう、俺もそれを聞きたかった。なんで俺たちをこんなところまで連れてきてまでそれを止める必要があるんだ?」
彩と氷矢がメーネに問いかける。
「それはあなたから説明したほうが早いんじゃない?御三家のお嬢さん?」
メーネの目が里香を見据える。
「そうですね…」
里香は話し始める。
「精霊の塔は本来異常をきたしてはいけないんです。それを阻止するために存在するのが私たち御三家と氷矢君の三柱の一族なのですから。通常は塔が異常を察知し、再構築を始める前に対処しなければいけなかったのです。その点に関して言えば今回は手遅れですが」
メーネがすこし悲しそうな顔をする。
「精霊の塔は、下界とも密接な関係を持っています。だからもし塔の再構築を終えてしまったら下界にどんな影響がでるかわからないのです」
「下界に影響?」
「はい。それは地震などの災害が起きるかもしれませんし。精霊が凶暴化して人を襲うようになるかもしれない。詳しくはわかりませんが下手をしたら世界が終わってしまうことすらありえるのです」
「世界が終わる!?」
彩が大声をあげてのけぞる。
「だからこそ塔の再構築は止めなければならないわけよ…私も消えたくないしね」
メーネが少しまじめな声で言った。
「そういうことだったのか…じゃあ急いであそこまでいかないとまずいんじゃねえか」
氷矢が慌てる。
「そうね、まだ少し時間はあると思うけど急ぐに越したことはないわね」
じゃあとりあえず急ぐか」
氷矢がそう言うと一同はその場をあとにする
「氷矢君…」
そのときいままで言葉を発していなかった金狼が氷矢を呼ぶ。
「…あの時はありがとう。俺を助けてくれて…そして、本当にごめん…俺は父さんたちを…」
「すべて思い出したんだね…いいんだ、むしろあの時君が動かなかったら私も君の両親も殺されていた。君は私たちを助けたんだよ」
「でも俺も魔法は暴走して…父さんと母さんは…」
氷矢は少しうつむく。
「…今はそれどころじゃないよな。ここを出たらまた話そう」
「ああ…」
そして今度こそ氷矢たちは蓮と鈴がいる方向へ向かった。
「蓮!」
目的の場所に到着し、氷矢が蓮に駆け寄る。
「しっかりしろ蓮!」
氷矢は蓮を起こそうとするが、蓮は目を覚ます気配がない。
「無駄よ」
メーネが氷矢を制する。
「ここ精霊の塔では本来気を失うということはないの。ここで意識を失う人間は心が折れそうになっている人間だけよ。今の姫神美羽のようにね」
メーネはガルフリードが背負っている美羽を見ながらいった。
「心が?」
「蓮は何らかの原因によって心に深い絶望感を持ってしまった。それによって精霊の塔の中で眠りについてしまった。こうなってしまったらそう簡単に目は覚まさないわ」
「なんらかの原因っていったいなにが…」
「まあ想像はついているわ。ねえ、そこのあなた」
メーネが見る方向には少女が立っていた。
「私は精霊の塔の守護者、メーネ。あなたたちここに来るということがわかっているの?」
少女はメーネと名乗り、メーネと同じ口調で話し始める。
「お芝居はやめにすることね。私が存在している以上、新たな守護者が完全に誕生することはありえない」
メーネが少女を一蹴する。
「まだ私は消えていない。返してもらうわよ。権限はつど」
メーネが権限により塔を取り戻そうとしたその時だった。
「それは困るなあ」
突如として氷矢たちの前に男が現れた。
氷矢はその男に見覚えがあった。
「海神…凶矢!」
氷矢はその男をにらみつける。
「まさか調律者が出てくるとなさすがの俺も予想外だったわ」
男はそう呟くと。氷矢を見据える
「よお、久しぶりだなあ星神のクソガキ」
「はああ!」
氷矢は氷の剣を展開し凶矢に打ち出す。
「無駄だ」
だが氷の剣は凶矢の体をすり抜けてしまった。
「今の俺は幻みたいなもんだからなあ攻撃しても無駄無駄」
「なぜ貴様がここにいる!」
氷矢は憎しみのこもった目で凶矢を見る。
「おお怖い怖い、どうやら記憶がもどっちまってるようだなあ。あーめんどくせえ」
「あなたは一体何者なの?なぜここにこれたの?」
メーネは男に問いかける。
「俺は海神凶矢だ。ここにいる俺は俺が従えているはぐれ精霊、幻の精霊ファウスが見せている幻影だ」
「はぐれ精霊を従えるですって?」
メーネは驚きを隠せない。
「ああ、うるせえなあ俺にはそういう力があるってこっだよ」
「もしかして今回の精霊の塔のことはすべてあなたが仕組んだことなの?」
メーネが凶矢に問い詰める。
「そんなこと答えるわけねえだろ、と言いてえところだが特別に答えてやるよ…ああそうだよ今回の精霊の塔のこのありさまの原因は俺だ」
凶矢は楽しそうに話し始めた。
「俺の目的のためにはほかの三柱の連中が邪魔だったんでなあ、といっても星神は時の牢獄に閉じ込められた奴らと記憶を失ったガキだけ、姫神も別にどうでもいいやつらばかりだった。そいつら二人以外はな」
凶矢は蓮と美羽を見る。
「男の方はその魔法の知識が俺の目的の妨げになると思った。女の方は魔力が高くほっとくのはまずいと思った。そう思っていた時にこいつら姉弟は仲間割れを起こした。こいつは利用するしかねえと思ったわけよ」
「足立透をはぐれ精霊と契約させたのもあなたの差し金ね」
「ピンポーン。その通りだ。姫神美羽と親しい人間にいわくつきのはぐれ精霊ルーと契約させて洗脳し、大量の魂を燃やさせ精霊の塔に負担をかける。そして俺がファウスの魔法で姫神美羽をだまし足立透を襲わせる。精霊の塔への攻撃と姫神美羽を精神的に殺す。まさに一石二鳥ってやつだ」
「さっきの私の偽物は蓮をつぶすためのものね」
「それもあたりだ。さすがは精霊の塔の守護者、理解が早い。けなげにも自分の恋人を救うために頑張ってるやつにはもうお前の恋人は戻ってこないという現実を突きつけてやった。そしたらものの見事に絶望してそのざまだ」
凶矢は蓮を見ながら楽しそうに話す。
「この屑野郎が!」
氷矢は凶矢を今一度強くにらみつける。
「このまま時が過ぎれば俺の目的は達成されるはずだったんだがなあ調律者と御三家が出てきたのは面倒だ。そこのガキも記憶を取り戻しちまったらしいしな」
凶矢はめんどくさそうに言った。
「貴様の目的はなんなんだ!」
氷矢が凶矢を問い詰める。
「さすがのそこまでサービスはしてやんねーよバーカ。調律者がいるのは面倒だがとりあえずお前らはここでおとなしくしてろ。ファンタズマゴリア!」
凶矢が魔法を発動し、氷矢たちは幻影の檻に閉じ込められる
「なんだこれは!?」
「拘束結界のようね…ダメだわこれでは権限を使うことができない」
「その檻からはそう簡単にはでれねえ。じゃあな、あばよ」
そういうと凶矢は姿を消した。
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