人を想う
シオンは番屋で全裸と半裸のおっさん共が全裸になった理由を"我慢出来なくって!"と供述される嫌な世界から目を逸らして、空を見上げた。
ふぅ………平和だ。
懐から煙草を取り出して、加え、
無事、商隊警護は完了。
自警団のメンバーには一切負傷なく、問題なく仕事は完了された。
現在は一旦解散し、それぞれの家族や友人、恋人などと会っているだろう。
その後は荷の整理をして貰わないといけないが、ずっと仕事ばかりをしていても人のやる気と言うものは継続しないものなのだ。
だから休憩も立派な仕事、仕事、と思いながら、地面にふと視線を戻すと特に屋根とか無い場所で子供達が座り込んでいた。
青空教室か………
このレムナント王国のお膝元で最も活気があるかもしれない場所だが、貧民街という名は今も決して嘘というわけではないのだ。
どの家庭も余裕があるわけではない。
かと言って子供の教育を疎かにするわけにもいかないからこその有志による青空教室だ。
教室も教材も何もない教室だが、教える事は最低限の文字や計算、常識問題──そして軽い魔法くらいだ。
教育者でなくても教えられる事しか教えれないが、それでも提案したレオンが子供に教育を与えれる事にほっとしていたのを覚えている。
「………そういう貴方こそが教育を受けれなかっただろうに」
自己犠牲というよりも人の幸福を見る事が好きで堪らない人なのだ。
お陰でレオンの為に動こうとするのは大変だろう。特にサヤは。
…………何時も通りにふらっと消えたレオンをまた探しに行く所とかな。
そこまで献身的に動けるのならば一度くらい当たってみればいいのに変な所で臆病な少女だ。
まぁ、でも確かにレオンはよくどこに行ったか分からないまま消える事があるので、危険だと何度も具申したが本人は大丈夫の一点張りで何も聞かないから一度追跡を行っても見事に何時消えたのかがさっぱり分からない始末だ。
あそこまで行くと体術の領域ではなく
「魔法の領域な気がするが…………」
自分とて魔法で追跡をしたのだが、一切の感知が出来なかったのだ。
自分の術技が最高峰だと驕ったわけでは無いが、もうここまで行くと──
「せんせーーーー! しつもんーーー!」
その思いを子供達の元気のいい声で断ち切れ、自分の煙草が半ばまで燃えている事を悟る。
やれやれ、と思って煙草を口から取り出し、頭を和らげるために何となく子供達の授業風景を見て聞く態勢になる。
「はい、なんでしょうか? 先生。頑張って答えるわよぅ?」
「うん! ────どうしてせんせい、男なのに女のかっこうして女の人くちょーーなの? へんしつしゃーー?」
「ふふふ、ぞくぞくする質問ね!? 後で職員室という名の路地裏に来なさい。その理由をたっぷり、深く教えてあげるわ………!」
指を鳴らし、それを合図に番屋から人が出て問題の変態を捕らえる騒ぎが発生する。
途中で男の子を人質にして「いい!? それ以上近付くとこの子のファーストキスを奪うわよ!? 素敵!」などと恐ろしい発言をするが、丁度通りかかった人質の母親が隙をついてジャーマンスープレックスをかけて犯罪者にクリティカルダメージを与えたので平和は守られた。
そうしていると今日の教師役がいなくなった為、どうしたものかと色々と大人達がウロウロして、結果
「えーー、では授業は代わりに、私、シオンがやらせて貰う」
というフリースタイルによる結果になってしまった。
はーーい! と元気に手を挙げる子供達を見ているとそれでもいっかと思うようになった自分が恐ろしい。
「では、軽くこの国についてだが……分かる人はいるかな?」
はいはーーい! と皆が元気に上げるので一番早くて元気のいい男の子を指名すると
「はーーい! ────おうさまがクソな国でーーーす!!」
「ははは──ナイスクリティカルな答えだが、余り大声で言ってはいけないぞ?」
