【44】GAME11―アンビバレント―
この日、喜一の死亡がニュースで取り上げられた。彼は独身で一人暮らしだったため、発見が遅れてしまった。そして二十一時を回ると速報が入り、有人の遺体発見を知らせた。似たような遺体が発見されたことで速報が入るまでになったこの事態に、翔は事の大きさを実感した。
ターゲットが「何故このゲームのターゲットなのか」、ということは予想がついている。けれど、
翔は時計を見ては、短くため息をついた。
「まだあと二時間以上もあるのか」
今日だけで何度、時間を確認しただろうか。早く鷹雄に話を聞きたい――そんな気持ちから、つい時計に目が行ってしまう。しかしその一方で、残された回数を考えると、これ以上と気が進んでほしくないような思いもある。
そうしてもやもやと紅茶を何度も飲み干すうちに、短針と長針がてっぺんで重なろうとしていた。
美月は白い部屋で目を覚ますと、まずは翔を探した。それに気づいた真由美に目配せをして、彼女と一緒にまだ眠っている翔に近づく。
「青葉さん、起きられますか?」
翔の耳元で声をかけると、彼はくすぐったそうに身じろぎ、目を覚ました。
「あ……起こしてくれてありがとう。彼は……?」
彼――鷹雄はすでに目を覚ましていて、モニターを凝視していた。当然と言ってはなんだが、彼の近くには誰もいない。
チャンスと見て、三人はさりげなく鷹雄に接近した。
「あ? なんだよ」
相変わらずの鋭い目つきの出迎えに、蛇に睨まれた蛙のように、三人の足が一瞬止まった。けれどもそんなことは言っていられないと、翔が一歩前に出て話を始めた。
「桐生みゆき? 知らねえな、そんな名前」
予想どおり反応だった。自分が襲った人の名前など、そういう趣味がない限りいちいち確認したりしない。しかしみゆきの死に関わる者がターゲットになっていることを説明し、真由美がみゆきの特徴を教えることで、本当に鷹雄がみゆきを襲った張本人なのかを確かめようとした。
「私はみゆきにひどいことをした。ちやほやされてるのが羨ましくて。みゆきは黒いロングヘアで美人よ」
「さあな――」
「いつも鞄に、大好きな犬のキーホルダーをつけてた」
鷹雄の顔色が変わったのを、美月は見逃さなかった。
「時期は一年前の夏」
「夏……」
鷹雄はボソッと呟いた。
美月たちの話すとおり、確かに夏、女性を襲った記憶が彼にはあった。綺麗な女がやけに可愛らしい犬のキーホルダーをつけていた。癒しを与えるようなほころんだ表情を見て、「綺麗な顔でも案外純粋なのか」とか、「そんな女を組み敷いている背徳感」を感じては、ゾクリと興奮したものだ。そしてそれは言われてみると、一年前だったような気がする。
「そう言われると、その可能性はあるな」
案外あっさりと認めた鷹雄に、三人は驚いた。
「その撮影者はあいつ――拓海だ。それなら俺らが揃ってこのゲームとやらをやらされてるのも頷ける」
「え、でも、なんでこいつだけターゲットなの?」
「どうせネットにあげた動画に俺の顔が映ってたんだろ。つか『こいつ』呼ばわりするとは何様だ、てめえ」
「ひゃっ」
一際鋭くなった鷹雄の目に
『ミナサンコンバンハ』
美月たち四人は一斉に顔を上げた。男が登場するまでの時間がいつもより長かったような気もするが、モニター横の時計はきっちり午前零時になっている。
『ゲームも終盤ですね。ここまで生き残った皆さん、お見事です』
褒められ、嫌な予感がしたのは美月だけではなかった。
『今回からはちょっとばかり趣向を凝らそうかと思いましてね。どうです、皆さん。武器、欲しいでしょう?』
「えっ?」
武器を持っていない美月は動揺した。自分は武器を持たない選択をしたのだ。欲しいとは思っていない。
『今から武器を持っていない方に、武器をお渡しします。とは言え好きな物を選んでしまうと不公平なので、人数分の箱を用意し、早い者勝ちで選んでもらいます』
美月はそっと手を挙げた。
『何か』
「その……武器は、必ず持たなくちゃいけないんですか?」
モニターの男はすぐに返事をしなかった。
『はは……正直驚きましたよ。まさか持ちたくないなんてね。ですが、これは強制です。それに周囲の人が武器を持っているんです、いざという時に持っておいた方が、身のためだと思いますよ』
少し低くなった語尾に、美月の筋肉はこわばった。
『それからもう一つ、行動人数の制限を解除します』
「へえ。四人以上で行動していいってわけね?」
少し離れたところから、芽衣の声が聞こえた。
『もちろん。今までどおり少人数で移動するもよし、いっそ全員この部屋に残って、お互いに見張り合うもよし。全てはあなた方次第です』
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