ダイアモンドベアーを探し求めて
寒波襲来。無茶苦茶雪降ってる。明日WIXOSSの大会行こうと思ってるのに行けるかね。寒波なるものが近づいていることを昨日知った。ふらっと見た店の看板が『寒波が来るようです』と教えてくれていたのだ。竹内緋色はニュースを見ないので人類が滅亡しても気が付かないだろう。
吹き付ける雪の中、竹内緋色は夜道を急いでいた。米を買いにドラッグストアへと向かっていたのだ。ギヤマンに雪がひっつくのを嫌がり、顔を俯かせながら、暗い夜道の水溜まりに気がつかず、靴を2,3度濡らしていた。バシャバシャと車の横切る音が響く。まだ19時というのに辺りは真っ暗だ、ほんの3月ほど前まではまだ明るかったのにと忌々しく思いながら、吹き付ける木枯らしが首筋に当たって、手拭いでも喉に巻いてこればよかったと後悔していた。雪が鼻先に辺り、竹内緋色の鼻を赤く染めるものの、顔は寒さに慣れきり、何も感じなくなっていた。
「人の心も斯様に鈍感になれればどれほどよきものか」
ドラッグストアの灯りに照らされ、安堵する反面、急激な温かさが訪れると思うと竹内緋色は顔をしかめた。入ろうか入るまいか考え連ねた挙げ句、ちらと近くに玩具の詰まった玉を吐き出すガチャガチャを見る。ラインナップは幼児向けばかりであった。
「いやらしいガチャガチャだ。私を誘っているのだろうか」
自ら媚びへつらうかのように開く自動ドアを尻目に燦然と光輝く店内へ足を踏み入れた。
「私と自動ドアはよい理解者となるだろう。しかし、ともにはなれない。憧れとは理解から最も遠い感情だよ」
10キロの米を担ぎ、レジスターへ。その道すがら、レトルトパウチのカレーを手にする。
「レストラン用とは如何様か。このクソマジィ安価なチープが」
購入。
店を出る。
またも寒さが竹内緋色を襲うが、今の竹内緋色には心地がよかった。
「世界は決して私の味方をしない。しかして、世界を切り取って、自分に心地よい世界を作り出すことに意義はあるというのか」
竹内緋色は歩きながら思いを馳せる。
米袋10キロを持ち運ぶのは大変だが田舎の米袋はこの3倍はあった、と。
そんな時である。
世界は縦に区切られるのか。それとも横に切り裂けるのか。
「ダイアモンドベアーを探し求めて」
竹内緋色は浮かんだ言葉を口にしていた。
「そう。これは意味のない言葉。なのだがしかし…」
竹内緋色の脳内には新たな世界が導き出されていた。
主婦。その主婦は姑と夫と息子との4人暮らしであった。
であった、のだ。
主婦は最愛の息子を事故で失う。
姑との仲は悪いわけではなかった。夫とはそれほど話はせず、しかして互いに浮気などをすることもなし。もししていたとしても互いに何も感じなかったであろう。
主婦は子どもを玉のように可愛がっていた。故に失ったときの喪失感は言葉にできず。しかしてその苦しみを知るのは本人にしかあらず。
主婦は子どもの遺品整理を始める。
1つの手に取り1時間は悲しみに明け暮れた。
主婦は震える指先で一枚の紙を手に取った。
それは子どもの書いた絵であった。クレヨンで描かれた歪な物体。それは落書きなれども主婦にとっては宝物であった。
「なに?それ」
「ダイアモンドベアーだよ。ダイアモンドはかたくてつよいんだ。ベアーも強くて優しいから、ダイアモンドベアーは誰よりも強いんだ」
幼く無邪気な声が耳に残っていた。
紙に書かれたものはダイアモンドベアーというものである。
主婦はポロリと涙を流す。
零れた涙はダイアモンドベアーを溶かそうとする。
主婦は自らの涙からダイアモンドベアーを守るように、画用紙を胸に包み込んだ。
「わたしはならないといけない。強い存在に。誰にも負けない、ダイアモンドベアーに」
それは歪な立ち直りかただったのだろう。しかし、人はいつか立ち直らなければならない。
主婦は強さを求め、ストリートファイターとなった。これは強さを求めた女性の儚くも悲しい物語――
夫がヤクザに拷問されて死んで、姑が目の前で実の息子が殺されてもなお主婦の居場所を吐かなかった、ところで家にたどり着いた。
ダイアモンドは世界で一番丈夫で傷つかないと思っているだろうが、あれは炭なので簡単に燃えてなくなる。髪の毛でもダイアモンドって作れるぜ。
そして熊は毎年出没して人を襲って――という恐ろしいイメージがあるものの弱者である。あいつは雑食生で肉なんて食べない。で、増えすぎたシカに食い物を根こそぎ奪われ人里に出没するのである。あの巨体であるので多くを食わねばならないだろうが圧倒的に食事が足りていないのである。
つまりは――ダイアモンドベアーは強さではなく弱さの象徴と言えるだろう。しかしてその脆さを知るものは数少なく――
でまあ、なにが言いたいのかって言いますとね、竹内緋色はぽっと浮かんだ謎ワードから小説を作り出しちゃったりする。何故か浮かんできてしまう。
ちゅーか、ダイアモンドベアーってなんだよ…
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