【45】GAME11―真相―

 突然のルール変更に、ゲーム参加者たちは戸惑いを隠せなかった。

 特に衝撃が大きかったのは、武器を持たない者だ。美月や俊一のように武器を持たない選択をした者にとっては、武器を持つこと自体、心の負担が大きい。

『ルールの変更は以上です。それでは話し合いをどうぞ』

「あ、ちょっ」

 美月の声もむなしく、モニターの男は姿を消した。真っ暗な画面を、彼女は力のない目で見つめた。

「おわっ! は、箱が現れたっす」

 背後から聞こえた龍之介の声に、美月は振り返った。部屋の中央あたりに、いつの間にか四つの箱が出現していた。小さめの箱もあれば、細長いもの……大きさはまちまちだ。

「まあ、武器を持ってない人で話し合うしかないわね」

 武器をすでに所持している芽衣は、我関せずと言うかのように、肩をすくめた。

 宗介、夏子、俊一がゆっくりと箱に近づいていった。恐らく彼らが武器を持っていない者なのだと察し、美月も従うように箱へと近づく。全員が、自分に一番近かった箱の前に立った。

「どうします? このまま自分の目の前にある箱を選びますか?」

 宗介が、他の三人の顔をぐるりと見まわした。互いの様子を見る三人だったが、特に反論はなく、自然とその箱を開けることにした。しかし、夏子が違和感に気づく。

「あら……開かないわ」

 美月も開けようとしてみたものの、開く気配はない。宗介、俊一も同じだった。俊一が頭をかきながら、その理由を予想した。

「あー、なるほど。武器を出せるのはゲームが始まってからだから、俺たちもそれまで武器を手にできないってことでしょうね。うっかりしてた」

 つまり、箱の中に何が入っているかはゲームが始まるまでのお楽しみということだ。

「でも、他の人は自分の武器が何か分かってるのに、これじゃあ不公平じゃないの?」

「牧さんの言うこともごもっともですが、他の方は危険を冒してまで一人になって、その結果手に入れられたわけですから……ちょっと有利にしてあげてるんじゃないですか?」

 そう言った宗介を、美月はさりげなく観察してみた。特に怪しい言動をしていた記憶はない。ただ、彼は落ち着きすぎている・・・・・・・・・……それがどんな怪しげな行動よりも、不自然だった。

 美月の思考を、芽衣が遮る。

「ねえ、行動人数の制限が解けたんだし、いっそみんなでこの部屋に残らない?」

 すぐさま鷹雄が反論した。

「冗談じゃねえ。それじゃあ確実に殺人鬼と仲良く同じ部屋にいることになっちまうじゃねえか!」

「それに、最初ここに留まろうとした時、なんか毒ガスみたいなのが噴き出してきたよね。普通に考えて、ここに残るってありえないし」

 鷹雄に賛同した真由美を、芽衣は一瞬、悲しげな瞳で見た。それから慌てて訂正した。

「それね、私個人の考えなんだけど、あれは毒ガスじゃないと思うの」

 以前もそのような話が出た。この空間に、ゲーム参加者の命を直接奪うような仕掛けは見られない。ゲーム参加者同士に殺し合いをさせたいのだろうから、あれは毒ガスではない可能性が高い、と。芽衣の意見には、翔も賛成だった。

「俺もそう考えてる。それと、皆さんに聞きたいことと、話し合いたいことがあるんです。お互いに距離をとって、向き合って輪になるのはどうでしょう? そうすれば、互いの動きを見張れます」



 ゲーム開始のブザー音が鳴り響いた。ゲーム参加者たちは、翔の提案どおり、丸く円を描くようにして向き合っている。もちろん反論はあったが、彼がこのゲームに参加させられている理由が分かったかもしれないと言うと、参加者たちは彼に従うことを決めた。

 ブザーが鳴ると、美月たちに武器を持たせるようにと用意された箱を開けることができた。彼らは武器をいったん手に取り、それが消えるようイメージした。全員の武器が消えたところで、他の参加者たちの円に加わった。

 戻りがてら、美月は翔に小声で疑問をぶつけた。

「いいんですか? 桐生さんには、まだ話さないって……」

「うん。勝手な子としてごめんね。でも今がチャンスだと思ったんだ……。彼のことは、上手くカマかけてみようと思う」

 美月は頷くと、翔と少し距離をとって壁側に背を向けた。

 モニター横の時計は、ゲームの時間もカウントしてくれる。話し合いの時間を説得に使ってしまったが、ゲーム時間を使えればゆっくり話ができる。

 四人が全員配置についたところで、翔は一度深呼吸をすると、宗介だけに目線が行かないように注意しながら、話を始めた。

「このゲームが始まって、俺は考え始めました。『どうしてこんなゲームに参加させられてるんだろう』って。皆さんも同じだと思います」

 そして彼は、その真相を突き止めることが重要だと考えた。

「殺人鬼を殺して終わらせる……そっちの方が簡単かもしれない。けど、それじゃあ俺たちだって人殺しだ。その事実に変わりはない。できるだけ被害を少なくして、モニターの男の正体を突き止め、説得してゲームを終わらせる――これが理想の形だと思ったんです」

 そのために美月と調べ始めたのだ。

 翔はまず、一人の女性の名前を口にした。

「俺たちがゲームをさせられている理由……全ては、『桐生みゆき』という女性に関係しています」

「桐生……みゆき?」

 まだ「桐生みゆき」という女性の名前に馴染みのない芽衣たちは、次第に宗介に目をやった。当の本人は涼しい顔をしている。まるで彼らの視線が見えていないようだった。

「そのみゆきって子がどうしたの?」

 芽衣の質問に、翔は話を続けた。

「その女性は、ある三つのことが原因で、一年前に自殺をしています」

「自殺?」

「そうです。その原因を引き起こしたのが、ターゲットとなっている三人でした。彼女は大学生の時、榊さんの同僚としてアルバイトをしていた。そこでパワハラを受けていたんです。不当に働かされ、帰宅の時間が遅くなり……彼に、夜道で襲われた」

 翔は鷹雄を見た。翔に戻っていた視線が、今度は一斉に鷹雄に向けられる。彼は誰とも目を合わせないようにと、白い床を見つめていた。

「そしてその様子を、すでに殺された桐谷くんが撮影しました。彼がターゲットにならなかったのは、単なる撮影者だったからと思われます。でもその動画はネットにあげられ、好奇の目に晒されました」

 翔の耳に、右に立つ芽衣が呟いた「さいってー」という声が聞こえた。

「みゆきさんは、当時付き合っていた人がいました。そのこともあってか、大学の友人だった下川さんに相談した。けれど彼女は、その内容を学内に広めてしまったんです」

 真由美に視線の矢が突き刺さる。美月だけは心配しているのだが、そんなことに気づく余裕は彼女にはなかった。ズキズキと、とにかく痛い――それだけだった。

「様々なことが重なって、みゆきさんは精神的に追い詰められた。そしてその結果、自ら命を絶ってしまったんです。これが、このゲームの発端です」

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