第3話 安藤さんとルーティーン

 やぁみんな。僕の名前は久遠くおん 瑛士えいじ。どこにでもいる健康で文化的な最低限度の生活を謳歌おうかするコミュ障ぼっちの高校生だ。



 僕は昼休みなるやいなや、隣の席の転校生・安藤 愛子さんをお昼に誘ったが見事に撃沈し、現在このように1人でお昼ご飯を食べている。



 白米ってこんなに味がしないものだったかなぁ。でもおいしいおいしい。白米の無味無臭さに逃避しながら、今日も僕は悲しい昼飯を食べ終える。





 あぁ、本当なら今頃安藤さんとお話ししながら昼食を楽しんでいるはずだったのに。勝手な理想を蔓延はびこらせながら時間を確認する。



 昼休みが終わるまで、まだ30分ほどある。僕は弁当箱をしまうと、席を立ち教室をあとにする。友達もいないのに、1人で教室にいるなど居心地が悪くて仕方が無いのだ。



 4階には、机や椅子などが敷き詰められ、もはや物置と化している空き教室(僕はユートピアと呼んでいる)がある。僕は毎日、昼飯を食べ終えると、昼休みが終わるまでそこで時間をつぶす。もはや日課ルーティンになっている。



 高校の時とか、よく昼休みに飯食ったあと教室出て行くヤツいただろ?そいつらの3割は他のクラスの友達のところに行ってて、もう7割は僕みたいに人気ひとけのないところで昼休みが終わるのを待ってるんだよ。



 なぜそんなことをするのか、だなんて野暮やぼなことは聞かないでおくれよ?先ほど言ったが、友達もいないのに教室にいるのは居心地が悪いからだ。



 逆に想像してみてよ。昼飯食い終わったヤツが何をすることもなく教室で1人でいたらどう思うよ?気持ち悪いだろ?気持ち悪くないって思う人は、もっと自分の高校時代を思い出せ!



 教室にいて気持ち悪がられるくらいなら、誰もいない空き教室で家から持ってきたゲームや漫画を読みながら時間を潰すほうがよっぽど有意義じゃないか。そして周りの人間も僕を気持ち悪いと思わなくてすむ。もうWin-Winウィンウィンじゃないか!





 ・・・なんて心の中で静かに暴走しながら、僕は今日も空き教室ユートピアに向かう。今日はPSP(Play Space Portable)を持参した。数年前の古いハードではあるが、昼休みの時間つぶしとしては有能だ。今日こそは村クエストのラストをクリアしてやると、僕はゲームの世界に浸り始めていた。



 ていうか、安藤さんは一体どこに行ったのだろうかと、今更疑問に思う。何も持たずに教室を出て行き、僕が昼飯を食べ終えたあとも戻ってこなかった。何をしているのだろう。


 購買でパンでも買ってどこかで食べているのか。転校してきたばかりで友達いないだろうから、きっとぼっち飯だろう。くそう、そんなことなら僕と一緒に昼飯を食べてくれたって・・・



 まぁそんなことはどうでもいい。今はそれよりも村クエだ、村クエ。数年前のゲームの村クエをクリアせんという熱い想いを抱きながら、僕は空き教室の扉を開いた。




「あ。」




 僕は聞いた。空き教室の奥の方から発せられたであろう女子の声を、僕は確かに聞いた。その姿は物置特有の机や備品の入った段ボールなどによる視界妨害で見えない。


 まさか昼休みに僕と同じように、この空き教室に足を運ぶ生徒がいるだなんて思ってもいなかった。自分だけの隠れ家のように感じていただけに、少し居心地の悪い気持ちになりながら、僕は教室に入る。



 ちなみにどんなヤツだろうかと、僕は教室の奥にいるであろう女子の姿を確認しようとする。チラ見だ。決してガン見ではなく、あくまでチラ見だ。同類なかまのお顔を確認しておこうくらいの認識のチラ見だ。僕は視界を妨げる机や備品の端から、声のする方をのぞき込んだ。




「・・・え。」




 僕は静かに驚きの声を発した。驚いた理由は2つある。



 1つ目は、空き教室の奥にいたのが転校生の安藤さんであったこと。



 2つ目は、そんな安藤さんが、彼女のを教室の隅のコンセント部分に差し込んで座っていたことだ。

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