第4話 暗闇に燃ゆる焔

四話 暗闇に燃ゆる焔 (著者/月乃ハル)


 ーーーー午前一時半


「フフッいい眺め」

 とあるマンションの屋上に一人の女子高生が立っている。

 ふわっと風が彼女のパーカーフードをすくい上げ彼女の顔が月の光に照らされ、夜だからこそ黒にしか見えないダークブラウンの髪も風に揺られる。

 その瞬間彼女の横に南瓜が顔の形に彫られており、その下にはふわふわと不自然にまう黒い布が付いていた。

 まさしく有名なジャック・オー・ランタンと言ったところだ。

 ふと彼女は右手を前に構える。

「ジャック」

 そう呟いた瞬間ぽうっと赤い小さな光が現れ、街の方へと飛んでいった。

 その光は風に乗りふわっとされども深夜の街を歩く人に見て捉えられない様に早く突き進みやがてひとつの家の屋根にぴとっと止まる。

 その刹那、一瞬にしてその家に焔が襲い掛かり常闇の夜の世界にひとつの大きな火事という明かりが灯された。

「やっぱりいい眺めだわ」

 ひとつの火事を引き起こしその騒動をクスッと笑って見た後、彼女はマンションの屋上から姿を消した。


 ーーーー午前十時


 ーー氷矢……逃げて……ーー

 その言葉が聞こえた瞬間ピリリ、ピリリと電子音が聞こえ俺は夢から醒める。

「また、あの夢か……」

 とは言うもののどんな夢なのかは起きた時にはもううろ覚えで嫌な夢としかわからないのだが。

 そしてピリリ、ピリリと電子音がなり続ける目覚まし時計を止める。

「もうこんな時間か……はぁ、こんな暑いのに追試なんて受けたくねぇ……仕方ないけど」

 ちゃんと水分取らないと熱中症になるのではないかと思うほど今年も暑い。

 身支度を整えたあと天気などの情報を見るためテレビをつけるとまた発火事件か取り上げられていたが、今みたいのはそれじゃない。

 俺はすぐにリモコンの特定のボタンを押して今日の天気、現在の温度並びに最高気温を確認した。

「うぇぇ、まだ昼前なのに三十四度とか……死ぬ」

「お兄ちゃんおはよー」

「うぃーって氷雨部活は?」

 目の前にいる氷雨……妹は運動部に入っている、そのためこの時間は朝練で家にいないことが多い。

 しかし今ここにいるということは。

「今日は休みだよー」

 やっぱりそうだったか。

 氷雨が通う学校は毎年夏になると猛暑の中毎日朝練していては体調が悪くなるからという配慮で休みがある。

 全く追試食らって学校に行くやつにもそういう風に休みが欲しいものだ。まぁ室内だから貰えないのは知っているが。

「あ、これお弁当」

「一応聞くがこれにーー」

「入ってるよ?」

 何を言おうとしているのかわかったのか即答していたがその答えを聞いた瞬間、泣きたくなってきたぞ。

 なんせ、この弁当にはガルフリードのご飯も入っている。その上辛いものが入っていると言う。まさかここまで魔法を使わせないようにしてくるとかもう泣きたくと言うより泣きたいぞお兄ちゃん。

「良かったな今日の昼は魔法が使えないぞ兄弟」

「おま……道理でいないと思ったら俺の身体の中で涼むなよ……」

「おはようガルちゃん」

 ガルフリードというのは今俺の体からするりとまるで幽体離脱したかのように現れた狼の精霊。

 こいつと俺は契約を結び魔法が使えるのだが、こいつが辛いものを食えば魔法が使えなくなるという大変迷惑なおまけ付きだ。

「あ、お兄ちゃん、途中でガルちゃん用のお弁当お兄ちゃんが食べちゃダメだからね!」

「わ、わかってるよ……」

 前にガルフリード用の弁当に辛いものが入っていてそれをこっそり食べたことがあるのだが俺はその事は話したことがない。こいつが氷雨に言ったのだ。

 そして朝食のパンを食べ俺は学校に向かった。

 もちろんガルフリードは俺の身体の中へと戻っている。

 ーー数分後学校にたどり着く。

 ここは市立桜峯高校。ま、創立五十年以上の高校だが学校自体は改装したりなんだりと案外綺麗な方だ。

「おはようございます星神君」

「あれ、なんで生徒会長が?」

「生徒会の仕事です。まあ、先程終わりましたけど」

 生徒玄関を潜り教室に向かっていると生徒会長ーー一学年上の先輩で清楚系の刈谷里香かりやりか先輩だーーから声をかけられる。

 生徒会長がなんで後輩に敬語を使っているのかは知らないがきっと癖かなにかだ。

 ちなみに生徒会長は凄く記憶力が良いらしく一学年の頃から学年トップと噂されている。

「……生徒会長もこんな暑い中お疲れ様なことで」

「星神君も追試頑張ってください。それでは失礼します」

 サラッとしたダークブラウンの髪をふわりと揺らしぺこりと礼儀良くお辞儀をしたあとすたすたと学校を後にしていた。

「さてとちゃっちゃと終わらせて俺も帰ろー」

 そんな生徒会長を見届けたあと俺もすぐに追試を終わらせるべく教室へと向かった。

 にしても室内だって言うのに湿度が高くて外にいるのと同じくらい暑い……


 ーーーー午後十二時


「ようやく開放されたー」

 追試は毎回昼に終わる。それだけは救いだったが、やっぱり座学は苦手だ……また次も来ないといけないし、この世から追試なんてなくなってしまえー。まぁ、願ったところでなくなるわけがないんだが。

「さてと」

 追試が終わってもすぐには帰らない、俺はいいのだがガルフリードが氷雨の弁当を毎日の如く楽しみにしていて昼に食べないと機嫌を損ねる時があるからだ。何ともめんどくさい。

(おい兄弟、今俺のことめんどくさいって言わなかったか)

(言ってない)

(いや、絶対言った)

 と言い争いつつ屋上に向かう。

 屋上の方が人が来ないから都合がいいからだ。しかしこの猛暑、外は暑い。そのため向かうのはさしずめ屋上に続く階段と言ったところだ。

 ーーそして数分後屋上に続く階段にたどり着き弁当を食べた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る