第15話上 龍は空回り狼は暴走する……そして

 15話上 龍は空回り狼は暴走する……そして(著者/ディケ)


「1度は出たのにまた戻ってきちゃったわね。犯人は犯行現場に戻るなんてミステリーを気取るつもりはなかったのに。」


 足立さんはおどけるように言う。

 実際戦闘が始まったのは武道館の外の道だった。しかし今は燃える武道館にいる。足立さんの炎が沢山あるここの方が有利って事なのかもしれない


「あら?増援が来ちゃったのね。これは私が不利なようね。」


 増援? 私は1人のはず。渉さんが来たのかな? 私はついつい気になって後ろを確認してしまう。そこは通路と言うには瓦礫がいっぱいだった。ちょっとやり過ぎちゃったかな?正直修理代を請求されたらどうしようって不安を覚えるレベル。そこに1人の男の子が走ってくる。


「あんたが姫神美羽か。あんた武道館の人達を燃やしたのか?ライブに来てた観客を、スタッフを会長を燃やしたのか!」


 エッ? 星神君? 確かたまに刈谷さんと一緒にいた男の子だよね。彼も魔法使いだったんだ。世間って狭いんだな、なんてどうでもいい事を考えてしまう。


「燃やしたわ。里香はとくに丁寧にやってやったわ。なのにあの女ときたら最後までムカつく。死に際くらい笑わせなさいよ。」


「そうか、なあクソ野郎、それだけしたんだからぶっ殺されても文句言わないよな?」


 ちょっと待ってちょっと待って。殺すってそんな物騒すぎるよ。どうしようどうしよう。私が慌ててる間も事態は進行している。


「私は女だから野郎じゃないって訂正すればいいところかしらここは? まあどうでもいいわよね。これから殺し合うのだから。」


「そうだ、どうでもいい事だ。じきにどちらか見分けがつかなくなるんだからな!」


 星神君の周囲に氷の杭が何本も出来ていく。


「ふためと見れなくなるのはあなたよ。こんがり焼いてやるわ。」


 足立さんの周りに火の玉が浮かんでいる。二人の間にバチバチと見えない火花というか殺意じみたものが流れている気がする。

 この2人本当に殺し合う気だよ!


「ストーーーープ!殺し合いはダメ!」


 私は咄嗟に二人の間に入って待ったをかける。


「何やってんだあんた!あんたもその後ろの女を殺しに来たんじゃないのか!」


「えっいや、私は違うの。」


「何が違うのかしら?当たったら死んじゃいそうな凄い攻撃を何度もしてくれたじゃない。」


 両方こっちをロックオン! 細い通路で2人に挟まれる私。いや、自分で飛び込んだんだった。


「ともかく殺し合いはダメ!喧嘩までにしなさい!」


「あんたアレで喧嘩のつもりだったの?」


「喧嘩だよ!」


 だからその呆れたような目はやめて。私だってやり過ぎになってたなーって自覚はあるんだから。


「どけよ。御三家だろうとなんだろうと邪魔するならまとめて相手してやるよ!」


 なんでそうなるの!血の気が多すぎるよ星神君!ひゅんひゅんと氷の杭が私と足立さんの両方に飛んでくる。咄嗟に腕をクロスして氷の杭から身を守る


「強いわね。こうなったら協力してそこの男を殺るわよ彩!私を助けてくれるのでしょう?」


 火の玉を使って難なく防ぐ足立さん。


「確かに助けるって言ったけど意味が違うから!足立さんの味方じゃないから!」


 あーもう足立さん絶対に分かってて言ってるよ。ニヤニヤしてるし。


「ゴチャゴチャうるせえな。人殺しの肩を持つって言うなら両方まとめて死ねや!」


 もうやだこの単細胞。


「だそうよ彩。私たちの友情を見せるわよ!」


 そんなに育んだ覚えないんだけど!

 私たちって学校ですれ違ったら挨拶する程度だったよね!

 というか……


「二人共ちょっと黙って!」


 ダン!

 私は思いっきり床を蹴りつける。思った以上に大きな音とホコリや粉が舞ってしまった。


「殺し合いはダメ!日本の法律でも禁止されてるし何より人を殺してはいけませんって教わらなかったの!」


 ででんと言いきる私。先輩としてビシッと言う時は言うのだ。

 次第に舞った埃も落ちて周りの様子が見えてくる。


「おい、あの女はどこ行った!」


 えっ? 咄嗟に振り返ったそこには足立さんはいなかった。どこを見てもいない。


「もしかして逃げられた?」


「みたいだな。あんたが邪魔しなければ今日で決着つけられたかもしれなかったのにな。」


 私からしたら星神君が邪魔してきた感じなんだけど。


「それで、星神君はどうするの?追いかけるの?」


「おい、なんで御三家の人間が俺の名前を知ってるんだ! 俺はお前と会った事が無いはずだぞ。」


 ちょっ! 何回か学校で話した事があるはずなのに覚えてない! ってそうか、憑依してる状況だと見た目が変わるんだった。


「コレなら分かるよね。」


 私は憑依を解いて星神君の前に立つ。


「ロリ先輩! なんであんたがこゴハァ……!」


「ロリ言うな!」


 私は咄嗟に右の拳を失礼な男の顔面にめり込ませていた。悔い改めろ。


「痛たた……それで神代月先輩はなんでこんな事を?」


 質問してくる星神君。まあ聞くよね当然。

 くらりと不意に足の力が入らなくなる。立ちくらみ?


「ちょっ先輩!しっかりしろ先輩!」


 どうやら私は倒れてしまうようだ。気絶なんて初めてだな。そんな呑気なことを考えつつ私は意識を手放したのだった。


「ちょっ先輩!しっかりしろ先輩!」


 倒れるロリ先輩の体を咄嗟に抱きとめる。

 いったいどうしたんだ?


(こりゃたぶん魔力の使いすぎだな。普通の精霊ならともかく龍なんて規格外が相手なんだ。訓練もしてなきゃ倒れて当然だぜ。)


 ガルフリードが俺の中から話してくる。


「そうか、御三家の奴らは何をやってんだよ。」


 埃だらけだがとりあえず先輩を床に寝かせる。


「うん?先輩の髪がなんか緑になってないか?染めた感じとはちがうよなこれ。」


 なんとなく緑に変わってる髪をすくい上げてみる。


(こいつは酷いな。精霊化か?いや、どちらかってえと異形化に近い感じがしやがるぜ。こんな小さい体にデカいもんぶち込んでるんだから身体がおかしくならねえ方がおかしいか。)


「そういう事なら御三家に任せるのも心配だな。ひとまず先輩は家へ連れ帰ろう。話も聞きたいしな。」


 俺は先輩を背負って家へと帰るのだった。

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