ちらりと周りに視線を向けるがそれらしい姿は無かったのでほっとする。
他の大人達も周りをそれとなく警戒してくれていたのを見ながら、今度は他の子達よりも少し大人しそうな女の子を当ててみる。
「え、えっと………お、お国にかこまれていて、でも、だからほかのお国たちと通じる国?」
「いい答えだ」
笑って褒めると子供達もすげぇーーって褒め合うワンシーンが生まれる。
意訳ではあるがその通りだ。
我等がレムナント王国は各国の間に挟まれる形で成り立っている国だ。
それ故に貿易中継国となり、様々な人や物、文化が混じる国だ。
これと言って特色がある国では無いが、かと言って何も無くはなく、また色々なモノが集まる国。
それがうちの特色だ。
それ故にもっと貿易中継国として活気が出るよう様々な政策を行えば十分に上手く立ちいく事が出来る国のはずなのだが
…………国のトップが無能過ぎる事が、な
王もそれに従う臣下も、腐っている。
一度パレードで王の姿を見た事があるが、その姿は実に肥え太った豚よりも醜いデブであったのを見て、ぎりぎり残っていた期待とか何かとかを潰された若いころの苦い記憶がある。
無論、姿がデブであってもやる事をやっているデブならば問題はないのだが、やる事が無駄に税を上げて己の欲だけを養うだけ。
血筋上、王という事になっているが、あんな者が王の定義に入るとすればそれは暴君なんてものよりも遥かに価値のない暗君という奴だろう。
無論、それに付き従っている貴族連中も含めてだが。
「とっ」
話がずれた。
「まぁ、そういうわけで私達のようなものがする仕事となるとそんな風に貿易や旅行などに来た人間のガイドや貿易──もしくはそういった人達を守る仕事などがある」
それこそ自分達が商隊警護をしていた流れだ。
今では私達、貧民街の警護の方がいい、と結構人気になっているらしいが、これが良い事にだけ繋がるかというとそうでも無いのだが。
…………あの王や側近だと恐喝か、最悪、でっち上げの犯罪者にして私達を処罰しに来てもおかしくはないのだが…………
そこまで民の暮らしに興味がないのか、あるいは情報が届いていないのか。
一応、目は届かせているが、
「そしてそこまで武器や防具などを揃える事が出来ない私達でもそこらの騎士団や野盗と対等にする力がある────それが"魔法"。他にも気、仙術、オーラ、などと色々名称はあるが、最もポピュラーなのは魔法」
全く捻りも無い名付け方だが、こういうのはむしろ小難しく名付けるよりも、分かり易い名前を名付けた方が浸透させやすいのだろう。
「勿論、御伽噺にあるような何でも出来るような事は出来ない。そういう意味では名前負けかもしれないな」
「せんせーー。じゃあどんな事ができるの?」
それはだな、と周りを見る。
するとこちらの話を聞いていたのか、大人の男性が任せておけ、とハンドサインを送って来るので苦笑して、子供達にそちらの方を見るように指示する。
自分達が商隊警護で使った装備や道具一式、または取引した商品を運んでいるらしい。
男性は分かり易く、子供達に木箱の中身を見せている。
………中身は防具か。
防具がぎっしり詰まった箱を縦に三つほど積んでいる。
まず鍛え上げても見た目からして40代程の男性が持つには余りにも厳しい荷だ。
通常の身体では持ち上げるには幾ら何でも厳しい荷物。
しかし
「おおーーー!」
子供達の歓声と同時に男性は不可能なはずの荷を持ち上げた。
多少のふらつきはあっても、荷は確かに持ち上がっている。
その結果を見ながら子供達に分かり易く説明する。
「あんな風に身体の強化というのが主流の使い方。力仕事や
なるほど! と子供は深く頷いて
「…………何か魔法っていうからド派手な絵とかもんしょうとかあらわれてすげぇインパクトがあるとおもってたんだけどなぁー………」
「ぜんたいてきにじみなのが一番名前負けしているんじゃないかなぁ」
「それよりあのおじちゃん前見えるのー?」
