第5話 安藤さんと地球侵略

 安藤さんの背中の内側からケーブルが伸びて出ていた。僕は思った。どうせケーブル型のアクセサリーなのだと。



 最近の女子高生は、やれ「〇〇映え~」だ、やれ「マジ卍~」だの、訳の分からん言語を話す。だから、こういう背中にケーブルのアクセサリーをつけてコンセントにつなぐのがイマドキのトレンドだと勝手に解釈したのだ。




 僕はそれがアクセサリーだという一応の確信を得るために、ケーブルを取り外そうと試みる。



 ケーブルを掴み、グイッ。・・・、グイッグイッ。



 グイグイ引っ張ってみても、まったく取れる気がしなかった。その感覚はまるで、本当に安藤さんの背中の中から伸びているかのような・・・




「・・・見て、しまいましたね。」




 うつぶせで顔を伏せたまま、安藤さんは小さく言い放った。自分の背中にゾッとしたものが走り抜けたような気がして、身震いが起こる。なにか禁忌に触れてしまったように思い、僕は急いで安藤さんから10mほど離れた。



 心臓の高鳴りが尋常ではない。夢のようなものを目の当たりにしているのに、決して夢ではないのだから。味わったことの無い恐怖と緊張感が僕を襲う。


 しかし、僕も原始人ではないのだから、少しずつ冷静さを取り戻す。やがて僕の中に1つの考えがよぎる。




―――安藤さんは、ロボットなのではないか?




 非現実的なことを言っているのは重々承知している。とうとう現実とアニメの区別もつかなくなったかと侮蔑ぶべつする人もいるだろう。しかし、僕にはそう考えることしかできなかったのだ。与えられた現状のヒントからでは、そう判断するのが1番合理的であるのだ。



 じゃあ、その仮説が正しいとしよう。なぜロボットが女子高生にふんして僕の通う高校に転校生としてやって来るんだ?意図がわからないぞ。




―――もしかして、地球侵略?




 ま、まさかね、そんなわけ、そんなわけないよな。地球を侵略するならもっと堂々と侵略しにくるよな。ウルトラ怪獣みたな感じに。




 じゃあ、その仮説が正しいとしよう。・・・・・・僕、殺されちゃうんじゃない?




 地球侵略を企てるロボットの正体を知ってしまったのだから、僕は確実に始末されてしまうだろう。よくあるじゃん、黒幕とか陰謀を知ってしまったヤツが殺されるっていう展開。今まさにその状況じゃん。



 はい、では問題です。この状況で次に僕がとるべき行動は何でしょう?そうですね、アレしかないですよね。足を使うアレですよね。そう、すなわ




―――逃げる




 僕は振り返り、空き教室から出て行こうとする。出口の扉に向かって走り出すと、僕は突然「」に襲われた。気付いた時には、僕は超重量の下敷きになっていた。




「ぎぃゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!!」




 僕は断末魔の声をあげた。忘れたのか、ここは物置と化した空き教室だ。激しく動くと振動で積み重ねられた机がバランスを崩し、なだれ落ちてくる光景を先ほど目撃したばかりではないか。



 なぜ僕は学習しない。なぜ僕は安藤さんと同じ事故を起こしてしまっているのだ。マヌケもいいところだ。結局のところ僕はまだまだ原始人だった。




 それにしても重い。やはり机の重量は侮ってはいけない。苦しい。非常に息苦しい。机に埋もれて、光が閉ざされ前が見えない。




 僕は自分の未来を悟った。この重さに苦しみながら少しずつ死んでいくのだと。もしくは地球侵略を目論もくろむロボット、安藤さんに処刑されると。どのみち僕は死ぬのだ。



 しかし、僕は構わないと思った。なんてったって友達も彼女もいないこんな世界だぜ。昼休みに教室にいると居心地が悪いからっていって空き教室に逃げるような男だぜ。惨めも惨め。これ以上惨めさを上塗りせずに消えていけるなら、それはそれでいい。僕の心は怖いくらいに安らかだった。




 圧迫死か、殺害か。どっちの方法で命を終えるのか、僕はひとりで賭けギャンブルをしていた。僕は圧迫死に賭けた。なぜなら、窒息で勝手に死んでくれたほうが安藤さんとしては証拠を残さず始末できるからだ。だから僕は、彼女にとって理想的な死を遂げる方に賭ける。




 だんだん苦しさを感じなくなってきた。死が近づいていることを実感する。死因は圧迫死。このギャンブルは僕の勝ちだ。謎の達成感を胸に、僕はゆっくりと目を閉じる。このつまらない世界に別れを告げるように。

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