第21話 美羽探し隊

 第21話 美羽探し隊(著者/ハル)


 辺りは漆黒の闇に包まれているが月の光、街灯が放つほんのりと優しい光、されども辺りに何があるのかよくわかるような強い光が街を照らしている。

 しかし彼らがいるのは老朽化し、しばらく電球を変えられていないからか不規則にチカチカと電球が光る街灯の下だ。

「一応反動かないかと思って来ましたけど大丈夫そうですね」

「ああ、お陰様でな。それでそいつが生徒会長の精霊……で間違いないよな?」

「氷矢君は始めて見るんですね。ガルフリードさんは知っての通りですが改めて……私は御三家の日之神家の末裔です。そして私の精霊はガルフリードさんと同じ氷の精霊……なのですが上位クラスの魔法しか使えない精霊なんです」

 そう言うと透き通った黒い瞳とサラッとしたダークブラウンの髪を持つ彼女ーー刈谷里香の横にいる人型の精霊がぺこりとお辞儀をし、軽く名乗っていた。

 精霊の名は悠久の雹鳥ニクスだという。

 名乗り終わると直ぐに彼、星神氷矢は疑問を解決するべく一つ問いかける。

「氷の上級クラスの魔法ってもしかして時間凍結か?」

「まだあるぞ兄弟。そこのニクスぐらいしか使えないと思うが俺たちの記憶を封じた魔法、忘刻って魔法がな」

「その通りです。まあ他にもありますけどね……ところで美羽さん知りませんか?」

「俺も探してる所だ。まあ今はロリ先輩にーー」

「誰がロリ先輩だぁぁぁ!」

 そこに本人が居ないことをいいことに、言ってはいけない言葉を言ってしまう。

 勿論いないと思ったからこそ安心して言ったのだろうがそれは間違いだったようで、暗がりの向こうから彼に向かって飛び蹴りが飛んできていた。

 飛び蹴りを喰らわせたのは小さく子供らしい幼女……の容姿だがこう見えて里香と同い年つまりは十八歳、そして里香と同じく御三家である神代月彩だ。

 彼女は容姿が子供っぽい為ロリと呼ばれることがあるのだがその単語は容姿をコンプレックスとなっている彼女にとって禁句。故にこうして飛び蹴りが飛んできたのだ。

「ってあれ刈谷さん?いや足立さん……?いやでも精霊違……あれれれ?」

「彩先輩……生徒会長は本物の生徒会長だ……てか早くどけよ……」

 と踏まれ続けている彼は死にそうな声でそう言うと

「男の子って踏まれるの好きだって聞いたけど違うの?」

 と真顔でいや、内心はロリ先輩と言われたことに怒っている。しかしそれを表に出さず、威圧とその言葉を言い放つ。すると、

「それと俺を一緒にすんなぁ……」

 とまたも死にそうな声で彼は言葉を発していた。

「お久しぶりです彩さん。ところで彩さんは美羽さんが今どこにいるかわかりますか?」

 飛び蹴りを喰らわしそのまま起き上がれないようにと氷矢の背中に立つ。その姿に生徒会長と呼ばれる里香は苦笑いしつつも彼を助けようとはしない。彼女もまた男は踏まれれば喜ぶと思っているからだろう。

 勿論喜ぶのは一部の人間だが彼はその一部ではないらしい。

「会ったことはあるけど……今どこにいるかはわからないです。でも足立さんのことを聞くってことは刈谷さんも?」

「はい、美羽さんを探してます。勿論ジャックの力を抑えるためですが」

「なら丁度いいかも!実は私達も足立さんを探していてーー」

「お二方……俺の事忘れちゃいないよな?ていうかガルフリードも見てないで助けろよ!?それでも契約精霊か!」

 踏んでいることをあたかも忘れているかのように彼女達は話を進めるがこの状況では自分自身動くこともままならないためどうにか避けてもらおうと再び声をかける。その際にただの犬のようにちょこんと座ったガルフリードにも助けを求めるが「女子に踏まれるなんて褒美だろう兄弟」と返され助ける意思がないことを思い知らされていた。

「あー、はいはいもっと踏んで欲しいんだね、あ、もしかしてそう言うせいへーー」

「待てそれ以上言うな。てか俺はそんなんじゃないからなぁぁぁ!?」

「もうわかったよー降りればいいんでしょー」

「ふふっ仲がとても良いのですね」

 苦笑いしていた里香だったが彼らのやりとりでつい微笑んでしまう。

 というのもどう見ても仲が良くじゃれつきいちゃいちゃしているようにしか見えないからである。

 それから少ししてようやく彩から解放されていた。

「それで生徒会長も美羽さんを探してるんだよな?……よしなら目的が一緒なわけだし協力しようぜ?」

「いい案ですね、それにしてもあの子供がこんな考えをするとは人の成長とは怖いものです」

「確かに座学は全くもってっておいこら」

「ニクス、失礼ですよ。でも確かにいい案ですね賛成です。彩さんも……いいですよね?」

「いいと思うよ」

 里香の精霊、ニクスが氷矢に対しかなり失礼なことを言うがこれは彼の癖だ。刈谷家と御三家の血を継ぐものの家計に対してはかなり忠実、そしてまるで執事かのように丁寧な言葉を使う。しかしそれ以外となるとまるで上から目線かのような言葉を使うのだ。

「まぁ、とりあえず決まりだな。協力して美羽さんを探そう」

「そうそう氷矢君、美羽さんって言っていますけど同じ学校で私と彩さんと同じクラス、つまり先輩なんですよ?」

「え、てことは美羽先輩なのか!?」

「逆に今まで知らなかったことが驚きですが……桜峯高校の生徒はかなりいますからね仕方はありませんね」

 同じ校舎に通う者同士なのにも関わらず今の今まで知ることは無かったその真実に驚愕してしまう彼だが、里香が言う通りかなりの人数が桜峯高校に通っている。その人数凡そ八百人、マンモス校とまではいかないがかなりの人数なのである。

 故に里香のように大半の生徒の名前を覚えているというのは珍しいほどなのだ。

「そう言えば普通に会話してるけど生徒会長って武道館にいたよな……?」

「はい、いましたね。あの炎からはニクスが助けてくれたんですよ」

「そうだったのか……ガルフリードも見習って欲しいものだな」

 武道館にいて燃やされた。なのにも関わらずこうして話していることに今更疑問を持つが彼女は御三家、そんなヤワなことではやられはしないのだろう。

 だがしかし、彼は知らないもの魂燃焼を受け一度仮死状態になりかけていたのは確かだ。

「刈谷さん!氷矢君!」

 突如として彩が大声を出す。

 それは明らかに何かを知らせるための大声。彼女の目線の先に彼らが探そうとしていた足立美羽本人がいたからである。

 しかし彼女もまた足立透のように様子かおかしい。夜道を歩く死体とかでは無いものの、普段とは違う殺気が解き放たれていたからだ。よくよく見ると体の一部が薄らと透け、精霊の異形化が進んでいるということが分かる。

「まさかこんなに早く見つかるなんて……それも異形化も進んで……今助けますからね美羽さん」

「彩、ある程度制御の仕方とかは教えたはずだ、行けるな?」

「わかってるって氷矢君!」

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