第9話 出ル三賢三柱之一翼

 09話 出ル三賢三柱之一翼 (著者/ジオ)


「とうとう、ちゅうか、、、やっぱり出て来やがったかぁ、面倒になっちまったじゃないか。」

『いやいや、無理くり顕現させて契約か封印させるちゅう算段だったはずやったんやから、坊主丸儲けちゅう感じでええやん?』

「まあなあ、でもなぁ、アレ顕現し切ってねーだろ、どう見たって」

 暗がりのベンチの後ろで、子猫を頭に乗せた格好でぶつぶつ言い合いをする。


「まあ、なんとかなるだろうさ、先ずは」

 ヒョイとベンチを飛び越えると、小走りに彩に駆け寄る。


『嬢ちゃん、大丈夫か?』

 サブロウが、彩の膝にちょこんと乗って見上げて言う。

「ネ、ネコ、ちゃん?、しゃ、べ!??」

 へたり込んだまま、体を引こうと後ろに倒れそうになる。

 サブロウはチョット凹みつつ、渉の足元へ行く。

「神代月 彩ちゃんだろ?、家まで送るよ、立てるかい?」

 渉は眼鏡を指で直しながら手を差し出す。

「だ、誰?」

「ああ、君のお母上の親戚の灯野とうの、灯野 わたる、遠いおじさんって所、君とあまり年は違わないけどね」

 引かれたのがチョット響いたのか、低めのゆっくりとした口調で言う渉

「お、おじ、、さん?」

 手を借りて立ち上がると、値踏みする様に見て訝しげにする。

「ああ、縁は遠いんだけどね、君に話しが有って、行ったら

 君が飛び出して行っちゃったんで、追いかけて来たって訳」

 いつもの調子に戻り話しをする渉。

「そうだ、知世さんの、、、刈谷さんも、、、」

 未だ薄く煙の上がる方を見ながら言う彩。

 走り出そうとした時、彩のカーディガンのポケットから聞き慣れた電子音が響いた。

 ポケットから、今時女子には珍しいガラケーを取り出すと開き見る。

知世ちせさん!」

 言うが早いか着信を取る。

(彩、いまどこ?)

「知世さんちの近くの公園、大丈夫??」

(え?ウチ通り越してるよ?そこ、、、)

「よ、よかったぁ、無事だよね?ね??」

(暑いけどね、元気だよ、明日遊びに行くから、またねー)

