再戦

 僕はこやねさんと話し合い、ひとまず遠くで八坂神社の様子を見ることになった。


 また天忍に直接話をしても、門前払いをくらうだけなので、天忍に付いてる人が誰なのかを確かめることにした。

 

「ここからなら、境内も見えますし、いい場所ですね」

「そうね、早く現れないかしら。美味しいもの食べた後だと眠くなっちゃうのよね」


 こやねさんはすっかりおねむだ。

 僕が選んだ場所は、鳥居の横にある建物の裏で、うまいところに隠れたなと自画自賛した。


 15分程だろうか、小学生くらいの男の子が一人で神社に入って来た。


 男の子は本殿の前に立つと、辺りをキョロキョロして誰かを探しているようだった。


 すると、何処からともなく天忍が現れ、男の子と何か話している。


「こやねさん!あめのさんが何か話してますよ!」


「んん…。え? あ!ほんとだ!あの小僧に違いないわね」


 こやねさんちょっと寝てた?

 声を掛けなかったらずっと寝てたかもしれない。


「話し声聞こえますか?遠いので僕は聞き取れないです」


「神様舐めないでよね。はっきりと聞こえるから安心しなさい」


 こやねさんの神様らしいところが初めて見えた気がする。

 ここはこやねさんに任せることにした。


 男の子は天忍と5分くらい話すと、手を振り、来た道を戻って行った。

 ランドセルを背負っていたので、帰るついでに寄ったのだろうか。

 天忍には笑顔が見えた。

 男の子と話して楽しかったのだろう。


「ははーん。なるほど。坂本、あなたは天忍のところに行って何話したか聞いて来なさい。

私はあの男の子を追いかけて事情を聞いてみるわ」


「二人が何話してたのか教えてくれないんですか!あんまりですよ!」


「何も情報がないほうがいい方向に進むこともあるのよ。

天忍は悪いやつじゃないから大丈夫。同じ年くらいの見た目同士なんだから何とかなるわよ」


 こやねさんは、「後はよろしく」とだけ言って一目散に男の子を追っかけて行った。


 本殿には天忍が階段のところに座り、余韻に浸っているようだった。


 さて、どうしたものか。


 普通に話しかけて答えてくれるのか。

 またあの門前払いを喰らうのは嫌だな。

 仕事でも同じようなことを若手の時に経験していて、今でもトラウマになっているため、すぐに身体が動かなかった。

 ファーストコンタクトは大事だぞ。

 頭の中ではこれまでの営業の経験を踏まえた様々な接客方法を活かせることができないか試行錯誤していた。


********************


 坂本のやつ上手くやってくれるかな。

 今日突然私の用事に付き合って貰って、悪いとは思ってる。

 けど、こっちだって必死なんだから!

 このままだと災いが起こるかもしれないんだから人間が神様を手伝うのは当然よね。

 天児屋棍神はそう自分に言い聞かせていた。

 少し走っていると、先ほどのランドセル少年が見えてきた。

 あの少年、なんか嬉しげだわ。

 何か良いことあったのね。


「そこの少年、待ちなさい」


 私が声を掛けると少年が何者かと振り返った。

 まぁ私は崇高な神様だから、声なんて掛けなくても存在で振り返らせることもできるんだけどね。


「話は聞かせて貰ったわ。勾玉のお陰でいいことあったのね」


「あなたは…だれ?」


「何を隠そう私は神様よ!こやね様と呼びなさい」


「ほんとに神様?ちょっと年上のお姉ちゃんにしか見えないよ」


この坊やは何を言ってるのかしら。

どこからどう見ても神様でしょ。


「坊や、口の利き方に気をつけなさい。さっき神社で男の神様と会ってたでしょ。その人より私は位が上なの。もっと気を遣いなさい」


「なんだかよく分からないけど、何の用ですか?」


「坊やが持ってる勾玉の話しにきたの。単刀直入に言うけど、その勾玉私のだから返して」


「嫌です」


男の子はきっぱりと断った。

何の躊躇もない。

首から掛けていた勾玉を寂しそうに見ながら言った。


「あなた、それ私のものなんだけど。人の物を盗ったら泥棒になるって教えてもらえなかったの?」


「僕はこれがあれば願いが叶いそうなんです。だから今は返したくないんです」


予想通りだわ。

坂本との作戦を実行に移すときがきたのね。


「そう返事をすると思っていたわ。それじゃ私が坊やの願いを叶えてあげるわ」


勾玉の力なんてなくても私が願いを叶えられる自信がそこにはあった。

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