第5話「あるひ」

校門では、学生達せかせかと登校している。だいたい大体二週間が経って、総生徒数が大きく減った訳ではないからなのか学校が休校になる事は無かった。初めてサイテイダーが現れた日は、それはもう酷いものだった。一度15人も消え、かつ痕跡も残されていなかったのだから当然だ。

が、学校は結局休みにならず昼からの登校となり続く2回目の夜6時のサイテイダーの出現で帰宅途中の人々が15人消えた。

これを受けた学校や企業側はこの不可思議な事件が収まるまでは12時から4時まで、19時から4時までを活動可能な時間帯とした。これが発生から3日目の話。

これまたおかしな話だ、15人を捕獲するまで帰らないのだが...なんとサイテイダーは一定の範囲をぐるぐると周回しているらしく、現れた地区以外は普通通り生活出来るらしい。


「ねぇ知ってる?サイテイダーを倒せる人がいるらしいよ...」


「知ってる知ってる!今日の朝の爆発音もその戦いの音なんだって!」


教室に向かう途中、そんな噂を何回も聞いた。いやぁ...恥ずかしいなぁ!なんか、実感するなあぁ...!


(恥ずかしいも何も張本人じゃしん)


うるさい


(ま、それよりもユリのお友達がどんなのか楽しみじゃしんね〜)


教室の扉を開け、自分の席へ向かう。


「おはよう、ユリさん。」


「お、来た来た!よっ!」


「おはよう二人共」


(おぉっ、この二人が友達じゃしん?)


そうだよ、ロングストレートで丁寧語が癖な美人な彼女が〜素浄琴葉ちゃんで〜、チビで茶髪でいっつもうるさいのが実野 健くんだよ。幼馴染なんだぜ。


「二人も知ってるか?噂の化け物殺し!」


「えぇ、もちろん。」


「す、すごいよね!まさか倒しちゃうんだなんてさぁ!びっくりだよ!」


....恥ずかしすぎる、殺してください


「つーか守ってくれるのは嬉しいけどさ、学校がまた通常通りになるのは嫌だなぁ...」


「とは言っても壊れた道の整備や建物の再建に行方不明になったままの人の捜索もありますし、元に戻るにはもっと先になると思いますよ。」


「そうだよ、警察だとか自衛隊も来なかったどころか「不明瞭な点が多過ぎて突入出来ない」とか。」


「んー...じゃあしばらくは学校もこんな感じか!やっった!」


バカ。だ...相変わらずなんで高校に受かることが出来たのやら...


「じゃあもうすぐ授業ですし、また放課後にでも話しましょう」


「はーい、あとでね」


事実として、市民を守ろうとして警察達は数多く犠牲になった。もちろん15人を向こうは回収しようとするわけなので助かっている。が、その警察さんにも家族はいる。

街全体が暗く、陰鬱としている。


(授業といっても3時間しか出来ない...実に不便じゃしんね)


ほんとほんと。どっちかって言うと学校に行く目的が友人達の生存確認になっていたのが実際のところだ。



授業を受けていると、二週間よりもっと前の日常に返って来られた気がするのだ。


琴葉のペンのすらすらと書く音。

となりの健の小さな小さな寝息。


私だけ聞こえるマウォーの羽音。


非日常は、日常と溶けゆくのである。


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