第14話下 精霊の塔の真実

 14話下 精霊の塔の真実(著者/ミステス)

「本当にあの穴はなんなんだろう…」

 僕は武道館に向かいながら考えていた。

「サラにもあの穴は見えていないんだよね?」

「うん。蓮が何のことをいってるのかさっぱりだよ」

 どうやらサラにも見えていないらしい。なぜ僕にだけ見えるんだ…

 そして穴の中は朧げで、曖昧で、不鮮明だ。つまるところよくわからない。

「あれ…?」

 ふと違和感を覚える。

 あの景色見覚えがあるような…

「…!そうか」

 あの場所に似ているんだ。

 さっきまで僕がいた場所。精霊の塔に。

「…」

 さっきの精霊の塔での出来事を思い出す。

 精霊の塔は明らかに異常をきたしていた。

 メーネの様子もおかしかった。

「でもなぜ塔に異常が?」

 精霊の塔は僕の家である姫神家を含む三柱の一族が守護しているはずだ。

 今は形骸化してしまったとはいえ少なくとも姫神家はそのお役目を今も継いでいる。

 精霊の塔に異常が起きたなどという知らせはここ最近ない。

 とはいえメーネの存在のように一般には知られていないことが精霊の塔にはあるようだ。

 そして、さっきの出来事の直後に起きた武道館の事件に空の穴…

「嫌な予感がする…」

 よくわからないがとても嫌な感じだった。

 ―

 現場につくと氷矢の言う通りかなりの騒ぎとなっていた。

 武道館は炎に包まれている。

「これは僕が中に入るのは無理かな…」

 まだ本気ではないとはいえ、姉さんの魔法を僕が防げるとは思えない。

 防の法を使えば防げるかもしれないが、時間制限がある以上うかつに使うのは危険だ。

「観の法」

 念のため炎に向けて観の法を放つ。

「やっぱり姉さんか…」

 間違いなくジャック・オー・ランタンの名前が浮かんできた。

「サラ、何か感じる?」

 サラは僕よりも魔力に敏感なので聞いてみる

「うーん…よくわからないけど中からで3つの魔力を感じる」

「3つ?」

 一つは姉さんでもう一つは氷矢のものだろう。だがもう一つは?

「とりあえず氷矢に連絡してみよう」

 中の様子がわかるかもしれない。

「…」

 氷矢に電話をかけてみるもつながらなかった。

 もしかして戦闘中なのだろうか?

