説明
僕は、生まれてこの方人からこんなに頼りにされたことはなかった。
だから嬉しかった。
仕事でも与えられたノルマをこなしてきただけ。会社の小さな歯車的存在だったのだ。
だから、目の前にいる美少女の期待に応えたいと思っていた。
「わたしの宝物の
と、少女は言った。
やさかにの…?なんか技名か何かで聞いたことがある。そんな大層な物を持っているのか。
「取り戻す?誰かに奪われたとか?」
「うん、近くにある八阪神社、わかる?」
八坂神社。
聞いたことないな、神社巡りの初心者マークを付けている僕には分からなかった。
僕が、ん?みたいな顔をしていたのが見られたのか、少女は少し怒ったような、はたまた呆れたような表情をしていた。
さっそく信頼度が激落ちしたようだ。
「わからないの?あなたなら分かると思ったのに。」
何か少女の言葉遣いが悪くなってきたような気がする。気のせいか。
「私は、あなたなら勾玉を取り返せると思って声を掛けたの。期待を裏切るようなことしないで」
「僕がそんなに頼りになる人に見えました…?」
何故か初対面の少女から怒られた。
僕は何も悪いことはしていないと思うのだが。
僕が不満そうな顔をしていたのが分かったからなのか、少女はあぁそういえばそうか…みたいな表情をした。
「わかった。ちやんと説明するからこっちにきて」
僕は少女の後ろを着いていき、カルガモの雛のように歩いていた。
つい10分前くらいまでは、お参りをして、ベンチで少し休んだら、来る時に見た天丼屋さんに行こうかなと思っていたのに。
まさかここまで突拍子もないことが起こるとは思わなかった。これは運がいいのか、はたまたお賽銭が少なかったことのバチが当たったのか。
少女の後ろ姿を見る。とても綺麗な髪だ。手入れが行き届いているのか。この子の親はいい人なのだろう。
「そういえばまだ私のことを話してなかったね。
私の名前は、
ここの神社の神様だよ」
突然少女は自己紹介をした。
あぁ神様かぁとは当然ならなかった。
なぜ神様が僕に?もしかして僕は神様が見える特殊な体質を持ってるのでは?とも思ってワクワクした。
「神様?ほんとですか?」
「そりゃ信じないでしょうね。私だって人に見られる状態で具現できるとは思わなかったし」
「具現?ということは、他の人にもこやねさんが見えてるということ?」
「そりゃあね。幽霊じゃないし」
突拍子もないことを言われ、にわかに信じ難いことなのだが、少女から出ている雰囲気が年相応ではなかった。
とても神秘的に感じていたのだ。
これは神様と言われる前から感じていたことなので、僕はこの少女から神様と言われ、嘘を言ってると思えなかった。
ただ、ほんの少しだけ残念に思った。自分だけにしか見えないことにワクワクしていたからだ。
「あぁ、迷惑なら断ってもいいから。他の人に頼んでもいいの」
「いえいえ、迷惑じゃないです。
僕にやらせてください。」
「そう、ありがとう」
初めてこの少女の笑顔を見た。
とても綺麗だった。
何故か分からないけど使命感みたいなのを感じてしまい、思わず口に出していた。
少し歩くと、境内の横に立てられていた看板の近くで少女は止まった。
「いい?ここの他に八坂神社、若宮神社があるの。
三つの神社が共同でこの地域を守っていると言っていいわ」
神様少女、いや、こやねさんは、看板に書かれた地図を指示しながら僕に説明をしだした。
この子って見た目は小学生くらいだよな?なんか会社にいる性格キツめだけど仕事がでにる上司の髙橋さんみたいだなと思っていた。
「ちょっと、話聞いてんの?私がこんなに丁寧に説明してあげてるのに」
しまった、他のことを考えていた。人の話は良く聞くように指導を受けているのに。
「勾玉はおそらく八坂神社にあると思う。
時間を無駄に出来ない、早く行くよ」
「わかりました。」
僕は分かったと言っているが、何が何だか分からない。
言われるがままついていくのが精一杯だった。
これからどんなことが起こるのだろうかと、わくわくしていた。
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