反省

 八坂神社を出てすぐ、こやねさんは叫んでいた。

 

 「なにあれ!ちょっとは話聞いてくれたっていいじゃない!ほんと嫌なやつ!」


「こやねさん。落ち着いてください」


「落ち着けるか!あとお腹減った、ご飯食べ行く。

 お店は坂本が決めて。すぐに!」


 こやねさんは癇癪を起こしていた。

 この部分だけ見ると年相応に見えてくる。

 こやねさんに落ち着いて欲しいし、僕もお腹が減ったので、周りを見回すと"鰻丸"と書かれた看板が見えた。

 鰻屋か…高そうだが。


「こやねさん。鰻はどうですか?近くにお店ありますよ」


「うなぎ!いいじゃない。早く行くわよ」


 僕はぷりぷりしてるこやねさんと一緒に近くの鰻丸へ行くことになった。

 神様もお腹が減るんだなぁとか思いながら店に着くと、開店してすぐだったのかお客さんはまだ少なかった。

 テーブル席に座り冷たいお茶をぐっと飲んだ。


 こやねさんも少し落ち着いたようだ。


「こやねさん、何食べます?」


「やっぱり鰻重よね。久しぶりに食べるなぁ」


「じゃ僕も同じので、すいませーん。鰻重を二つお願いします」


 3,700円が二つか…。

 これもお賽銭だと思えばなんとか気持ちは収まりそうだ。


「こやねさん、あめのさんから相手にされないことは想像してました?」


「いや、思ってなかった。言えば返してくれると思ってから」


 こやねさんは、あっけらかんと答えた。

 これでも営業の仕事をしている僕からすれば、それはあまりにも短絡的な考え方だなと思った。

 

 当然神様にストレートに伝えるのはまずいなと思ったので、反省を踏まえて作戦を練ることにした。


「こやねさん、あめのさんは何か理由があって勾玉を盗んだと考えたほうがいいかもしれません。

 盗むには人が必要なら、その人を見つけたほうがいいんじゃないですか?」


「その人を見つけてどうするのよ。

 同じように玉返せって言うの?」


「いや、その人が叶えたいことを叶えてあげるんです。

 そうすれば勾玉は必要ないでしょう?」


「それはいい考えね。そうしましょう」


 どうやってあめのさんに付いてる人を探すか、などのことは深く考えていないようだ。

 だが、そのくらい行き当たりばったりで物事を進めた方が、いい方向に進むこともある。


「坂本!あの店員が持って来たの私たちの鰻重よ!待ち切れないわね」


 神様の言った通り、店員さんは僕たちの鰻重を持って来た。

 蒲焼のとても香ばしい匂いが胃袋を刺激する。


 こやねさんは、鰻重がきた途端、いたただきますと大きい声で言った後、美味しい美味しいと、嬉しい顔をして食べていた。


 合計7,400円か…。昼食にしてはとても豪華な値段であった。

 

「さぁ、行きましょうか。再び八坂神社に」

 

 こやねさんは、落ち着きを取り戻し、歩き始めた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る