第6話 安藤さんとネバーダイ


瑛士えいじ君、僕が明日の試合でホームランを打ったら、手術を受けてくれるかい?」



「は?明日の対戦相手ってリーグ順位最下位のチームやんけ。そんな雑魚との試合でホームラン打った程度で手術受けるほど、僕の命って軽いんか?」



「じゃあ、ホームラン打つプラス無失点で試合に勝つ。そしたら、瑛士君は手術を受けて・・・」



「無失点どころか、走者ランナー1人も出さないのにしようぜ。」



「じゃあ、ホームラン打つプラス相手打者を1人も塁に出すことなく試合に勝つ。そしたら手術・・・」



「お前らのチーム、1アウトチェンジでやろうぜ。」



「じゃあ、ホームラン打つプラス三者凡退プラス僕のチームが1アウトチェンジで試合に勝ったら手術・・・」



「あとバットの代わりに大根で球打とうぜ、ゲハハハ」



「もういいお前手術受けなくていい、死ね!」




―――――



 ホームラン宣言をして手術を受けるよう激励げきれいしてくる野球選手に対し追加条件を増やしていった結果、金属バットで思い切り顔面を殴られたところで、僕・久遠くおん 瑛士は夢から目覚めた。



 何て恐ろしい夢だ。今まで見た夢の中でトップ3に入るレベルの恐ろしさだった。なんて考えているうちに僕は正気に戻る。僕はベッドの上で横になっていることに気付いた。




「・・・大丈夫ですか、久遠さん。」




 僕が目を覚まして最初に視界に映ったのは、無表情でこちらを見つめる安藤さんの顔だった。




「うぇっ、あ、安藤さん!?」




 驚いた拍子に大きく身体を揺らすと、僕の身体全体に激痛が走った。恐らく先ほど机の下敷きになった際に負った怪我のせいであろう。痛みを感じるということは、これは夢じゃない。僕は生きているのだ。




「あんまり動いちゃダメよ。今あなた全身打撲だぼくしてるんだから。」




 奥の方から別の女の人の声が聞こえてきた。その正体は保健室の先生「鬼塚おにづか 朝陽あさひ」だった。えげつねぇ名字からは想像もできないほど若くてお綺麗な保健室の先生は僕の様子を見ながら事の経緯いきさつを話しはじめた。




「机の下敷きになったアナタを、安藤さんがすぐに連れきてくれたから大怪我しなくて済んだのよ。彼女に感謝することね。」




 僕は目を見開いて驚いた。安藤さんが僕を助けた・・・?地球を侵略しに来たロボットの安藤さんが・・・?



 ・・・と思ったが、安藤さんの背中からケーブルが伸びていたというのは、僕の見間違いなんじゃないかと思い始めてきた。何しろ最近の夢は凝っているからな。普通に考えろ、ロボットが転校してくるわけがないのだ。その上、地球を侵略しに来ただなんて、中二病もいいところだ。



 「安藤さん地球侵略ロボット説」は僕の勝手な妄想であることに気づき、助けてくれたという安藤さんに、僕は素直に頭を下げて感謝した。





「じゃあ安藤さん、あとは私が見ておくから授業に戻りなさい。」




 僕が目覚め、感謝を伝えたところで、鬼塚先生は安藤さんを教室に戻るよう誘導する。授業中なのに、安藤さんはわざわざ保健室に残ってくれていたのか。人の優しさに触れた実感を味わい、僕はとても嬉しい気持ちになった。




「いえ、心配なのでもう少し残ろうと思います。」



「え、あぁそう?安藤さん、優しいのね。じゃあ私は職員室に用があるから、彼の面倒お願いね。」



「はい、分かりました。」




 安藤さんの残留宣言により、鬼塚先生は自分の用事を済ませるために保健室を出て行く。こうして、保健室に僕と安藤さんだけしかいないという状況になったところで、安藤さんは僕に話を切り出した。




「・・・ということで久遠さん。昼休みの件なのですが」




 嫌な予感がした。僕は逸らしていた目線を安藤さんに向ける。




「私の背中から伸びるケーブル・・・、見ましたよね?」




 予感は的中した。やはりあれは見間違いなんかじゃなかったのだ。僕は再び、安藤さんが地球侵略をしに来た刺客にしか見えなくなってしまった。

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