第6話「開戦」

「防衛大臣、既に特殊異界生物α、β、γ達が出現してから二週間が経過しました。これ以上隠匿するのは不可能かと...」


「ではどうするんだ、いたずらに国民に事実を公表してしまえばただ不安を煽るだけだ。幸い今はネットのデマだという事になっているのだ。ある程度の安全性を確認出来るまでは...」


ふくよかな男性が目の前の男を一瞥する。


「...とにかく、ならん!彼女がいなくては私達は何もできんのだぞ、何かして刺激する方がよっぽど危険だ。...とにかく攻撃は駄目だ!今しばらく待て!」


部屋に青年を残し、ふくよかな男性は通話しながら出ていく。


「くっ...」


うつむいた青年は硬く拳を握りしめた。



「そういえばいっつもユリの心の声うるさいじゃしんね〜」


「うるさい、勝手に心の声聞いてるそっちが悪いんじゃん!この街とマウォーくんの夢を守る魔法少女様だぞ!」


「その力を授けたのは俺っちじゃしん...」


授業も終わり、登校して来たいた生徒達は早々と家へ帰り出す。なんだかちょっと不気味だな、やっぱり...


「ユリさん、ユリさん。」


「はっはぁっはあなんでしょう!?」


「健くんは別のお友達と帰るそうですから、私たち二人で帰りませんか?」


「そっか、じゃあそうしよっか」


現在時刻は四時三十分、出現までも余裕で間に合うだろうし、話しながら帰ろう。


「そういえばユリさん、眼鏡はどうしたのですか?今朝から掛けて無いみたいですが...」


「あぁっ、とそれはね!目!目が良くなるトレーニングをしてたらめっちゃ効いてさ!」


(健くんより馬鹿じゃしん)


ゔっ...ごめんなさい


そんなこんなで帰宅途中、唐突に投げかけられた疑問にむせる。


「朝話した、サイテイダーを倒せる方...一体どんな方なのでしょうね。」


「だ、大丈夫ですか?一体何が...」


「いや、大丈夫むせただけだから、ど...どうしてそんな事が?」


「いつもこの街にしかサイテイダーは現れないのですから、逃げて他の場所でその特技を活かせばいいのに...と」


「ま、それが出来ないからこの街にいるんじゃないかな?適当だけど」


琴葉の足が止まる。


「なるほど、では尋ねばなりませんね。」


は?い?


「な、なんで?危ないよ、その人だってサイテイダーを倒してるんだから近くに行くのは...」


「構いません、承知の上です。戦いを終えたその方に聞いてみたいのです、何故戦うのかを」


「はぁあ...そういう事か...私が前見せたアニメのせいか」


元々真面目で優等生な彼女だが、最近幼馴染3人でアニメ鑑賞兼お泊り会をしたのだが、彼女がそのヒーロー物のアニメにどっぷりと浸かってしまったのだ。あぁ、見せなきゃよかったなぁ


「それよりさ、ロボットヒーローガンバルの新作DVD手に入ったしさ!今夜またお泊まりしようよ、今日は金曜日なんだしさ!」


「そうなのですか!では、そちらを優先しましょう。続きがとても気になりますし、そちらの方が危なく無いですものね」


良かった、ハマってくれててほんと良かった!


「それではサイテイダーが倒され次第、家を出ますね。そのときに健くんも連れて来ますから、また後で会いましょう。」


「...よし、行った。マウォー、今何時?」


「今は5時50分じゃしん、昨日みたいに出現場所はわかるじゃしん?」


「...そうだね、前のときみたいにわかるよ、あいつらが来る場所丁度ここみたい。」


先に変身しておこう、いつ来てもおかしくは無いだろうし。


「おっと、これからは本契約じゃしん、今までとは少しだけプロセスが違うじゃしんよ。」


「ほう、じゃあどんな風に違うの?」


「変身するときは、 すいぃすいぃあぁっー!って言うじゃしん」


「え、なんで?なんで急に」


「いいからいいから!仕方ない事じゃしんから!」


....いつか一発ぶんなぐってやる


「すいぃ、すいいぃい、ああああっーー!」


まばゆい光に吸い込まれ、変身が完了する。


「あれ、こんなのだったっけ...?」


いつも通りの衣装、ではなく。

服装はノースリーブのTシャツに膝の少し上までのスカート。スパッツとタイツを履いていているのだが、これがとても動きやすい。このタイツの筋肉の部分を白いラインで表しているデザイン...多分これだろう。

羽織っているジャケットの色んな部分にはナイフだとか拳銃の弾が入っている...なんだっけ、あれとかが入っている。ちょっと重め。


ブーツまでも何処か未来チックなのになっている。真っ黒なブーツに青い光のラインが走り、横には数字の9を線対称に重ね、斜めにしたような何かが...ひっついている謎の...何かが二つ付いている。そして何よりも。


「ロボット...!?」


肩から指にかけて、腕がウィーンウィーンってロボットみたいになっている。腕の上から装着されているようだが、指も鉤爪のようで自分の腕がこれなのだと言われれば、ちょっと怖い。しかも髪の色が若干白い!!老けてる!


「どう言う事よマウォーー!?」


「し、しらないじゃしん何じゃしんこれちょっといくらなんでも変わりすぎじゃしんよ!」


「はああっ、はい!?知らない!?何ふざけた事言って...ッ」


またがする、聞き覚えのある、私がトクベツだどうだとか言う声が。


「意味わかんないよ、何が...どうなって」


と、考えることを許さないと言わんばかりに地面に亀裂が走る。


「そんな、まだ55分じゃしん!5分もズレが発生してるだなんて...!」


「何がなんだかわからないけど、取り敢えずは戦わなくっちゃあさ」


「.....始まらないでしょ!」


「サァaA Aaaiィいティイイッイァぁああッ!喰! クズス喰! クズス喰! クズス喰!クズスゥゥゥゥゥゥッ!」


五体全てが手で作られ、顔にあたる部分を構成する手の引き裂くような掌の隙間からはいくつもの舌が覗いている。髪は歯を作り、その炎に焼かれ続ける身体は細く、辺りには焼けた肉の匂いが充満する。

それを敢えてヒトで形容するのであれば、食べる事を意味するのだろうか。


相対し、その手を伸ばし迫るソレに思わず言葉を放つ。


「キモッ!」

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