初陣

 八坂神社は森の中にあった。

 邑勢神社は公園とくっついているため、入りやすい雰囲気があるが、こちらはとても入りにくい。


 まさに神社といった感じだ。


 僕は少し入ることに躊躇していた。

 もし、化物みたいな神様だったらどうしようとか、怖かったらどうしようとか、思い出すとキリがない。

 それでも、こやねさんがいるし大丈夫かな。


 小さな女の子がこんなに頼もしく見えたのは初めてだった。


 こやねさんは腕組みをして仁王立ちしていた。


「坂本に来てもらった理由はなんだけど、私だけじゃ入れないのよ。

 他の神社に。

 人が勝手に他の人の家に入れらないのと同じ」


「僕がいると入れるのはどうしてですか?」


「人なら参拝目的で入れるでしょ?

 それに神様がくっつくってわけ」


 なるほど。

 でもそれだと…


「気付いたって表情してる。

 そう、もしうちの神社で勾玉を盗むなら神様は人と組まないといけないの。

 となると、相手は神様だけじゃない。

 まあ、坂本に前面に出て貰うことは考えてないから安心して。」

  

 僕はこやねさんの後ろについて歩いていたら。

 情けないがしょうがない。

 怖いのだ。

 人気がなく、なんか肌寒い感じもするし、あとお腹も空いてきた。

 

 白い石畳の上を歩いていると、ポツンと本殿が見えてきた。

 本殿の前には立派な狛犬がこちらを睨んでいる。

 変なことをしたら噛むぞ、と言わんばかりの表情をしている。

 

 僕が境内に入った時、これまでは誰もいなかったのに、本殿の扉の前に突然人が現れた。


 僕はとても驚き、身体がビクッとしてしまった。

 こやねさんに飛び付かなくてよかった。


 改めて見ると、本殿の扉の前には男が1人座っていた。

 足を広げ、頬杖をついている。


 年齢は僕と同じくらいだろうか、茶髪で紺色の浴衣を着ている。

 顔は…カッコいいな。今の女性に受けそうな女性的な顔立ちで、肌は白い。


「何のようだ、天児屋根神」


 突然男は話した。

 かなり警戒している。声はけっこう低い。


「おうおう、いきなりその言い方はないだろ。

 天忍穂耳命よ、私のことを待っていたのかと思ったわ」


 二人の間に少し沈黙が残る。

 張り詰めた空気がその場には漂っていた。


「なぜ待つ必要があるのか。

 用件を言え。

 雑談する気はないぞ」


「つれないのー。せっかく会えたんだからちょっとくらい世間話してもいいではないか。

 私がここに来た理由はわかっておろうが」

 

 天忍は何も言わない。

 しかめっつらで黙っている。


「なんじゃ、心当たりがありすぎて何も言えなくなったか。

そうか、そうか、分かっているなら話が早い。

用件を言おう。

うちの勾玉知らないか?

ちなみに、お前が奪ったことは知ってるぞ」


「知らん。帰れ」


 即答だった。


「嘘つけ!お前じゃろ!勾玉盗んだの!」


「何を言ってるんだ。知らん。何を根拠に盗んだと言ってるかも意味が分からん」

 

「ぐぬぬ…

 わかった。帰るぞ」


 こやねさんはあっさりと交渉を諦めてしまった。


「えっ…。いいんですか?」

「いい。帰る」

  

 こやねさんちょっと怒ってる?

 いや、怒ってるというかいじけてる。


 こやねさんは踵を返して来た道を戻った。

 僕も後をついて行った。

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