第24話 生徒会長の一存 その1

「……」


 気がつくと、元の校庭に彼、イプシロンは突っ伏していた。

 なんだか頭がグラグラする。

 彼は、片手を頭に添えつつ、立ち上がり周りを見回した。


「ほう、自分で起き上がれるか。緒芽我オメガとの戦いを思い出すのう。お前はたいしたヤツじゃ」


 彼の目の前に、あの少女が両腕を組んで屹立していた。


 その顔には、嘲りや蔑みといったマイナスな感情はなく、ただただ彼の方を見て感心しているようだった。


「俺は……?」

「魔力が尽きたのじゃよ。空間魔法を展開したまま、あれだけの魔法を使ったのだ、このワシでもそうはもつまいぞ」

「そうか……力及ばなかったということか……」

「そう自分を責めるでない。最後の魔法には恐れ入ったぞ、何やら

黒い渦がいきなり出現したかと思うたら、ワシの氷隕石落下メテオ・ストライクを全てその中に飲み込んだのじゃからな……全く、あの時は肝を冷やしたわい。あれは、いったい何なのじゃ?」

「ブラック・ホールだ……あの空間の質量を一点に集中させることで生み出した、全てを飲み込む渦、といえば通じるか?」

「そうじゃな、相変わらず仕組みはさっぱりよく分からぬが、おぬしが凄いヤツだということはわかるぞ、うむうむ」

「何よ、2人とも仲良くなっちゃって……」

「うほ?」

「アルファ……!?」


 2人の傍らで、アルファが頬を膨らませ、抗議の姿勢を示していた。


「ち、ちがうぞっ。あくまでワシはこやつを傘下に加えたいのであってだな……」

「そうだぞ、アルファ。兄さんはお前一筋だ。それは間違いない」

「いーですよー、私は2人をネタに物語書いちゃうから」

「ま、待てアルファ。それだけはやめーい!!」

「アルファあああああ、愛してるぞおおおお」


 必死で否定する2人。

 アルファはふり向くと校舎へ向かって駆け出す。


 ペロリと舌を出す彼女の顔はとても楽しそうだった。

 そう、これこそが、彼女の望むストーリーだったのだから。




「しっかし、大所帯になったねえ……」


 部室に集合したメンバーを見回してシータが言った。


 ガンマ、デルタ、ミュー、アルファ、それにイプシロン。


 ガンマとデルタはスパイス片手に、ああでもない、こうでもない、と談義をしているし、ミューは部屋の中だというのに、ここしばらくずっと筋トレをしている。


 アルファは、ガンマとデルタの方を見ながら、魔法の紙に魔法のペンで書き物をするのに余念が無い。イプシロンは、そんなアルファの横で彼女の顔をずっと飽きもせずに眺めている。


「私は魔導帰宅部の戦力が充実して嬉しいよ、シータ」


 片手で腕立てをしながら、ミューが希望に満ちた目で言った。

 あはは、と苦笑いするシータ。


「ミューさん、その魔導帰宅部って何なんですか?僕は、まあ、冥界の花アスフォデロスの研究が続けられればいいですけど……」

「あきらめろ、デルタ。女どもには逆らうだけ無駄だ!」

「あーら、それはどういう意味、ガンマ?」


 腕立てを止めたミューが、怒りを込めた視線をガンマに送る。


「いや、その……言い方が悪かった。タンパク質多めのメニューを今度振る舞うから許してくれ」

「なかなか気が利くじゃない。許します」

「うるさいぞ、お前ら、アルファが集中できないじゃないか」

「いいのよ、兄さん、却って創作意欲をかき立てられるから」

「……あはは、本当にアタシ達まとまり無いね……全員で上手くやっていけるのかなぁ……」


 シータは、エリザベートがよくするような、深いため息をついた。


「シータ、別に全員で何かする必要はないだろう。俺はアルファがいればいいしな……そういえば、俺達を集めた張本人はどこにいるんだ?」

「エリィなら、生徒会室です。今回の同好会室戦争パラダイス・ウォーの最終勝者として、同好会室の登録と、それからアタシ達の同好会への加入を報告するってことで」

「生徒会か……」

「イプシロン先輩?」


 それまで、アルファに注いでいた視線を、急に宙に向けたイプシロンに対し、シータ初め他のメンバーが訝しげな目をする。


「いや、俺の計算が間違っているならいいんだがな」

「計算?」


 シータのその言葉とほぼ同時くらいだろうか。

 ふいに、同好会室の扉が開いた。

 自然と全員の視線がそこに集まる。


 そこには息せき切った校長の姿があった。


「校長先生?!」

「大変です、エリザベートが!」


 やれやれ、どうやら俺の計算があたってしまったらしいと、イプシロンは誰に言うとも無くつぶやいた。

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