【49】GAME12―殺人鬼の正体―
「他人を悪者にすれば楽です。でもあなたは、みゆきさんから逃げた! そんな人に、復讐する資格なんてありません!」
「ぅぅうるさいーっ」
「お願いです。もう、こんなゲームやめてください。これ以上やっても意味なんてない……辛い思いをする人が増えるだけです」
――ビーッ!
なんと間が悪いのだろうか。話し合いの時間が終わり、ゲームスタートの時間が訪れてしまった。
仕方なく翔の用意したプランBに移るが、散り散りになるこの状況を一番望んでいたのは、紛れもなく殺人鬼だ。そんなことは彼らは知る由もなく、真由美と鷹雄は逃げるルートを決め、美月と翔、そして芽衣が彼らに続く。
「待て!」
陽太は右手に拳銃を構えると、左手を添えて美月たちの方へと発砲した。もうお構いなしだ。しかし銃弾は壁によって阻まれ、彼らの姿は扉の向こうへと吸い込まれていった。
「くそっ」
銃弾が逸れたことが分かると、陽太は美月たちを追って白い部屋から姿を消してしまった。
残された俊一、龍之介、夏子は事態について行けず、ただ見ているしかなかった。
俊一は一歩足を踏み出し、振り返った。
「俺、心配なので追いかけてみます。二人はどうしますか?」
「あっ、じゃあ、オ――」
俊一の問いかけに答えようとした龍之介だが、来ている新撰組の衣装の背中あたりを夏子に引っ張られ、出かけた足は宙に浮いた。彼が夏子を見ると、彼女は無表情でじっと龍之介の目を見るだけだった。
俊一は二人の様子に首をかしげつつも、見失ってしまいそうだったので、彼らに声をかけてこの場をあとにした。
白い部屋に残る龍之介と夏子だったが、俊一を見送ると、先に口を開いたのは龍之介だった。
「なんで……なんで、オレを引き留めたんすか? 殺人鬼ですよ、いちおー……」
龍之介でなくとも困惑するだろう。誰が好き好んで、自身の命を脅かす者と一緒にいたがるのか。
その答えは一つしかなかった。
「まだ分からないの? あたしも殺人鬼としてここにいるのよ」
「えっ?!」
唐突な告白だった。内容を理解したのかそれとも本能か、龍之介の足は、夏子と物理的に距離を取ることを選択した。
「な、に、言ってんすか……」
「こんなこと冗談で言うわけないでしょう。メリットなんて何もないわ」
自分も同じ殺人鬼だと言うことで、殺しの対象ではないことをアピールすることもできるわけだが、夏子の目は本気だった。
「ねえ、あたしと組みましょ?」
夏子は不敵に笑い、龍之介との距離を詰めてきた。
「……すみません、それはできないっす。オレ、美月さんと約束したんすよ、協力するって。だから、誰かを殺すことは――っ」
龍之介が顔を上げると、目の前にはすらりと長い刀の刃先があった。
「いいからあたしに従いなさい。でないと、みんなにバラすわよ? あんたが殺人鬼だって」
「で、でも、そしたらオレも言うっすよ、夏子さんも殺人鬼だって」
「ふふ。構わないわ。脅威が増えるだけだもの。彼らはこれ以上の犠牲を出さずにゲームを終わらせたいのに、殺人鬼の対応にも時間を割くことになって大変でしょうね」
彼女の言うとおりにしなければならない歯がゆさに、龍之介は歯を噛みしめ、睨みつけた。
「……で、オレに何をさせたいんすか?」
夏子は満足そうに笑った。
鷹雄はモニター下の道を選び、足を進めていた。後ろを振り返ることはなかったが、鏡の角度から、芽衣が後ろに控えていることが確認できた。
モニター下の扉の先には、四つの分かれ道がある。他のゲーム参加者の話を覚えていた彼は、真っ先にこの道を選択した。陽太に意識は美月や翔たちに向いていたからこちらに来る可能性は低いと考えたが、万が一を想定しての選択だ。
奥から二つ目の道を選び、再び背後の様子を窺う。ついて来ているのは芽衣だけで、陽太や他のゲーム参加者の姿はなかった。
「あんた、本当に俺について来たんだな」
芽衣は当然だと言うように腰に手を当てた。
「愚問ね。だってあなたに死なれるわけにはいかないもの。それにこれは、罪滅ぼしでもあるの」
真由美と行動している際、彼女に不安を与える結果となってしまった芽衣は、それをずっと気にしていた。だから今度は、翔に彼を任されたのだから、精一杯守りきると心に決めたのだ。
芽衣がふと真剣な眼差しを見せると、鷹雄は彼女から視線を逸らした。
彼にはまだ、複雑な気持ちが残っていた。これまで他人を見下して生きてきた彼は、プライドが高い。ただでさえ自身の行いのせいでこのような状況に陥っているというのに、自分は守られる側なのか、と。
先に殺人鬼に殺された拓海の復讐を誓った。しかし美月が陽太を説得する言葉で、それは正しいことではないのだ、と――美月が意図することなく――自分にも釘を刺されてしまったのだ。
さすがの彼も、ここで牙を
「でも心配ね、美月ちゃんたち」
「あ?」
「こっちを追ってこないってことは、陽太くん、向こうを追ったわけでしょ。大丈夫かしら」
芽衣の不安をよそに、鷹雄は嫌味ったらしく言った。
「そんなに心配なら、今からでも向こうを追うか?」
「あら、ヤキモチ? 心配しないで、あたしの役目はあなたを守ることだから」
応戦して最後にウインクまでした芽衣に、鷹雄はムキになった。
「てめ、撃つぞ」
「やだこわーい」
このやりとりは少しの間続いたが、その後彼らの前に、一人の訪問者が現れた。
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