第13話 天駆風雷之顕現

 13話 天駆風雷之顕現(著者/ジオ)


 リビングの中央で、小さい体をより小さくして床に座っている彩の周りを回りながら、術式解析を巡らせる渉。

「だとしても、私が取る選択は——」

 こう言うと、彩はキュッと唇を噛みながら、拳を膝に置いて渉の方を向いて話し始める。

「でも、でも、友達を救える、ううん、手助け位出来るようになるんですよね?」

「ああ、それ以上だけどね、、、だけど、それは自分を捨てることにも等しい事に成るかもしれない、俺みたいなその為に生まれてきた様なモノでも辛いことなんだがな、、、」

 渉は先ほどから、瞬きもせず、静かな口調で本質のみ話す。

『今迄の嬢ちゃんの生活が一部とはいえ失われるっちゅうことや、せやけど、、、』

「だけど?」

『契約でけたらええんやけどな、堅物は苦手や、、、』

「話せば判るんじゃないの?」

「話せればいいんだけどね、あの感じでは、通じるかどうかも不明だ、よく観てはいるんだが、、、」

「私の選択は、、、します、、、話して、契約して見せます!」

 膝の拳をぎゅっと握りなおすと、彩は渉を見据えて言う。


『見た目と違って、嬢ちゃんは芯が強そうや、いや、、、こりゃひょっとするでぇ、知らんけど、、』

 彩の前に座った渉とサブロウ。

 言い終わる寸前に毛繕いを再開しながら言うサブロウ。


「本人の意思を、、、尊重していいんですよね?、、、」

 渉は両親の方に向き直り、同意を得る為に語りかける。


「人間どんな時も、選択は自身で進むもんだ、先なんて進んでからでも悔めばいい、それが、また糧になるもんだ。」

 父親が愛娘が成長していた事に目を細めながらいう。


「じゃあ、あの龍、天之風来御龍をイメージして、体というか頭の中ででも、対峙する感じで、、、」

 身振り手振りで、説明する。


「はい、、、じゃあ、、、えっと、、、」

 静かに目を閉じ、唇を結んで集中し始める。

 すると、広く感じたリビング一杯に緑風ともとれる色の方陣が表れ始める。


『こ、これで初段階かいな?、顕現したら家が吹き飛ぶかもしれへんなぁ、、、』

「ああ、初めて観るよ、ここまで静かだけど、激しく強いのは、、、」

 興味深げに、方陣と彩を交互に見る渉。


[我ヲ、、、天之扉開キモノ、、、天之風来御龍を呼ビ出サントスルハ、、、 オヌシカ?、、、]

 部屋に広がった魔法陣の紋様が彩を覆い尽くす程に増え、輝きを増す中に半透明の姿で現れる。

 暴風にも竜巻とも似た風がリビングに渦巻いているのに、彩の髪が揺れ動くだけで、他の物はピクリともしない。


「眩しいのに、姿は見える、不思議な、、、眩しいと言うより、、、これが神々しい輝きと言う物なのか?」

 父親が感嘆の声を上げる。


[郎女、、、オヌシガ、我ヲ、、、我ニ従エト、欲スルノカ?]

 彩の目を覗き込むように顔を近ずけて問う龍。

 ※郎女:いらつめ、古語


「従わせるなんて、、、ただ私に力を貸して欲しい、、、友達を助けたい、、、」

 神々しい程の龍の目を見据えるように見ながら言う彩。


[幾星霜、我欲スル者、悉ク我ヲ、屈服サセ、従エト、、、度々ニソノ身滅ビ塵芥ト帰シタガ、、、ヌシハ違ト?]

 再び魔法陣が輝きを増し彩を包み込むように複雑に絡まり出す。


「私には、過ぎた事かも知れません、、、人を助けるなんて、でも、でも、、、」

 目は龍を見据えたまま、小さく唇を噛む彩。


[ヨカロウ、、、望ミ、、、聞キ届ケヨウ、、、ナラバ、贄ヲ、頂コウ、、、郎女ノ一部ヲナ。]

「贄って、、、良いわ、何でもあげる、助けて私を、、、ううん、友達を、、、」

 龍は姿を朧に変え、更に魔法陣は渉の許容を越えかける程に重なり合い、彩は覚悟したように、目を閉じ唇を噛み締める。


「贄??聞いてないぞ?、何が起こるんだ?」

 渉は頭を掻きながらキョロキョロしている。


 何事も無かったようにリビングに広がった魔法陣が解け、龍の姿と共に彩の体の中に吸い込まれるように入って消える。


「あ、あれだけの、、、入っちまった、、、」

『ああ、ああ、ホンマや、普通の人やったら、破裂か消えてまうわ、、、』

 渉とサブロウが驚嘆の声を上げる。


[我、娘の一部、贄を確かに頂いた、、、約定の証に我の一部を与えておいた、、、何時でも力を貸そう、、、]

 龍の声は大きく強く、皆の頭の中に響いたが、恐怖というよりも包み込むように皆に解る程砕けた言葉で響いた。


「あれ?コレ、、、」

 彩は噛み締めていた口元触れる。

『あややぁ、嬢ちゃん、髪の毛、、、変わっとるでぇ?』

 渉の頭から彩膝に走り込み見上げていう。

 彩の歯が一本抜け落ち、少し大きめの牙歯が生え、一房髪に龍の色を纏ったかのような色をした、エクステのように現れた。


「贄って、これだけで良いのか?、天之風来御龍よ?」

 渉が彩に向かって問いかける。

[我は、従者でも無く、娘も隷属でも無い、共に居るだけだ、これ以上必要あるまい、、、助力には再び贄は頂くがな、我も腹が減る、、、]

 龍は再び皆の頭に直接言葉を語りかける。

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