第10話 邂逅する炎と氷
10話 邂逅する炎と氷 (著者/ミステス)
「なんだ!?今のは」
俺はたった今感じたすさまじい魔力に目を見開いた。
こんな膨大な魔力は今まで感じたことがない。
「一体なにがあったんだ…」
最近の事件のこともある。放っておくわけにはいかない。
「出かけるぞ。ガルフリード」
ガルフリードは部屋の隅に丸まって寝ていた
最近こいつだんだん犬っぽくなってきたな…
「起きろこの駄犬」
いつまでも寝てる犬を起こす
「なんだよ兄弟…こんな時間に…ってなんだこりゃ…」
こいつもこの膨大な魔力に気づいたらしい
「いくぞ。ガルフリード」
「おう。兄弟」
ガルフリードはそういうと俺の中に入る。
草木も眠る丑三つ時。俺は氷雨を起こさないように気を付けながら家を出た。
「多分この辺のはずだが」
魔力の痕跡をたどり魔力を感じた場所に行く。
「…!なんだ?」
かすかな魔力を感じ周囲を見渡す。
(兄弟!見ろ!)
ガルフリードの声で気づく。
「地面が燃えている!?」
少し遠くの地面が燃えているのが見えた。そしてその中心に人影が二人。
「狐耳…精霊か!」
眩惑の魔法で隠してはいるが、俺には見えた。その一人に狐耳が生えていた。
生徒会長の話を思い出す。
「もしかしてあいつが!」
俺はもう一人の魔法使いであろう男の元へ走り出した
―数時間前
ピンポーン♪
ふと、チャイムが鳴った
「蓮。誰か来たよ」
サラがいち早く反応する。
「こんな時間に誰だろう」
玄関を開けると見知った顔がそこにいた。
「こんばんは。蓮君」
「以蔵さん…」
鈴の従兄弟の岡村以蔵さんだった。
「すまないね。間が開いてしまって」
「いえ、どうぞ上がってください」
間が開いたといっても以蔵さんが最後に来たのはほんの5日前だ
「あ、いらっしゃい以蔵さん」
「こんばんは。サラちゃん」
サラも以蔵さんに挨拶する。
以蔵さんは魔法の存在を知らない。
サラも僕の妹ということになっている。
当然鈴が眠り続けている本当の理由も知らない。
伝えたとしても信じてもらえるとは思えないし、たとえ信じてもらえたとしても余計な心配をかけるだけだと思ったからだ。
「鈴の様子はどうだい?」
「まだ…眠り続けています。毎日話かけているんですけど…」
「そうか…すまない、君にはつらい思いをさせてしまっているね…」
鈴は幼いころに両親を亡くしている。
だから幼いころから仲が良かった従兄弟の以蔵さんが鈴を引き取ったのだ。
でも以蔵さんは今は警察官。多忙な以蔵さんに眠り続けている鈴の面倒を見るのは難しかった。
病院に預ければよいのだが、両親を病気で亡くしているため、鈴は病院が苦手だった。
「治る見込みもないのに鈴を嫌いな病院においておくのはかわいそうだと思ってね」そう以蔵さんはいって。僕に鈴を預かってほしいと頼んだのだ
もちろん毎日医者に見せてはいるが。
「いえ、僕は鈴のそばにいれるだけでもうれしいです」
僕は以蔵さんに心からの思いを伝えた。
「そうか…実は休暇をもらってね。だからもし君が今の状況を迷惑だと思っているのなら鈴を引き取ろうと思っていたんだ」
以蔵さんから予想外の言葉が発せられた。
「そんな!迷惑なんてことありえないです!むしろお願いします。僕を…鈴のそばにいさせてください!」
僕は深く頭をさげた。
これは僕のわがままかもしれない。それでも僕は鈴のそばにいたかった。
「頭を上げてくれ、いいんだ。君ならそういうと思っていたよ。鈴もそのほうが喜ぶだろう」
「以蔵さん…」
「さて、鈴と話しに行こう」
「はい」
鈴が眠っている部屋に入る。
「やあ鈴。間があいて悪かったな」
以蔵さんが鈴に話しかける。当然答えは返ってこない。
「早く目覚めないと、蓮君に嫌われてしまうぞ」
少しおどけて以蔵さんが言った
「そんなこと絶対にありえません!僕は鈴のことが大好きですから!あ…」
思わずとんでもないことを口走り慌ててしまった。
「ハハハ、愛されてるな鈴。蓮君のためにも早く目を覚ましてやってくれ…」
それから以蔵さんは鈴といろんな話をした。
それから数十分後。
「もうこんな時間か。そろそろお暇するよ。遅くまですまなかったね」
「いえ。また来てください」
「休暇をもらったからね。またすぐに来るさ。蓮君…鈴のことをよろしく頼むよ」
「はい…」
以蔵さんはうちを後にした。
その数時間後―
「…!?」
膨大な魔力を感じ、目が覚めた。
「今のは…一体…」
「蓮!」
サラも目を覚ましたようだ。
「サラも感じた?」
「うん。すごい魔力…何か怖い…」
