第15話 キリいいから、部活やめるってよ その3

「結局、おぬしには何も聞けずじまいだったのう」

「こっちはびっくりしたよ。目の前でいきなり、対戦相手だ、ってだけ言って倒れるんだから」


 早いもので、あれから1日経過。

 ここは、勝負の場所体育館。


 センターサークルの中、体操着の姿でエリザベートはミューと向かい合っていた。


 ミューは、極寒の氷、灼熱の炎にも耐えるという最終装備にも使われる繊維で作られたボールをその両手で抱えていた。


 そう、ボールバトルとは、ボールを利用して行うバトルである。


 両腕、腕に持つ武器、もしくは魔法によって相手に向けてボールを飛ばし、相手はそれを、両腕、腕に持つ武器、もしくは魔法によって跳ね返す。


 これを互いに繰り返す。


 最終的に、ボールが相手の体の両腕以外の場所にヒットしたら当てた方の勝ちとなる。


 もしくは、相手のボールを両腕、腕に持つ武器、もしくは魔法で受けきれなかったら受け手の負けとなる。


「シータと学園まで運んでくれたらしいの。感謝するぞ、ミュー」

「どういたしまして」

「しかし、バイトのために、帰宅部というのはまだ理解できるが、何故同好会室パラダイスを必要とするのじゃ?」

「……」

「言えぬのか……まあ良い、戦いながらでも語り合うことはできよう。では始めるか。『氷地獄マカハドマ』の勇者、エリザベート……来い!」

「『暴風ルドラ』の勇者 ミュー、試合開始!」


 宣言すると、ミューはその左手でボールを天に向けると、矢のような速さで鞭のようにしならせた右手でそれに一撃を加えた。


 加速されたボールは、エリザベートの方に向かってまっすぐ飛んで行く。


氷反射防御壁リフレクト・シールド


 すかさず、エリザベートが呪文を唱えると、彼女の前に氷の盾が形成された。

 ボールはその勢いのまま盾にぶつかる。

 が、盾を破壊することはあたわず、元来た方向、すなわちミューの方に向かって、さらに加速を加え、跳ね返っていく。


「さすが元バレー部エースじゃな、ワシのシールドが一瞬砕けるのでは、と思ったぞ」

「そっちも、なかなか、やるわね。これならどう。暴風旋風ルドラ・ストリーム


 ミューが手を振ると、その先から風の渦が巻き起こり、勢いのついたボールを包みこむと、体育館の周りを一周した。そして、ボールは渦を抜けると、そのままエリザベートの方に向かって行く。


「これほどの力を持つのに何故バレー部を……ならばこちらも、氷の反転スイング・バイ


 ボールの進行方向に、氷の道が形成された。ボールは、その道なりに進み、気がつくと、ミューの方向に飛ばされていた。


「そんなことあなたに関係ないでしょ……暴風回転ルドラ・スマッシュ

「ワシが気になるのじゃ……氷反射防御壁リフレクト・シールド

「大きなお世話よっ、暴風旋風ルドラ・ストリーム

「……氷の反転スイング・バイ


 凄まじい魔法の応酬。


 互いに優れた魔法の使い手であるがゆえの結果ではあるが、こうなってしまうと千日手のようなもので一向に勝負がつきそうになかった。


「ハアッハアッ、そろそろおぬしのアレを出さぬのか」

「アレ?」

「試合でいつも勝負を決めた一撃だと聞いておる」

「あ、アレはもう使えないんだ……」

「そうか、ではワシが勝ちをもらうぞっ!……特大氷圧力アイス・スタンプ


 巻き起こる氷の疾風がハンマーの形をとった。

 それまでにも増して、明らかに重い一撃がボールに加わり、ミューを襲う。


 レシーブする……腕がちぎれてしまうかもしれない。

 他の魔法は……あれをいなせるとは思えない

 ここは……アレを使うしかないのか……。


 逡巡の末、彼女は覚悟を決める。


「私も負けるわけにはいかない……この一撃に全てをかける!約束された勝利の一撃アタック


 ミューの翼が大きく開き彼女は空に舞い上がる。

 そして、体全体を回転すると、その切っ先はボールに向かって真っ向からぶつかった。


 初めは、特大氷圧力アイス・スタンプの威力と拮抗していたかに見えたが、徐々に押し返し、最終的に倍加する威力で跳ね返した。

 跳ね返されたボールは、まっすぐに、エリザベートに飛んでいく!


「逃げてえええええええええええええ」


 回転を終えたミューは絶叫した。


「おぬしの忌まわしい記憶。この一撃で絶ってやる……」


 呟くエリザベートの手に、いつの間にやら、黄金の棒が握られていた。

 振りかぶり、構える。

 そして、高速で迫るボールめがけて両腕を体ごと、回転させる。


幻影の打球アイス・ミラージュ

「えっ?」


 ミューは、自分の目の前で起きたことが信じられなかった。


 あの、超威力で放った必勝の一撃が、エリザベートの持つ棒の真芯に捉えられた際、彼女は祈った。


「……腕が折れるくらいですむかな、あの子」

 

 そうであってほしいと願う。


 自らに使用を禁じた、禁断の一撃を放ってしまったことに対する後悔の念。

 相手に対する謝罪の念。


 しかし、ここからが、彼女の想像を超えていた。


 黄金の棒に捕らえられたボールは、そこに停止していたのだ。


 まるで、全てのエネルギーを吸い取られたかのように。

 そして、瞬きする間に消えた。


 そこにあったはずであるのに?

 いったいどこへ……?


「自分の胸のあたりをよく見るが良いぞ、ミューよ」


 片手に持つ黄金の棒の先で、エリザベートはミューの方を指した。

 首を傾けるミュー。


「う、うそっ」


 彼女の胸のふくらみの丁度下あたりに、ボールはあった。

 愕然とする彼女の前で、それは次の瞬間、体育館の床に自由落下していった。

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