子供は時に大人よりも残酷だな、と思う。
でも自分達も子供の頃、同じ疑問を大人達に叩きつけて泣かせていた気がするから一度は通る道な気がする。
最後の疑問に男性の身動きが止まった事に関しては知らん。
「まぁ、確かに余り夢も希望もないような術ではあるのだが、それ故に私達の確かな力となってくれるものなのだ」
装備不足の自分達が危険な仕事に就くには欠かせない力なのだ。
これがあるのと無いのでは全く違うのだ。本当に。
はーーい、と質問がある、と意思表示がある子供がいるのでその子を指すと
「でもせんせー。確かようせーぞく? は本当に御伽噺のような魔法を使えるっておかーさんから聞いた事があるよーー?」
「ああ、良い質問だ。確かにその通り。付け加えるなら一部の人間にも使える人間がいる」
例えば、と少し人差し指を出して皆の注目を集め、なんだろう? と首を傾げる子供達の姿に微笑しながら己の全身に巡る力であり、意志であり、血のような何かを人差し指に集め、加工すると
「わぁ……!」
人差し指から小さな光が生まれ、飛び上がった。
蝶のように繊細に飛ぶ光が子供達の頭上をゆっくり飛び回り、まるで祝福の光を与え終わったという感じに消え去った。
「と、いう風に一部の人間は正しく魔法を使える。勿論、専売特許は妖精族だがね」
おーーーー! とかすげーーー! とかせんせーー! 他にも! 他にも何か無いのかよ! とかいう叫びが青空の下で叫ばれるが、流石にそんな事をしていると授業が進まない。
だからこういった時の対処を笑って使おうと思い、そうした。
「悪いがそう何発も出来ないのだ。何せ使えば使う程、見た者の毛根を犠牲にしている超必殺技だからな。おやどうした皆。そう怖がる事ではない、何れは皆が通るかもしれない道の事だよ」
子供達の顔色が物凄く悪くなるが気にする事は無い。
何故なら子供達の内、数人は恐らく何人かはそんな運命になるのだから気にする事は無い。
だが、再び子供の一人が手を上げるので指すと
「でもどうしてそんなまほーが使えるの? まほーのぱわーでもぼくらもってるの?」
最近の子供達は鋭い質問ばかりをしてくるものだなぁ、と思った。
確かにその通りだ。
現在、あらゆる技術を使っても無から有を生み出す前例はない。
ならば魔法かそれか? と研究者達は騒いで術理の解明を求めた。
そして結果はこうだ。
無から有を生み出すことなど出来なかった。
これは子供達に聞かせるには正直、余りにも現実的な事だ。
しかし、今、聞かせなければ将来、魔法を誤った使い方で使い、取り返しのつかない結果に陥るかもしれない。
だから俺は一切、言葉を隠さずに告げた。
「結論から言おう────魔法の元。その原動力は術者の生命力。分かり易く言えば命だ」
子供達の幾人かは意味が分からないと首を傾げたが、数人は時間が経てば理解が届いたのか。顔を青褪める子供がいた。
聡明な子供達だと、思いながら、しかし自分は理解できていなかった子供達に惨い真実を理解させる為に分かり易く伝える。
「つまりだ。魔法の過剰な使用は術者の命を削る。つまり死に近付いて行ってしまう」
死という単語が子供ですら理解しやすい概念だったからか、あッという間に子供達は皆、怖い物を見るような目でこちらを見てくる。
それでいいと思う。
力とは恐怖を忘れず、向かい合いながら求め、得るべきだから。
だから、敢えて最初に過剰な表現を使ったのを謝るように苦笑しながら
「ただ通常の魔法行使ならそんな風に命を削るような事にはならないから何も問題はないさ。多少の生命力の行使は誤差範囲内として修正されるみたいなものらしい」
特に肉体強化などは生命力を使った魔法の一つとはいえ魔法の行使としてはそんな命を削る行いではないという結果だ。
恐らく命を使うのではなく循環してより良く、効率的に生命力を使っているからではないかと思われる。
