第13話 安藤さんと眠れる心
「ぐぁぼおぶぇばっ!!!」
女子とは思えない悲鳴をあげ、古沢は倒れた。あまりにも強い衝撃に、腰が抜けてしまったのだろう。古沢の頬に安藤さんの手の痕がはっきりと刻み込まれている。
「ちょっ、安藤さん!?ビンタ・・・、えぇ、強っ・・・」
まさか安藤さんがやり返すなんて思ってもいなかったので、僕は驚きの心中を彼女に訴える。
「正当防衛です。」
正当じゃないよね、明らかに殺しにきてたよね。過剰だよ安藤さん。だってビンタなのに銃声のような音したもん!古沢が世紀末の雑魚みたいな声あげてたもん!白目むいてるもん!!!
「・・・なんだか嫌な気持ちなんです。この人のせいで私は嫌な気持ちになりました。」
安藤さんは僕に言う。たしかに、安藤さんの表情はどこか不快そうだ。
と同時に僕ははっとした。そしてすかさず、安藤さんにその思いをぶつけた。
「・・・それが『怒る』って感情だと思うよ、安藤さん。」
安藤さんが思いがけず起こした一連のやりとりにおいて、彼女は知らず知らずのうちに、1つの精神的異常を起こしていた。それが『不快感』。恐らく、古沢が僕の悪口を言ったことに対して、安藤さんは不快感をおぼえていたのだ。安藤さんにとっては経験したことの無い状態だろう。僕らはそれを「怒り」の感情と呼ぶ。
「今の安藤さんの気持ちこそ、僕らでいう『怒る』っていう感情なんだよ!」
「・・・!」
安藤さんは一瞬驚いたような顔をした。「なるほど」とつぶやき、安藤さんは再び古沢の方を見る。
「・・・あなたのおかげで良い勉強になりました。とても有意義な時間だったと思います。」
ビンタされ、またビンタし返した相手に、安藤さんは礼を告げた。白目をむいて気絶している古沢をよそに、その仲間たちは困惑しながらこの状況を見つめている。
「ですが、今度また
さきほどの銃声ビンタが正当防衛ならば、正当防衛で済まないとなると頭部が胴体から分離してしまうのではなかろうか。安藤さんの場合、あり得ない話ではないから恐ろしい。それを悟ったのであろう、古沢の仲間2人は青ざめる。
「し、失礼をばいたしましたぁ~~!!!」
古沢は仲間に抱えられ安藤さんの前から去って行った。
嵐は去った。大乱闘にならなくてよかった。安藤さんの過剰防衛が陸上部から訴えられないかだけが心配である。
「『怒る』という感情、気付いていただきありがとうございました、久遠さん。」
安藤さんが僕に礼を言う。僕は照れながら相づちをうち、そして続ける。
「安藤さんこそ、ありがとう。」
「・・・え、私は何もしていないと思いますが。」
僕の感謝の意味が分からず、安藤さんは困惑する。感謝の意味を自分から言うのも恥ずかしいというかナンセンスのような気がしたので、言葉を濁すだけ濁しハンドボール投げの測定を行っている校庭に向かった。
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