こんな膨大な魔力は感じたことがない。
「少し様子を見に行ってくるよ」
なんにせよ放ってはおけないだろう。
「大丈夫なの?」
「大丈夫。すぐ戻るよ、サラはここでまってて」
サラは怖がってるみたいだし僕一人で行こうとすると…
「私も行く!」
サラが少し大きな声で言った。
「でも、こわいんじゃ…」
「蓮が一人で行くほうがよっぽど怖いよ」
「サラ…ありがとう。一緒にいこう」
「うん」
僕たちは家を出た。
「このあたりだね」
「うん」
サラは周りを見渡しながら言った。
魔力の気配はするけどもう過ぎ去った後のような状態だった。
見た目では普通の公園にしか見えない。
「とりあえず調べよう。サラ」
「おっけー」
サラから送られてくる炎の魔力を丁寧に組み上げ、僕は術式を完成させた。
「炎術。観の法」
僕の周囲に炎が展開される。
今僕が使ったのは残った魔力の痕跡をサーチする魔法。魔力の持ち主の精霊を僕が知っていればその精霊の情報が流れてくる仕組みだ。
これだけの魔力だ。有名な精霊かもしれない。
その結果二つの精霊の名前が浮かび上がった。
「そんな…」
一つ目の精霊の名前は天之風雷御龍。今はほろんだはずの御三家の一つ、月神家が降霊したという伝説の精霊だった。
それはとても驚くべきものだっただろう。
でも僕にとっては二つ目の精霊の名前の方が衝撃的だった。
「ジャック・オー・ランタン…」
姫神美羽…姉さんの精霊の名前だった。
「そこで何をしている!」
予想外の結果に唖然としていると、突然怒鳴り声が聞こえた。
「こんなところで炎を出しやがって。なんのつもりだ」
どうやら誤解されているらしい。
この炎は普通の人間にはみえないため相手も魔法使いだろう。
「誤解です。これは探索用の魔法です」
「嘘つけ。炎を使った探索魔法など聞いたことがない。お前が例の放火魔か!」
放火魔?まさか…
「ちがいます。僕は…」
「少しおとなしくしてもらうぞ」
問答無用といった感じで相手の魔法使いから魔力があふれ出す
そして周りには彼の周りにはこぶし大ぐらいの氷塊が出来上がっていた
「くらえ!」
氷塊が僕に襲い掛かる。
「…く、炎雷!」
僕はすぐさま炎雷を発動し、スピードをあげて回避する。
そのあとも続けざまに氷塊が襲い掛かる。
炎雷のおかげで何とかよけることができているが。
すごい魔力だ、空気中の物質を凍らせてはなっているかなり高位の氷の魔法使いだろう。
「はあ!」
氷塊の勢いが増した。まずい…
「炎弾!」
こちらも炎の球を飛ばし魔法を相殺しようと試みるが
「ぐあ!」
僕の放った炎の球は、氷塊にあっけなくはじかれよけきれなかった氷塊が僕の足に命中する。
「無駄だ。その程度の魔法で俺の氷は溶かせない」
やはりかなりの魔力差があるようだ。真っ向から勝負しても勝ち目はないだろう。
そして凍結魔法にはあの魔法がある。
対策を怠ってしまった場合、一瞬で勝負が終わってしまうあの魔法が。
これほどの術者ならほぼ確実に会得しているだろう。
僕は術式を組み上げる。あの魔法の対策の魔法だ。
だがこの魔法は展開してから15分しか効果を発揮しない。
「それまでに説得できればいいけど…」
炎雷の効果で上がったスピードで氷塊をよけ続ける。
「落ち着いてください。本当に誤解なんです」
だが結構距離が離れているのと高速で移動していることから相手には聞こえていないようだった。
「ちょこまかと動きやがって…やるしかないか」
相手の攻撃がやむ。
説得が通じたのかと思ったが、そうではないようだ。
相手の魔法使いの魔力がさらに高まる。
どうやらあの魔法を使うらしい。
「時の凍結!」
その刹那世界が停止した。
…
時間凍結魔法「時の凍結」
を発動し俺以外のものはすべて停止した。
俺は距離を一気につめ、氷をまとった拳で殴り掛かった。
殺す気はない。無力化させるだけだ。
止まった時の中で相手が避けるすべはない…はずだった。
「ばかな…」
止まった時の中で例の放火魔は俺の攻撃をかわした。
「なぜ動ける!」
俺はおもわず叫んだ。
「炎術、防の法。僕の作り出した魔法です。この魔法は僕を対象とする魔法の効果を無効にすることができる魔法です」
時間凍結魔法を無効化する魔法だと?そんな魔法高位の術者にしか使えないはずだ。
あの事件現場で見たような力の弱い魔法使いがそんなものが使えるはずがない。
「お前は、何物だ」
「僕は姫神蓮。あなたと争うつもりはありません」
姫神蓮?どっかで聞いたことが…
(姫神蓮だって?おいおいマジかよ。兄弟、これ多分勘違いだぜ)
は?