……だから私のような魔法を肉体の中ではなく外にまで出せる術者は寿命が短いと言われているみたいだがな…………
その事は流石に伝えずにいる。
見た所自分の術者は特徴として髪が白く染まるのだが、この場にはいない。
ならば今は特別知る必要は無いだろう。
「無論、魔法にも個人によって差もあれば得意不得意もある。万人が使える事は確かだが………例えば生まれつき体が弱い、病気の時などは多用などしないように」
そう言って生徒の全員が真面目に頷くのを見ながらよし、と思っていると一人ひっそりと手を上げている子がいたのでとりあえず当ててみる。
すると少年はおどおどしながら、しかしそれでもはっきりと
「魔法があれば…………お母さんを助けれるでしょうか?」
「────」
思わず息を止めながら、少年の姿を見る。
少年は今思えばさっき変態行為にやられかけた子供だ。
随分と線が細いし、衣服もそんな立派なものを着ているわけでは無い。
無論、それはこの貧民街においてはよくある特徴だが、だからといってその境遇をよくある、なんて単語で抑えてはいけない。
「どうして、そう思うのかな?」
「…………うち、お父さんがいなくて…………だからお母さん何時も忙しそうで…………だから僕にも何か出来たらって…………」
成程、と思う。
ここで素晴らしいと思うのも、嘆かわしいと思うのも彼ら家族に対する侮辱だな、と思いながら少年の近くによって膝を折り、視線を合わせる。
「お母さんを助けたいよな?」
「……はい」
「でもな。それと同じでお母さんも君を助けたいんだ」
この青空教室は自主的に行われる教育だ。
それには当然子供やその家族の参加も当て嵌まる。
教育を受ける余裕すらない家庭もあるのだ。
無論、そういった家庭には出来るだけ協力して助け合っているが、何もかもが上手く行くわけでは無い。
でもその中で少年はここにいる。
彼の母親も決して余裕があるわけでは無いのだろう。
でも、それでもこの子には、と思う気持ちがあったのだ。
ならばせめてその思いだけは彼に伝えなければいけない。
「決して母を助けたいと思ってはいけないわけではない。ただ、覚えていおくといい────君の母親は、君が少しでも幸福に生きれる道筋を作ってあげたいと思っている事を」
「…………」
自分の言葉に子供は良く分からない、という表情を浮かべながらそれでも頷くのを見て、頭を軽く撫でる。
その後に
「魔法を使いたいのならば母親が見ている前でしか使わない、というのならば多少の手解きをしよう。後はそうだな──母親の負担を減らす為に家事を覚えるのもいいかもな」
そう言うと分かり易い力になれる方法と少しとはいえ母を手伝えるという期待を得れたのか、少し嬉しそうに笑って頷く少年に自分も笑みを浮かべて授業の続きを行う。
そう思っていると別の生徒が独り言みたいな感じで
「でも魔法ーーって折角言うんだから何かそれらしい奇跡的なのってないのかなぁ」
その言葉には、と苦笑を溢し
「そういった物は遥か昔、御伽噺的な話でしか残っていないんだ残念ながら」
え? あるの!? と子供達の笑みが興味に走るのを見ながらその期待に残念ながら、としか答えられない事にちょっと良心の呵責。
「い、いや具体的な証拠とか使用法があるとかじゃないんだ。ただ、過去の文献の幾つかにそんな記述があったんだ」
その文献も歴史書というよりは一種の御伽噺的な感じの本であった為に全く信用性の欠片もないものだったのだ。
しかし、それなのに何故かその存在は様々な本に記載されている為に滅びた魔法、過去に存在していたかもしれない魔法と言われている。
「遥か昔にあった魔法だから古代魔法などと言われているが……結局それがどんなものだったのか全く不明の魔法なんだ」
何か大規模な術式の魔法だったのかもしれないし、実はそんな今とは違いのない魔法だったのかもしれない。