「仕方がないか…」

 中に入る方法がない以上、ここは氷矢に任せるしかない。

「こっちも気になるし…」

 僕は頭上に広がる空に空いた穴を見上げる。

「観の法」

 僕は穴に向かって観の法を放った。すると…

「…!やっぱり」

 大方の予想通りの名前が浮かんできた。

 メーネと。

「やっぱりあの穴は精霊の塔なのか…」

 その時だった。

「え?」

 何かが頭上から落ちてきた。

 人?いやあれは…

「く、炎雷!」

 僕は炎雷を発動し、落ちてきた人影を受け止めた。

「メーネ!」

 それは紛れもなく、あの精霊の塔で出会った、メーネだった。

「どうして塔にいるはずのメーネが…」

 その刹那。

「!?」

 頭上にある空の穴が、突如として姿を消した。

「どうなっているんだ…」

 わからないことが多すぎる。

「ねぇ蓮。いったい何があったの?この子、誰?」

「メーネのことはサラにも見えるんだね」

「え…?メーネって前話してた…」

「うん。精霊の塔で出会った子だよ」

「精霊の塔にいる精霊が召喚魔法もなしにこっちの世界に来るなんて…」

 サラはひどく驚いた様子でいった。

「観の法」

 僕はさっきまで穴があった空にもう一度観の法を放つ。

 なんらかの魔法の干渉があったかもしれないからだ。

「ダメか…」

 だが浮かんできたのはさっきと同じメーネの名前のみだった

 少なくとも姉さんの仕業ではないことはわかった。

「氷矢のことも心配だけどとりあえずメーネを家に運ぼう。意識がないみたいなんだ」

 僕はメーネを連れて家に戻った。

 ―

 家に戻りメーネの様子を見る。

「どうやら気を失っているだけみたいだ」

「どうしてこの人が…」

 サラが不安げに呟く。

「とにかく話を聞いてみないとわからないね」

 そういって僕は術式を組み上げる。

「炎術・活の法」

 僕は生命力や体力を回復させる炎術をメーネに向けて使った。

「これで目を覚ましてくれるといいんだけど…」

 すると魔法が効いてくれたのか、メーネの目が開いた。

「ここは…」

「気が付いたんだね。よかった」

 僕はメーネに笑顔を向ける。

「あなたは…」

「こっちであうのは初めてだね。精霊の塔のメーネさん」

「こっち…?」

 メーネはすこしぼんやりした後目を見開いた

「ここはどこ!?なぜあなたがここに?」

 メーネは混乱したようにそうまくしたてた。

「落ち着いて、ここは…精霊にとっては何て言えばいいのかな?人間界?」

「そんな…下界におちてしまうなんて…このままじゃ大変なことに…」

 メーネは真っ青になりながら呟く。

「なぜ精霊の塔にいるはずの君がこっちの世界に落ちてきたんだい?それにさっき僕が精霊の塔に訪れたとき、君にいったい何があったんだい?」

 僕がそう聞くと。

「それは…」

 メーネが口ごもる。

「僕に言えないことなら無理には聞かないけど、こちらでも今大変なことが起きていてね、それが精霊の塔に関わっているかもしれない。できれば教えてほしいな」

「下界で大変なこと?」

 僕はメーネに姉さんが起こしている事件のことを話した。

「なるほどね…そういうことだったの…」

 メーネは何かを納得したようだ。

「とにかく、私は精霊の塔に帰らないと」

 そういって、メーネは何か呪文のようなものを唱える。

 だが。

 バチッ!

「きゃあ!」

 メーネは何かの力によって詠唱を遮断された。

「そんな…精霊の塔にもどることができない」

「どういうこと?」

 いったい何が…

「私は精霊の塔の番人よ。下界に落ちたことなんて初めてだけど精霊の塔には基本的に自由に戻ることができる…それが何者かの力によって遮断された…」

 遮断?

「これは…本当にまずいわね…」

「ねぇ。本当になにがおこっているの?」

 これまで黙っていたサラがついにメーネに詰め寄る。

「やっぱり僕も知りたい。今の人間界の状況が精霊の塔にどうかかわっているのか」

 僕もそう続ける

「そうね…こうなってしまった以上、私一人ではどうしようもない。あなたにならすべてを話してもいいかもしれないわね…」

 メーネは真剣な顔つきでこういった。

「今から話すことは決して誰にも話してはダメよ」

「わかった」

 僕はうなずくとメーネは話し始めた。

「まず聞くけど。あなたは精霊の塔が何のために存在しているか知ってる?」

 メーネはまず僕にそう尋ねてくる。

「精霊の塔は魂が行き着く場所で、魂の浄化槽により良き魂と悪しき魂を分別される場所。分別された良き魂は、精霊として生まれ変わるか黄泉の世界に送られる。一般的な認知はこんな感じだけどこれで合ってるかな?」

 僕はそう答えると。

「さすがね、魔法使いの間に広まっている事実をしてはそれで正解よ。でもね…」

「魂の分別だけが精霊の塔の役割だとしたら、なぜ私のような番人がいなければいけないのかしら?」

 メーネはそうまくしたてた。

 確かにそうだ。魂の分別は魂の浄化槽により自動的に行われている。

 悪しき魂は浄化されるし、浄化されないまま人間界に彷徨ってしまっている精霊は、御三家や三柱により浄化、もしくは排除され、塔の均衡を保っている。

 精霊の塔の役割がそれだけならメーネのような精霊の塔の番人は不要なはずだ。そもそもメーネの存在自体が一般には認知されていない。

「難しい顔をしているわね。その答えこそが精霊の塔の秘匿されてきたもう一つの力」

 秘匿されてきたもう一つの力?

「それは一体…」

「その力は、精霊の塔に訪れたものの願いを叶える力よ」

 メーネは少し力を込めてそう言った。

 なんだって…?

「願いを叶える?それってどういうこと?」

 僕がそう尋ねると

「どうもこうも言葉通りよ、精霊の塔には願望を実現させる力があるの」

「そんなことが…ありえるの?」

「まあ普通に考えたら信じられないことよね。でも本当のことよ」

「精霊の塔にはあらゆる魂がやってくる。志半ばで無念にも散った悲しい魂や、未練を残した魂もね。そういった人間の欲望が塔にその力を与えてしまった」

 なるほど。誰にでも叶えたい願いはある。それを叶えられずに終わりを迎えてしまった魂たちの影響を言うわけか。

「願いを叶えることができるなんて、聞こえはいいけどとても恐ろしい力。そんなものが人のてにわたったらどうなるかなんて、考えるまでもないわ」

 確かにその通りだった。

「だからこそこのことは完全に秘匿され、一般に知る人はほとんどいない」

「でも時々どこかから情報がもれて精霊の塔にやってくる人間がいるの。あなたのようにね」

 メーネは僕を見据えていった。

「だから番人が必要なのよ、願いを叶えるためにやってきた人間を追い返すためにね。あのチェスはそういうことよ」

「まえから気になっていたんだけれどなぜチェスなの?」

 僕がそう聞くと。

「あれは私の能力。精霊チェス。精霊チェスをしているときは対戦相手の心を読むことができるの。そしてチェスで負けた人間は、強制的にあの世界から追い出される」

 ん?心を読む?

