第18話 小説家を見つけたぞ その3
「学習が無いのうワシは……」
「……」
「昨日のこと、まだ怒っておるのか?」
「……」
「何とか言ってくれ、アルファよ。これではワシ何もできんではないか」
例によって、皮肉なことに、アルファが、今回の
彼女は、口をヘの字に結んだまま、エリザベートが何を言っても、ぷいっとするだけで、返事をしてくれない。
「……嫌われたものだのう。しかし、ひとつ納得がいったことはある。おぬし文芸部だったのじゃな。あのノート……」
「言わないでッて、言ったでしょ!」
アルファは、それだけ言うと、右手に持つ鎌をエリザベートに向けて振り下ろし、その寸前で止めた。
「わかったわかった。勝負はまだ始まっておらんのだから、そういきり立つでない……はあ、ワシとしてはせっかくの呪いの書バトルに期待に胸を膨らませておるというのにの」
呪いの書バトルとは、呪いの書の中で行われるバトルである。
呪いの書の中とは?
第二図書室には、呪われた書物が所蔵されていることは既に説明したとおりであるが、その中には、読むだけで、その書物の世界に捕らわれてしまうものが存在するのである。
つまり、物語の世界で、戦うと理解していただければよろしい。
「今回も実況中継は無理そうですね……仕方が無いので、戦いが終わった後、お話を聞かせていただきます」
どこまでも気苦労の絶えない校長であった。
「
「エリィ、気をつけてね」
「心配するなシータ、呪われた書物はワシの庭のようなものじゃ」
他愛の無い会話。
そんな緊張感の無いエリザベートを、アルファは見とがめて言った。
「余裕ね、もうこちらの世界に戻ってこられないかもしれないのに」
「普通の小説も嗜むがの、呪いの書は格別じゃ。それで今回のは『ソロモンの鍵』か『赤い竜』か?まさか『はてしない国』ではあるまいな?」
「『永遠の魔王と7つの謎』よ」
「何っ!」
その言葉と共に、アルファが左手に持つ書物を高く掲げる。
パラパラとページが開く。
そして書物の中からどす黒い、闇が湧き出してきた。
「もういいわね、『
「ええい、『
2人は、書物の闇に飛び込んだ。
闇はしばらく湧き出していたが、次第に薄くなり、パタリと表紙が閉じられると、書物はそのまま地面に落下していった。
エリザベートはどこまでも続く、永久の闇の中に浮かんでいた。
闇と同化しているのか、アルファの姿は見えず、ただ声だけが聞こえてくる。
「……『永遠の魔王と7つの謎』はね、その昔、この聖地がまだ魔界だった頃にラストダンジョンで発見されたもので、この世最大の呪いの書物と呼ばれているのよ」
「……」
「あなたに、7つの謎が解けるかしらね……」
「……」
「アハハハ、あんなに威勢が良かったのに、怖いの?」
「……もうよいから始めい!」
「言われなくても、物語は進んでゆくわよ、そういうものなんだから」
ポッと灯りがついた。
気がつくと、円卓の1席に自分は座っている。
しかし、何かがおかしい。
ガシャガシャ、ヌルヌル、ポポポポという異様な音。
エリザベートは、周りを見回した。
そして、自分以外の円卓を囲んでいる影が全て人間ではないことを確信した。
「では、始める」
ローブを着て異様な仮面をつけ、その横から悪魔のような角を覗かせている神官(悪魔の神官かっ!)が宣言した。
「魔王陛下がおととい殺された……お前たちのうちの誰かがしでかしたということはわかっている。素直に白状するのだ。現場には、この血のついたナイフが落ちておった」
すると、エリザベートの右側の人間の骨のような外見をしたモンスター(あれはスケルトンか……)がこう言った。
「そのときはまだ只の骨でしたからな……」
さらにその右手の腐臭ただよう人型(ゾンビじゃな)が口を開く。
「むしろ殺されたのは私です」
その説得力のある説明に身の危険を感じたのか、左隣から「待って、待ってくださいっ」と訴える声が聞こえる。
エリザベートがちらりと見ると、ぷにぷにした外見のどろどろしたモンスター(つまりスライムじゃ)だった。
「ぼ、ぼく、刃物とか持てないよ」
さらにその左手のモンスター達も次々と弁明をしはじめる。
「食べられていたら、ここにいませんので」と毒キノコ。
「そもそも私たちの毒、魔王様にききませんし」とヒュドラ。
パッと正面の席の前の蝋燭に火が点る。
「さて、この中の誰が犯人なのか、わかるかな?エリザベート」
意地の悪い台詞、言うまでも無く、アルファだった。
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