まぁ、だから自分は過去にあった魔法が大仰に書かれているだけなのだろうと思っているだけなのだが
「じゃあ、けっきょく、何もわからないのーー?」
「ああ、そうだな。ただ、文献には何時もたった一つだけ同じ言葉が乗せられているんだ」
そう、正しくその言葉こそが己が眉唾物だと思って苦笑するような内容。
正しく御伽噺のようなオチには相応しい言葉じゃないかと思うからこそ、そういうものかと思う言葉。
それが
「その魔法は"奇跡を起こす"魔法だったっとな」
「もう来ないでって言われる度に嫌だ、断る、また今度って言ってるからなぁ……それにこれからも通い続けるから先行投資の感じでこれからもずっと言い続けるって言い返そうか」
苦笑しながら、さっき置いた荷物を再び抱え直して、適当に座る。
荷物から適当に調理せずに食べれそうなものを適当に探しながら少女に再び向き合う。
若干透け、更には明らかに空中に浮いている少女に対し不安は一切覚えない。
何故ならこの少女になら例え
そして少女はそんな事露知らずという感じで、あからさまに私、嫌がっていますの表情を浮かべ
『私、ずっと迷惑って言っているつもりなんだけど、もしかして今の言葉だと迷惑っていう言葉の意味が伝わっていなかったりする? それとも意味を分かっていて無視している無礼者なのかな君は』
もう余りにも愛らしい挑発に笑いが込み上げてきた。
思わず、くくっ、と笑うと更に頬が膨らむのがもう分かり易すぎる。
『………人の事を見て笑うのは無礼っていうの習わなかったのかな君は』
「い、いや、わ、悪い悪い。そういうつもりの笑いでは無いんだが、つい可愛らしくて」
最後の言葉に透明な少女に色が付いたが直ぐに振り払うように半目を浮かべて
『…………そんな言葉。誰彼構わず言っていたら何時か後悔する目に遭うんだから』
「それこそ失礼な。俺はそこまで無責任でも無ければ、心底言いたい人間にしか言わないよ」
『…………』
黙る少女に笑みを浮かべながらリンゴを取り出して食べる。
うむ、決して高価なとかいい味がするわけじゃないけど、それでもこんな風にただ美味しく食べれるっていうのが凄い充足感を感じさせてくれる。
そんな風な街になってくれた事を心底嬉しく思いながら
「しかし、そう言われるともう長い付き合いな気がするな。あの結界に気付いたのは本気で偶然だけど、お陰で偶には運命っていう言葉に感謝したくなる」
『こっちは日々運命を憎む作業が継続中よ…………あの結界は"彼女"が最後に作ってくれた結界だから"条件"に適していないと抜けれないのに…………ああ、本当に嫌…………』
中盤以降はすっごく小声で呟かれたから余り聞き取れなかったが、別に良しとする。
「別に君の嫌がる事はしていないだろ────
『…………まぁ、それに関しては確かにそうなんだけど』
少女は己の姿を投影するかのような水色の美しい剣を見て、一つ溜息を吐きながら
『──────でも何時君がその約束を違えるか分からないでしょ?』
「手厳しいな。もう10年近く付き合っているのに信用得れないかな?」
『ええ。君は
それはまた言われたものだなぁ、と苦笑するが敢えて何も答えずにリンゴを食べる事で沈黙とした。
だけど少女はその沈黙を許さなかった。
『君は確かに何も無かったら、私を抜かないんでしょうね。でも
ふむ、ととりあえず少女の言葉はリンゴ事咀嚼する。
そしてその上で自分は一切その場を動かなかった。
それが一番分かり易い答えだろうと思い。
そしてそうすると何時も少女も本当に泣きそうな顔をして
『どうして………? 私は君達が思うようなそんな綺麗な物でもなければ御伽噺みたいに最後はめでたしめでたしで終わるような代物じゃないの………
知っている。
何度も彼女に聞かされた。
そして勿論、それらの言葉を一切疑っていない。
だから、少女は何時も孤独になろうとするのだろう。
だから、何時までも纏わりつく俺が怖いのだろう.