「うん、うん、じゃあ、おやすみなさい」

 再びへたり込みそうになったが、なんとか抑えた彩

「お、おじ、、、渉、、、さん?」

「ん?なんだい?」

「さっきの、刈谷さん、ううん、もう一人居た子、見た?」

「ああ、ちょっとアレは、、、そう言う件の話しをしに来たんだオレ

 、、、」

「なんなの?なんだったの?私は途中から混乱、、、してて、、、刈谷さんのフリした誰か?、、、変な炎浴びて、、、」

『ありゃ〜やっぱりなぁ、タダの暴走やん、怖い怖い、、、』

 定位置なのか、サブロウは渉の頭に戻って、彩を見ながら言う。

「や、やっぱり、ネコが、喋ってる?」

「ああ、コイツな、気にしなくていいよ、そのうち慣れるって」

『いっつも失敬やなぁ渉はぁ、チャンと紹介せえや、ボケェ』

「なんか、可愛い」

 彩は普段の感じに戻って来ていた

「ま、まあ、もう遅いし送るよ、ご両親に挨拶もしてないしね」

 ひとしきり、ふたりと一匹で、漫才の様に話しながら家路に。

 サブロウの事がメインで、名前の由来になると、サブロウは渉の中に引っ込んで行ってしまった。


「ただいま、、、」

「あ、彩、大丈夫?突然飛び出して行っちゃうから、お父さん心配して近所走り回って、大変だったのよ!?」

 玄関を開けると、両親が飛び出てくる。

「ごめんなさい、知世さんの家が火事だと勘違いして、、、」

「後でお父さんにチャンと謝りなさい、、で、そちらは?、、、わ、渉君?」

「ご無沙汰しております、本家の使いでお伺いしました。お嬢さんの事で、、、」

「本家、、、つきがみ?、、、ここじゃなんですから、上がってください、、、」

 急にかしこまった両親を見つつ、居間へ向かう。

 彩は部屋へ戻り、寝巻き風から、普段の部屋着に着替えて戻ってくる間に、ざっくりとだが、事の顛末を両親に告げていた。

「祖母の遠い昔話しだと思って居たのに、彩に、、、」

 母親は顔を覆って座り込み、父親は何故か落ち着いて聞いていた。

「それで、彩も、その精霊との契約、とかをせよと言う事でしょうか?」

 父親はまっすぐに渉を見据える様にして言った。

「彩さんの精霊は、ちょっと特殊らしく、、、」

「特殊って?何が特殊なの??、危ないって事??」

 戻って来た彩が聞き返した。

『えらい強い精霊、うんにゃそれ以上なモンがな、、、』

 ひょっこりと渉の頭に現れるサブロウ。

「どうすれば良いの?」

 細い体を小さく震わせながらも気丈に言う彩

「それは、、、」

 渉も言って良いのか口ごもってしまう。

『面倒くさ、ズバっと言うとやなぁ、嬢ちゃんと、あの龍と契約してもろて、後は成り行きで、、、』

 頭の上で面倒くさそうに言うサブロウ

「龍???」

「ああ、天之風雷御龍あまのふうらいごりゅう、という精霊だ、とても強い精霊で、伝説的精霊だ、契約も出来るかどうか、、、」

 少しトーンを抑えて渉が言う

『んなモン、やった事も見た事も無いんやろ?一緒や一緒、一発勝負や、やらんかったらどないなるかも解らへんのに、、、』

 渉の頭の上から再び体に潜りながら面倒臭そうにいうサブロウ

「ぶっつけ本番って、観てから決めよう、な??」

 周りの事などお構い無しで、渉は独り言のように言う

「観る?」

 彩は細い体を両手で覆い隠そうという仕草で、座り込む。

「あ、彩ちゃん、そう言うのじゃ無いから、、、安心して、、、」

 慌てて立ち上がると手を振ってアピールする渉

『いくでぇ〜』

 サブロウは勝手に魔法を発動させ、渉の右眼を金眼に変えてしまう。

 魔法を使うとその色に体が発光し周りを明るく照らす。

「コリャ、まずいなぁ、契約出来て無いからなのか、彩ちゃんの

 資質なのか、龍が巻きついて覆ってる、逃げも入れも出来ないでうごめいてる感じだ、、、って、、、」

 眼鏡をクイと上げながら言うと、フッと普段の眼に戻る。

「龍、、、本当に??、、、」

 両親が小声で呟く。

「はい、予定ではですね、家の本家でチャンと調べて、月神本家で封印なり契約なりの判断後、私が責任持って対処する予定、だったのですが、、、」

「予定って、彩がこうなる事がわかって居たんですか?」

 父親が静かに問う。

「はい、彩ちゃんが生まれた時には、、、私の祖父が観て、時が来るまではと、、、」

 すまなそうに話す渉。

「このままだと、どうなるんですか??」

 母親が震える様な声で、彩を後ろから抱きしめながら聞く。

「何も解りません、今は、、、明日また、、、空腹で、、、」

『渉は、腹ペコだと何も出来ないタダのメガネ君なんやでぇ〜』

 再び頭の上にサブロウが現れておちゃらけて言う。

「はぁ?」

 三人の声がハモって響く。


 数十分後、、、


 四人と一匹が食卓に着くと、家庭料理のオンパレードが広がっていた。

 唐揚げの山や、野菜サラダ、具沢山味噌汁、マンガのように盛られたご飯、コロッケやポテトフライなどなど、、、

 何故か先ほどの不安の渦など、無かったかの様に、ニコニコな母親がせっせと料理を運んで来る。

 彩は運ばれて来る料理が、消えていく様を引き気味で見ながら、サラダをつつき、父親も口に運んだビールが止まっていた。


「なん年ぶりだろう、美味しいです!!、家庭の味です!!」

『ブラックホールかいな、お前、少し遠慮しいな、、、』

「いいんですよ、これ位しか、出来ませんから」

 ご飯のおかわりを渡しつつ言う。


 ひとしきりあり、食べ終わると、出来かねていた、渉の自己紹介とサブロウの事、魔法の事、本家からの話をした。


「本来なら、本家で取り仕切り行うはずだったんですが、状況

 変わっちゃいましたので、何処か近くの人目の無い場所で、、、」

 渉が両親と彩に言うと。

『さっきから、辛気臭い事ばっかやんけ、パーっとココでやっつけた方が、ええんとちゃうん?』

 サブロウが器用に皿の上のアイスクリームを舐めながら言う。

「それじゃあ、いくらなんでも、、、」

『あの契約陣でも、ココなら十分やがな、結構広いがな、、、』

 神代月家のリビングは大体十畳以上の広さが有った。


「どっちにしても、遅かれ早かれなんでしょ?、、、ココでやって、、、お父さんお母さんも居るし、、、」

 彩は細い体にしては、度胸は座って居る様だ。

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