第9話「夜明け」
11人程のオペレータと、物々しい機材と、全面に展開されたカメラ映像等の情報が流れている司令室。その中央奥に座す眼鏡をかけた女性はオペレータからの報告を受ける。
「夢見市にて展開中の第三、第四部隊より入
電、「観測時間1835にてエネルギー波を黒球より感知、同時刻に消失」との事です。」
「ふむ、生きていた...と見ても?」
「確率は0ではないかと」
「では、副司令さん、本部長への報告と第三部隊と第四部隊に作戦続行と伝えて下さい。」
「では、司令は...」
「私は各支部との定期連絡を行って参ります。不都合な事があればすぐに連絡を」
「了解です。」
カツカツと音を立てながら、眼鏡の女性は司令室を後にする。
「一方ユリの朝は早い...じゃしん」
「誰と話してんの、マウォー」
早朝朝5時、日課となってしまったサイテイダー討伐の為に、家の前で準備運動を始めていた。
「別に、それより体調を崩したりしたじゃしん?」
「あ、そうそうそれ!なんか味がわかんなくなってさぁ...困っちゃうよ、なにかわかる?」
「ユリ、昨日サイテイダーを食べちゃったじゃしん。間違いなくそれが原因じゃしん」
「ユリの使い魔のしざついんみが食べたんじゃしんから、その魔力のリソース元になってるユリに影響が行くに決まってるじゃしん、どんなお箸を使っても結局食べるのはユリじゃしん」
「あぁ...え、じゃあこれからもこんな感じなの?」
「サイテイダーを消すだけの魔力も回復出来るし、若干影響は出るけど死ぬほどじゃないし、別にいいじゃしん」
「え、ていうか魔力...って、なに?」
「魔法を使う力の事じゃしん、前回はあの規模の魔法でも直後に食べて補給したから良かったじゃしんけど、長い時間あの量の魔力を使えば身体ごと消えて無くなるから気をつけるじゃしん」
「なんでさ!てかもっと早く言ってよ!前にも言ったよね!」
「こんなコンクリートジャングルで自然の力が再び溜まるとかまず有り得ないじゃしん...でも」
「でも?」
「それはオレっちが力を貸して変身したときの話で、最近変身してるユリだけの変身はあんまり関係ないかも...でも本人が変身してるから、より負荷がかかってる可能性は十分あるじゃしん」
「ま、魔力切れには気をつけようって話ね」そういうことじゃしんと、何故か得意気なマウォーと話している、一丁目の方から爆発音が聞こえる。
「じゃあ、変身と行きますか...!」
窓から入るまばゆい光に、素浄琴葉は思わず瞼を開ける。
「何...?近くに化け物が出たのかしら.........あれ?ユリさん?」
隣で寝ていたはずのユリがいない。昨日、しばらくしてからはずっと寝ていたはず...トイレだろうか?不思議に思いながら、寝室を出てリビングを探してみるが、そこにあったのは、脱ぎ捨てたパジャマだけだった。....こんな時間に外出?いや、図書館も開いていないどころか、朝はあの化け物が出るので危険な筈だ...そうだ、もし出かけたのであれば、彼女の身が危ない!今すぐに探して連れ戻さなくては。そう思うと、いてもたってもいられなかった。健くんを起こさないように静かに支度をして、そっと家を出た。
「一体何処へ行ってしまったのですか、ユリさん...!」
「み、水!えーーっと、
その呪文を唱えると、焔に包まれていた一帯が平穏さを取り戻す。マウォー曰く、魔力がもたらした火なら同じ魔力の水で消せるらしい。魔力が上位互換なんだとかなんとか。いい調子、弱点を見つけるまで待って欲しいと、頭の中で声が響く。というのもこのサイテイダー、消化器のような見た目をしており、火を撒き散らす事に加えて、魔力が弾かれてしまうのだ。こんなのどうしろって話だ、このまま無闇やたらに撃ち続けても、こちらがジリ貧になるだけ...いや、まだ一つ手があった。
「グラトニーホールなら、食べられるかも!」
防御や消火に当たらせていたしざついんみを集め大きな口を形成していく。加速しながら、サイテイダーの直上から思い切り喰らいつく。
「いぃぃいいぃっ!かったーい!」
食べた筈のそれから受けた痛みに、思わず形を崩してしまう。こちらは大ダメージだというのに、何て奴だ。なんて思っている暇はあるが、正直どうしようもない...
「ユリ、わかったじゃしんよ、弱点はあの筒じゃしん、あれを真っ二つに切ると貯められてる魔力ごと消えるじゃしん!」
「それが出来れば苦労はしていない...よッ!」
一応刀で斬りつけてみるものの、まるで効果は無い。本当の刀でもあれば別かも知れないが...というか、その前にひたすらばら撒き続けるこの炎をどうにかしなくては!消火作業をするばかりで攻撃するとあっと言う前に火の海だ。さぁ、何か良い方法は無いか——。
ユリさんを探し始めて早28分...町中を探し回り、残すところはまさに今戦いの起きているであろう一丁目を残すのみとなった。ここにユリさんが来ているとは思いたくは無いが、残すはここだけなので、探すしかない。どうかユリさんが無事でありますように。
「ユリ!こっちに何か向かって来るじゃしん!反応からして、多分サイテイダーじゃなくて人間じゃしーん!」
「はぁ!?なんでよりによってここに近づいて来るの!」
信じられない、辺り一面が炎なのに、それでもなお近づいて来るというのだろうか、それってマウォーの間違いではないのだろうか、マウォーはへっぽこなので有り得ない事もないのではないだろうか。
「うるさいじゃしん、わざと聞こえるように思うんじゃないじゃしんよ間違いじゃないじゃしんから!ほら、見えるじゃしん!」
「え、あれってまさか...」
その姿を見た己の目を疑うが、間違いない。あれは紛れもなく私の幼馴染だ。素浄琴葉じゃないか!まさか、まさか私がいなくなったから探しに来たのだろうか?とにかくここから離れて貰わなくては。
「ごめんなさい!貴方はそこで一体何をしているのかしらー!」
ユリさんを探しながら火の街を歩いていると、はるか上空より声をかけられた。
「あなたが化物倒しの...?あの、私くらいの高校生の子を見ませんでしたか!今朝から何処にもいなくって...」
「ええっと、見てないわ、だけど必ず見つけて貴方の元に送るから、家に帰った方がいいわ。ここはとても危険だもの」
「わかりました、よろしくお願いします...!」
なんとかなった...琴葉ちゃんを上手い事帰らせる事が出来た...このサイテイダーも元いた場所に戻せれば良いのだが———。
いや、いい事を思いついたぞ、なんてったって、戻せば良いのだから!
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