第19話 小説家を見つけたぞ その4

「アルファよ、おぬしじゃ」

「へっ?」

「じゃから、おぬしじゃ」

「何で?」

「面倒だのう……考えてもみい、どう頑張ろうとも、モンスター達には実行不可能じゃ。ここは人間の勇者が聖なる短剣で止めを刺した、というのがしごく当然であろう」

「くっ……次へいくわよっ!」


 アルファのその言葉と同時に、パッと灯りが消え、また元の静寂なる闇に戻ったかと思うと、またパッと灯りがついた。


 周りを見回すと、街のようである。

 天からアルファの声が響く。


「あなたはこれから街を巡って究極装備のありかを探るのよ」

「ふ、ふむ……」


 とりあえず目の前の、コートを着ているおやじに話しかけてみる。


「景気はどうじゃ-?」

「ここは、北の街。究極装備は南の街にある」

「な、何じゃと?」


 パッと場面が転換した。


 周りを見回すと、椰子の木に、打ち返す波。

 そして目の前には、露出の多い、水着なのか下着なのか紐なのかわからない衣装を着た女性がいる。


「南の街のようじゃな……しかたない、ぱふぱふさせい!」

「ここは、南の街。究極装備は東の街にある」

「事務的じゃのー」


 またパッと場面が転換する。

 エリザベートはその後、東の街、西の街、聖地の街で情報を集めた。


「ここは、東の街。究極装備は西の街にある」

「ここは、西の街。究極装備は聖地の街にある」

「ここは、聖地の街。究極装備は北の街にある」


「さて、究極装備がどこにあるのかわかるかな?エリザベート」


 また意地悪く、アルファの声が天から響く。

 エリザベートはそれに対し、こともなげに答える。


「どこにも無い、ラストダンジョンにある。全部魔王が流したデマじゃからな」

「くっ……次へいくわよっ!」


 その後も、試練は続いた。


「選びなさい、魔王を倒すことの出来る最高の武器を!剣、槍、短剣、斧、ハンマー……さあどれ?」

「この、コブシじゃ!」

「くっ……次へいくわよっ!」


「魔王を倒すために、魔物を仲間にすることにしたわ。どの魔物が正解?」

「Gじゃ。奴は魔王の弱点をこっそり聞いておったうえに、さらに魔王の弱点そのものでもあるのじゃ!」

「くっ……次へいくわよっ!」


「旅の仲間は重要よ、魔王と戦うために必要な仲間は次の職業のうちどれ?」

「パン屋じゃ、他のやつは仲間にしたところで飢え死に確定じゃ」

「くっ……次へいくわよっ!」


「大きな宝箱、小さな宝箱、さらに小さな宝箱、さらにさらに小さな宝箱、さらにさらにさらに……ぜいぜい、開けるのはどれ?」

「もちろん一番大きい奴じゃ、中におる魔物を倒して他の箱をそれに入れて運ぶのじゃ」

「くっ……次へいくわよっ!……あれ……」


 エリザベートの前に姿を現したアルファは当惑していた。


「おかしい、7つめの謎がどこにも無いわ……どういうこと?」

「……」

「これじゃ、戻れないじゃない……」

「……」


 エリザベートは終始無言のまま、彼女の様子を伺っていた。


「エリザベート、何とかいいなさいよっ!」

「……ないのじゃよ、そんなものは……」

「えっ!ど、どういうこと!?」

「6つまでは頑張ったがの、どうしても7つめが思いつかなかったのじゃよ。だからの、謎が無いというのを最後の謎としたのじゃよ」

「そんなことって……」


 ブーンと音がする。

 2人の周りの空間がたゆたっている。

 どうやら、物語の終わりの時がやってきたらしい。


「帰るぞ、アルファ。ボッチ仲間のお前がおらぬとワシが寂しいでな」

「何……言ってるのよ」


 差し出されたエリザベートの手を、アルファが払いのけた。


「アルファ?」

「お前は、自分のことをいつもボッチというけど、全然ボッチじゃないじゃない!私知ってるんだぞ、お前が、校長や、シータ達と同好会室で仲良くしてるってこと」

「何と!?」

「嘘つき!」


 アルファは、エリザベートに向かって叫んだ。

 エリザベートは、彼女のその言葉に、まるで、槍で心臓を貫かれたかのような衝撃を覚えた。


「ま、まて……アルファ」

「友達になれるかもしれないって、思ってたのに……信じてたのに……」


 泣きじゃくるアルファの姿が、どんどん遠ざかっていく。


「まさか、お、おぬしここにこのまま残る気かっ!?」


 エリザベートの声が空間に木霊した。

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