故に何時も俺は彼女の表情を曇らせる事しか出来ず
『どうして…………?』
と求めるような、拒絶するような問いを投げかけられる。
どうして私の声は届かないの? か、どうして
何時もはその言葉に少女には気づかれないように落胆しながら何も答えないでいるのだが、今日は少しだけ気が変わって溜息を吐いて
「君は何時も自分の言葉が届いていないのかって言うけど────俺からしたらその言葉はむしろ俺が言いたい」
『え………?』
そこで心底分からないという顔で首を傾げられるから何とも言えない。
はっきりと言っていない俺も悪いのかもしれないけど、何というか分かってくれとつい思ってしまうのは男の性だろうか。ただのヘタレだろうか。後者で言われそうな気がするのが世論の嫌な所である。
だが、流石にこんなタイミングで言うのは言い訳に使うみたいで嫌だし、ここまで来たら気付いて欲しいと願ってしまう。
我ながら女々しいものだなぁ、と思いながら立ち上がる。
「とりあえず、今日の所は大人しく引くよ。また来るけど」
『…………来ないでって言っているでしょ』
「嫌だね。君が嫌がっても俺はここに来たいからね」
『
今度こそ間違いなく苛立ちと怒りを込めた口調で皮肉をぶつけてくる少女に、思わずつい口が滑った。
「少なくとも今の俺は
今度こそ、えっ、という顔で凍結した少女を見て、あ、しくった、と思わず愕然とする。
この少女限定でこらえ性の無い自分に脱帽だ。
あーーーーー、と時間を稼ぎながら、とりあえず荷物を速攻で纏め、固まっている少女に向かって
「じゃっ」
と言って速攻で逃げた。
『…………全く』
少女は自分が固まっている間に逃げた少年を見て、少女はそれを呟く。
言葉面は完全に不機嫌なそれ。
全くこっちのいう事を一切聞かずに、自分勝手に行動する少年に辟易しているという態度を作っている。
そう少女は思っている。
少女は。
もしも今、この少女を見れる第三者がいるのなら彼女が思っている通りに判断を下すかは残念ながらいないから判断はつかない。
『………………全く』
少女は無駄な呟きをもう一度呟きながら、姿を消し始める。
次はどんな言葉であの少年を打ち払うかを考えながら。
「油断し過ぎたなぁ………」
路地裏から出て、ちょっと暴走しそうになった自分を戒めながら道を歩く。
我ながら下手過ぎる。
まぁ、自分の人生でそういった経験が皆無だから仕方がない事ではあるのだろうけど、男としては酷く情けないものである。
でもこういうのって
「誰かに助けたりして貰えるだろうか…………?」
こういう系に縁があるとすればやっぱり街の嫁持ちの皆に聞いたりすればいいんだろうけど、相手を聞かれたら困る。
余りにも特殊案件だからなぁ、と思いながら苦笑する。
まぁ、もう少しきながにするしかないかなぁと思いながら、皆の所に戻るかと思い、歩いているとカチヤ、と何か聞いた事があるような音が耳に響く。
さて、何かと考える前に口が先に答えを吐き出した。
「あ、鍔鳴りか」
瞬間、レオンには見えないが、背後から銀の閃光にも見える一閃がレオンの首筋めがけて美しい線を空中に描き────直撃した。
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