第24話 学期末テストとぼっち包囲網。
学期末テストは全部で十二に科目ある。
現代文、古文、数学Ⅰ、数学A、英語Ⅰ、オーラルコミュニケーションⅠ、化学基礎、地学基礎、日本史A、保健体育、芸術、家庭基礎の十二科目である。
二年生から選択科目が入ってくるが、一年生は皆共通だ。
科目ごとに試験の内容を要約すると――。
現代文。
複雑な読解は授業で説明されていることがほとんど。
ぶっつけ本番で出される読解はそれほど大した難易度ではない。
語彙の暗記をしておけば、後は大抵なんとかなる。
古文。
内容を暗記しておくのは必須として、文法的な知識も頭に入れておく。
語彙的な暗記と、助動詞を中心とした文法の暗記を確実に。
現代文に比べて暗記の比率が大きい。
暗記が決して得意ではない私には少し注意が必要な科目だ。
数学Ⅰ。
入門、方程式、不等式は実力テストで既に終えているので、今回は二次関数である。
数学は得意なので油断しなければ取りこぼすことはないはず。
一応、大学受験レベルの問題まで演習しておく。
数学A。
こちらは実力テストには出なかったので、初めてのテストである。
今回は平面図形。
数式をあれこれするのとは少し勝手が違う。
どちらかというと私は数式の方が好きなので、数学Ⅰに比べるとやや苦手感はある。
とは言え、論理的な思考能力が試されることに変わりはなく、暗記も地歴ほどではない。
こちらも大学受験レベルの問題までさらっておく。
英語Ⅰ
内容の把握、語彙の暗記、文法事項の確認でなんとかなる。
もともと日常会話には困らないくらい出来るので、それほど苦戦しない。
外国語の習得は読み書きから入るとしんどい。
逆に、会話から入ると意外とするっと馴染むものだ。
オーラルコミュニケーションⅠ
同上。
化学基礎。
実力テストで周期表までが終わっている。
粒子の結合からがテスト範囲だ。
この辺りは周期表の意味と大切さが分かっていれば、それほど苦戦しない。
物質の変化からはモルの概念が少し取っ付きづらいだろうか。
ダースなどと同じような単位のことだと一度理解してしまえば、これがいかに良く出来た概念かがだんだん分かってくる。
地学基礎。
暗記。
そうとしか言い様がない。
苦手なので歯を食いしばって覚える。
いや、天文は面白いんだけどね。
日本史A。
以前は原始時代辺りから習っていたそうだけれど、最近は近現代を先にやる高校も多い。
受験で出題される比率も変わってきていると聞く。
もちろん、受験では近現代より前の時代も出題されるので、二年生以後に選択で学ぶ。
これも基本的に暗記。
歯を食いしばって覚える。
保健体育。
暗記。
健康についての色々。
歯を食(以下略)
芸術。
合唱部に所属していた本来の和泉なら音楽を選択していたのだろうけど、私は美術を選択した。
理由は単純、テストが簡単だからだ。
美術の基本的な知識を暗記する。
地歴などの本格的な暗記科目に比べればはるかに楽である。
家庭基礎。
暗記。
歯を(以下略)
試験対策は十分にしてきたという自負がある。
あとはケアレスミスをいかに減らせるか。
試験中には集中して臨んだ。
ほぼ空欄なくすべての教科を終えることが出来た。
手応えは――ある。
◆◇◆◇◆
四日間のテスト期間を終えると、その後はテスト返却の期間となった。
毎時間、悲喜こもごもな光景が繰り広げられる。
とは言ってもそこは育ちの良い百合ケ丘生。
赤点を取るような学生はほぼいない。
せいぜい、友人とどちらが上だったかを競う程度である。
私の結果はといえば――悪くない。
実力テストにもあった科目に限れば、当時一位の冬馬が取った点数を超えている。
我ながら頑張った。
この点数ならそうそう負けることもないと思う。
(冬馬が馬鹿なこと言ってたけれど、これで気にしないで済む)
良かったのだ、これで。
私は正真正銘のぼっちになれる。
未練がないと言えば嘘になるけれど、この寂しさも
人間は順応性の高い生き物だ。
すぐに慣れるだろう。
テスト返却が終わって後はいよいよ終業式を残すのみとなった放課後、順位表が廊下に貼りだされた。
自分の順位を確認しようと、掲示板の前はたくさんの人でごったがえしている。
人混みの間をかき分ける――必要はなかった。
私が進もうとすると、自然と人が避けて行く。
ぼっち計画は順調らしい。
ストレスなく掲示板まで進むことが出来た。
順位表を見る。
「なっ――!」
まさかの十一位であった。
「そんな馬鹿な……」
上位十名の名前を見る。
「!?」
馬鹿な。
ありえない――!