そういうとガルフリードは俺の中から出てくる。
「勘違いって…どういうことだガルフリード」
「やっとわかってくれましたか」
相手も魔力を収める
「姫神蓮っていえば姫神家が誇る天才魔法使いって有名だぞ」
姫神家?ってやっぱりどっかできいたことが
「まだわかんねんのか…相変わらず兄弟はオツムが弱いな。お前の親父さんもよく言ってただろ」
父さんが…あ。
思い出した。
「姫神家って、あの魔法研究を主に行ってる家で昔父さんが尊敬する家だって言ってた、あの?」
「やっと思い出したか、まったく…そもそも魔法使いなら姫神家の存在は常識だぞ。マジでもう少し頭鍛えたほうがいいぞ」
心底残念なものを見る目で俺を見るガルフリード
「う、うるせーな。俺は体で覚えるタイプなんだよ…」
苦し紛れの言い訳をしつつ俺は姫神蓮をみた。
「こいつが姫神蓮なのはわかった。それでも放火魔じゃないって説明にはならないだろ。狐耳の精霊連れてるし」
それをいうとまたガルフリードはため息をつきながら。
「姫神蓮は魔法の研究の才能は天才と呼ばれているが、魔力は弱いという話だ。姫神蓮の魔力じゃニュースでやってるような事件は起こせない」
魔力が低い?凍結魔法を無効化するような魔法を使うやつが?
「でもあの時の事件現場はどうなんだ、あの程度なら魔力が低くてもできるんじゃないのか?」
「おかしいとは思ってたんだよ。最近のニュースでやってたやつよりあの時の事件現場だけ規模が小さかった」
は?こいつは何を言っているんだ
「いい加減気づけよ兄弟。姫神蓮に罪を着せるためにあそこだけわざと規模を小さくしたんじゃねえか?わざわざ狐耳の話までしてよ」
「まってください。狐耳ってもしかしてサラのことですか?」
姫神蓮が急に割って入ってくる
「サラってお前の精霊のことか?そうだよ。最近原因不明の火事とか爆発事件が多く起きててこの前その現場に行ったら俺の知り合いの友達が狐耳の少女を見たって言ってたんだ」
「原因不明の火事…ひょっとして姉さんが…」
姫神は少し考えこんだ後
「その知り合いの友達の名前ってわかりませんか?」
と聞いてきた。
「あ?えっと確か足立とか言ってたかな?」
「足立…」
またしても姫神は考え込んでしまった。
「とにかく、今回のことは兄弟の完全なる勘違いってことだ。まったく相変わらず魔法を悪用しようとするやつには容赦がねえ」
「ぐっ…殺すつもりはなかったよ…」
「そういう問題じゃねえだろ…」
ぐぐぐ…確かにその通りだ。俺は勘違いとはいえいきなり襲い掛かったのは事実だ…
「いや…その…本当にすまなかった」
謝って済む問題じゃないだろうが、必死に頭をさげた。
でも姫神は。
「勘違いだったのですから。気にしないでください。それに、完全に勘違いというわけでもないかもしれません」
え…?
「どういうことだ?」
「確証はありませんが…おそらくその放火魔の正体は僕の姉、姫神美羽かもしれません」
姫神はどこか悲しそうにそう言った。
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