「まってよ、チェスで相手の心を読むなんて、そんなことされたら勝てるわけないじゃないか」

「その通りよ。もともと侵入者が勝てないようになっているゲームだもの。いわば出来レースのようなものね」

 メーネから告げられた衝撃の事実に僕はがっくりとうなだれた。何とかして勝つために何度も作戦を考えた僕の苦労は一体…

「そして精霊チェスにはもう一つ目的があるの」

 もう一つの目的?

「精霊チェスを通じて相手の心を読むことで相手の願いを知ることができる。それが純粋かつ穢れのない、叶えてもいい願いなら。叶えてあげることもできるのよ。決めるのは私だけどね」

 なるほど。チェスを通じて相手の真意をさぐるわけか…

「まあ今までは、金持ちになりたいだとか、誰かを殺したいだとか穢れ全開の願いしかなかったから例外なく追い返したわ。でも…」

 メーネは少し間をおくと

「あなたは違ったの」

 そういった。

「僕?」

「そうよ、あなたはそもそも精霊の塔が願いを叶える力を持っていることを知らなかった。あなたの目的を聞いてみると、私を契約したいなんて…そんなことをいう人間はいままでいなかったわ。思わずおかしくて笑ってしまったわよ」

 メーネと契約?

「なら、君が…」

「そうよ、私こそがあなたが探している魂の精霊。またの名を『秘匿禁域の精霊』」

「そういうことだったのか…」

「あら…あまり驚かないのね」

「なんとなくだけどそんな気はしていたからね」

「やっぱりあなたは面白いわね。話を戻すけど精霊チェスを通じて、あなたの心を読んで、出てきたのは今までの人間のような欲望にまみれた願いじゃなかった」

「大切な人を助けたい…あなたの心は、それだけを願っていた…本当にそれだけをね。だからあなたの願いならかなえてあげてもいいと思ったのよ」

 メーネはそうまくしたてた。

「でも結局チェスで3回も負かしてきたよね?それはどうして?」

「あら?いくら叶えてあげようと思っても無条件で叶えてあげるとは言ってないわよ。だからチャンスをあげたのよ」

 チャンス?

「通常は私に精霊チェスに負けた人間は二度と精霊の塔に来ることができなくなるのよ。でもあなたの純粋な願いに免じてそれはしなかったわ。心を読むことも2回目以降はやってないわよ」

 なるほど。そういうことか。一応今までの僕の苦労は無駄ではなかったらしい。

「まあここまでが精霊の塔の隠された真実。そしてここからが本題よ」

「番人である君がここにいるということは、今の塔には番人がいない。このままじゃ精霊の塔を本当の意味で守護するものがいないということだね」

「その通りよ、だから一刻も早く私は精霊の塔に戻らなくてはいけないのよ」

「そもそもなんで君は塔から落ちてきたの?」

「最近死してない魂がよく精霊の塔に来るようになったのよ。今あなたから聞いたように魂だけを燃やしている人間がいるからね」

 少しめんどくさそうにメーネが言う。

「どういうこと?」

「精霊の塔は本来死してない魂を向かいいれるようなことはないの。そもそも死してない魂があそこに来ること自体が異常なのよ。だから魂の精霊である私にも最近影響が出ていたの」

 なるほど、だからあの時調子が悪そうだったのか。

「そんな時に、数万人の死してない魂が一気に精霊の塔にやってきた。さっきあなたが塔にきたときね。数万人の魂の叫びにあてられて私は正気を失い、あなたを追い出した。そして気が付いたときはこの家のなかだったってわけよ。わたしが下界に落ちた理由は数万人の魂の影響で塔に異常が生じたせいでしょうね」

 なるほど。そういうことだったのか。

「とにかく、何とかして精霊の塔に帰らないと。大変なことになってしまうかもしれない。あなたにも協力してほしい」

「僕に?」

「そうよ、この話を聞いた以上嫌とは言わせないわよ」

「もちろん協力するつもりだよ。魂を燃やしているのは僕の姉さんだ。僕にも責任がある。でも具体的にどうすればいいのかな?」

 僕ができることなんてあるのだろうか?

「とりあえず私が精霊の塔へ帰るのを妨害している術者を見つけて術を止めれば。私は塔に帰ることができるわ」

 だが今のところその術者に心当たりはない。

「とりあえず一度君が落ちてきた場所の武道館に戻ろう何かわかるかもしれない」

 メーネはうなずき。僕たちは再度武道館に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る