第7話「貪食」

「いやあぁっ...ぐぅっ」


異形の化け物に投げ飛ばされ少女はコンビニノガラスを突き破り、商品棚へ叩きつけられる。


「め......ぅえぇ.....うっぐ...い...」


もちろん、叩きつけれたその身体にはダメージが入る。背中の感覚がないどころではない、立てない...言葉が出てこない、出せる余裕もない。


一方化け物は、自身の周辺のコンクリートを剥がして食べながら、ゆっくりとこちらへと近づいてくる。


(ユリ、はやくしざついんみでどうにかするじゃしん!)


「ど...う.....」


(ユリだけの時間なら3分だけ戻せるじゃしん、それかしざついんみに回復を助けてもらうかじゃしん)


こいつに回復してもらう...?いや、時間を...


少女が強く「時間よ戻れ」と念じると、しざついんみは少女を丸い球体となった自身で覆った。


「おお、身体が楽になった!」


球体が元の小さなボールのような形までもどると、少女の身体は元通りであった。


「でも、どうしよう...もう一回攻撃した方が良いかな」


「ねぇマウォー、どうしたらいいと思う?」


(.....)


「無視かい、しょうがない...もう一回」


崩れたコンビニから飛び出し、空中からもう一度魔法を唱える。


「強くって、食べられないものを...!」


しざついんみを持ち、頭上に掲げる。


「地に落つる流星群よ、滅びの如く!」


それらしい呪文を唱え、しざついんみを前に構える。


「来たれ!」


大声で放つと同時に、しざついんみが空へ登って見えなくなってしまった...


....と。その瞬間、空の彼方より光が落ちて来る。耳鳴りとも思えたその声は、とてつもなく大きな影と共にこちらへと迫り来ている。

それは、空を覆い尽くす程の巨大隕石群だ!


「えぇえええーーーーッ!」


(.....っていつの間にこんな事してるじゃしん!?このままじゃ確実に街ごと消えて無くなっちゃうじゃしん!)


「ど、どうどど、そうだ!あっ圧縮!」


と、念じると巨大隕石群は一つに圧縮され、一つの棒となり、やがて巨大な槍となった。


「よーし、投げるッ!」


枝分かれし、糸のようになったしざついんみが槍に突き刺さる。そして少女は手元に残ったグリップのようになったそれを掴み——。


「よいしょおおおおッーーー!」


全力で怪物に向け投げ飛ばしたのだった。


「..喰..!」


投げた槍は喰らおうとした怪物ごと地面にめり込み、そのまま停止する。


「やった...やったよ」


「いや、まだじゃしん!今すぐここから離れるじゃしん!」


「なんで!?倒したじゃん!」


「魔力があの槍の下から漏れ出してるじゃしん!しかも...」


突き刺さり停止したはずの槍は、少しずつだが更に潜り続けていたのだ!


「もしかして——」


じゃしん!」


「このまま食べ続けて、また出てきたときにアレは全ての魔力を放出するじゃしん、それが!大爆発になるじゃしん!」


「えぇっ、ヤバ過ぎるでしょ!止められないの?」


「攻撃したら、した分だけ放出する魔力の量が多くなるだけじゃしん!」


「じゃあ、じゃあさブラックホールとかに放り込たりしないの?」


「ん〜、もっと特訓しないと無理じゃしんね...あっ!そうじゃしん!

条件話じでながっだじゃじーーーん!!!」


「条件あるの!?ねぇ嘘でしょ早くしてよ!もう槍が半分くらい減ってるからーッ!」


「基本的にはユリが考えた事をそのまま「しざついんみ」で抽出、発現させるじゃしん!

でも、しっかりとどう動くのかをと、制御が出来なくって何が起こるかわからないじゃしん!ってなんで近づくじゃしん!」


「しざついんみ!私ごとアイツをカチカチに包み込んで!」


暗く、分厚い壁に包み込まれた少女は暗闇の中で叫ぶ。


「この瞬間の、今の私魔法少女を信じる...!」


槍で開けた穴から、球体の中に光が広がる。


「さぁ、教えてッ!————

貴方のその力を!」


光が球体の内側で反響し、少女の身体も包まれてゆく。


「ユリっ!中で何してるじゃしん!辞めるじゃしん!」


そして、数秒ののち、球体が解かれ、地面にビヂャビヂャと落ちて滴り、そして現れたのは


クズシタ、サアィァティぃいぃ...」


肥大化したサイテイダーだけだった。


「ユリ...」


以前よりも大きな咆哮は警報の声さえも搔き消し、その振動によって周辺の建物の窓の割れ始める。


「身体が破裂しそうじゃしん...!ユリー!応えるじゃしん!ユリー!」


だが、無情にも辺りには咆哮だけが響き渡る。彼女は消えたと証明するように。

怪物は自らの咆哮で割った窓の中へ無造作にを突っ込み、人を捕らえて

5人、10人、15人...

帰らない。


「.....悪魔じゃしん悪夢じゃしん、こんなことあるじゃしん!?」


全身を溶かして伸ばし、更に人を取り込んでゆく。いや、人だけではない。家を、道を、マンションを、取り込んだだけ増える泥の様になった化け物があらゆるものを喰らい尽くしてゆく。


「もう駄目じゃしん...せめて新しい契約者だけでも助け...」


「その必要はなさそうだよ、マウォー!」


「ユリ!」


少女の声がした方角を見ると、泥が「黒い穴」へと落ちてゆく。


「わかったの!こいつの倒し方ーっ!」


黒い穴は、建物や道が元々あった場所をなぞりながら広がってゆく。


「逆にこいつを食べればいいんだよー!」


広がり続けた黒い穴は、泥と化した化け物の範囲を超え、空へ何かを形作り始めた。


「ユリ、何をしてるじゃしん!?食べるって...どういう事じゃしん!?」


「アイツってさ、手の隙間がどこかに吸い込める空間になって、から!それを真似して、このしざい...なんとかで覆って、アイツを食べてしまえばいいって思ったの!」


黒い壁は巨大な口へと姿を変え、ばくりと飲み込んだ。


「喰ゥ...喰ァァァァァァァァッ!」


さらに泥と混ざりながら、その黒空に向けて化け物は叫ぶ。


が、少女は一つの壁を挟み天空から叫ぶ。


「こんどは貴方がクズされる番よッ!

貪食たる漆黒グラトニー・ホール!」


ゴプ、ゴプ、ゴプ、と勢いよく水を飲み干すように縮んでゆき、それと同時に破壊された建物や人々が元に戻っていく。


「ォオオォオォ....」


少女が大地に立つと同じくして泥を全て飲み干したしざついんみが手の平に戻って来る。

ゲプッと吐き出した最後のサイテイダーのカケラ、もとい目玉を握り潰して少女は変身を解いた。


「周りの人は皆気絶してるみたいだしさ、ささっと撤収撤収〜、帰って準備しなきゃね」


「色んな意味で驚きを隠せないじゃしんけど、まぁ本人がそれで良いなら良いじゃしん、そういえば今倒したのは」


「帰りにコンビニ寄ってお菓子買わないとなぁ、今日は祭りじゃ祭りじゃー!」


「話を聞くじゃ...置いて行かないでじゃしん!ちょっと、待つじゃしん!ちゃんと説明させて欲しいじゃしーん!」


一人と一匹が街をかける、何も変わらなかった街を。

変わってしまう少女と共に。

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