第17話 小説家を見つけたぞ その2
「まったく、ミューのやつめ、好き勝手しおってからに。ワシの唯一の
エリザベートは、猫族に支配された空間に耐えかねて、シータとミューには外の空気を吸ってくると言い残し、同好会室を後にした。
「今日は、
廊下をいつまでもさまよっているわけにはいかない。
ただでさえ、猫族に生気を吸い取られて弱っている身なのだ。
できれば座ってゆっくり休みたい。
となると、どこにゆくべきか?エリザベートは考えた。
学園内で把握している、数少ないボッチスポットが彼女の脳裏に次々と展開する。
「久しぶりに、あそこにいってみるかの」
それから数分後、彼女は、「第二図書室」と書かれた部屋の前に立っていた。
第二図書室とは2つめの図書室であることを意味するが、ただそれだけではなく、一般的な書籍や魔法の資料を所蔵している第一図書室に対し、呪われた魔導書など、一風変わった、今少し言ってしまうのであればマニア向けの書籍を所蔵するのをその役割とするという違いがあった。
そのため、いつ行っても盛況な第一図書室に比べると、第二図書室の人気は全く無いに等しかった。
「誰もおらんとよいのじゃが……」
つぶやきながら、扉を静かにあける。
日も陰り夕方が近づいた今の時間、夕陽が指さない側であるこの図書館は、薄暗い。
エリザベートは、灯りがついていないことを根拠に勝利を確信し中に入った。
「クックックッ、ボッチの楽園へようこそ、ワシ」
「何がボッチの楽園よ」
「ぬおーーーー」
突然ついた灯り。
後ろからの突然の奇襲。
油断して恥ずかしい独り言を聞かれたエリザベートは、奇声をあげると、その声がした入り口右手のカウンターの方を見る。
そこにいたのは、腰までかかる長い黒髪の小柄な少女。
「なんじゃ、アルファか」
「こんなところで奇遇ね、エリザベート」
アルファは、エリザベートのクラスメートである。
男子生徒の間では、華やかな印象のあるエリザベートに対し、神秘的な魅力のアルファとして、影で対照的な人気を誇っているのだが、もちろん本人達は知るよしも無い。
ただ、エリザベートは彼女に、なんというか、自分に似たものとしての、一種の親近感を抱いていた。
そう、彼女も、お昼休み時間にはどこへともなく消え、授業の始まりと共に出現する、もしくは、授業間の休憩時間に、まかり間違って他者に話しかけられようとも、あまりに話さないため相手が自分から去って行く、そういったタイプであり、エリザベートと1、2を争う教室内での孤高の存在であった。
「ふん、同じボッチ同士、宿命の再会というところかの」
「ボッチゆーな!」
「……冷たいのう、クラスでは共に机を並べることが多いというのに。それにボッチであることは恥ずることではないぞ」
「大きなお世話よっ!」
彼女は、その孤高さ故の必然として、授業でグループ分けをすると、エリザベートと一緒になることが多かったのだ。
「こんなところで、おぬし何をしておるのじゃ?」
「私は図書委員よ!知らなかったでしょうけどね」
「灯りくらいつけんかい。人がおるのかおらんのかわからんから、ワシのようなボッチが困るでは無いか」
「知らないわよ、そんなこと!……疲れて寝ちゃってたんだから仕方ないでしょ」
「疲れて……おったのか?ワシが起こしてしまったのかの。それは申し訳ないことをした……む?これは何じゃ?」
「あ、それ……は……」
カウンターの上に置いてある一冊のノート。
エリザベートは、制止したアルファを気にもとめず、それを手にとると、パラパラとめくった。
「今日も勇者アルは仲間達と旅を続けている……」
そこには、勇者アルが、5人の仲間と、魔王を倒すために旅をする途中で、様々な苦難に逢い、それを仲間達と克服してゆく、愛と恋と勇気と希望に満ちた、そんなストーリーが描かれていた。
「これは、おぬしが書いたのか?」
「か、かえしなさいよっ!」
アルファは、顔を真っ赤にすると、エリザベートの手から強引にノートをもぎ取った。
「ワシ、まだ全部読んでおらんぞ」
「読まなくてもいいわよ!」
「……アル、とはおぬしのことか?」
「しつこい、誰かに言ったら許さないから!っていうか絶対に許さないから!!」
ノートを胸に抱えるアルファの目じりに、涙が浮かんでいた。
エリザベートはそれ以上何も言えなくなった。
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