「驚いたか?」
振り向くと、頑然と笑う者がいた。
冬馬だ。
そして他にも。
「冬馬のアホがアホな約束するから必死やったで?」
ナキがへらへらと笑っている。
「頑張ったよー」
いつねさんがにこにこと笑っている。
「当然ですわ」
仁乃さんが自信満々に笑っている。
「えへへ……」
「私は別にどうでもよかったんだけど、みのりんがどうしてもって言うから」
「佳代ちゃんも素直じゃないなー」
実梨さん、佳代さん、幸さんが笑い合っている。
「まあ、あの様子で放っては置けなかったからな」
誠が静かに笑っている。
「ほ、本当に勝てちゃいました」
遥さんが信じられないといった様子で、でも笑っている。
「大将、これでいいんだろ?」
嬉一がしてやったりという顔で笑っている。
――そして、この順番がそのまま学年トップ十である。
「どうして……」
「そりゃあ、お前。勝負だからだよ」
冬馬が言うと、みんなが頷いた。
訳がわからない。
「勝ったら言うこと聞いてくれんねやろ?」
「ねー?」
「冬馬様ったら、勝手に決めてしまうんですもの」
「でも、みんなで頑張った甲斐ありましたね!」
「私は別に――」
「佳代ちゃんも頑張ったね」
「思ったほど伸びなかったがな」
「十位以内なら出来過ぎですけれどね」
「大将はさすがだよなー」
これは……つまり……?
「という訳で、だ」
冬馬がみんなを代表するかのように言った。
「和泉には俺たちの言うことを聞いてもらう。別にオレ一人とは言わなかったよな?」
「そんな……ことのために?」
「そんなことなもんか。みんな大真面目だったぞ」
みんながうんうんと頷いている。
この人たち……この人たち……本当に……?
「もう……なんなの……なんなのよ……」
あぁ……もう……。
視界が、にじむ。
「馬鹿じゃないの? ううん。馬鹿でしょ」
「そうだな、馬鹿だな」
「放っておけばいいじゃない、こんな自己中女」
「そうはいかへんて」
「私からみんなを切ったのよ?」
「あたしはどんな手を使ってもって宣言したしねー」
「不愉快だったでしょう?」
「私は悲しかったですわ」
「私は一人でいたいのよ」
「ダメですよ、そんなの」
「みのりんがそう言うなら――」
「はいはい。佳代ちゃんもこれだけ頑張っといて誤魔化さないの」
「どうして放っておいてくれないのよ」
「それは無理な相談だ」
「いいじゃない。一人くらいいなくなったって」
「そんな寂しいこと言わないで下さい」
「もう……もうっ……っ!」
「あー。こりゃダメだわ。大将、あとは任せた」
冬馬がゆっくり近づいてくる。
私は――動けなかった。
「俺たちの要求は、ただひとつ」
冬馬が両手を広げた。
「帰って来い、和泉」
◆◇◆◇◆
私は一人になりたかった。
でも、どうも上手くいかないようだ。
私の周りにはお人好しでお節介な人たちがたくさんいる。
どうしても私を一人にしてはくれないらしい。
悪役令嬢だとか、勘当ENDだとか、気になることはいっぱいある。
でも、一人になるのは難しそうだ。
そう。
だから。
こんなことが言えるのは、きっととてもとても贅沢なことなのだろう。
私は、ぼっちになりたい。
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