目的

カニ太郎

第1話目的


その初老の男は都心の煉瓦街を急ぎ足で歩いていた。

「ヤバイ、取られる・・・」

いったい何が取られるのかというと、馴染みのコーヒーショップの指定席だ。


指定席といっても彼が自分で勝手にそう思っているだけなんで、お店にとっては誠に迷惑な話なのであるが、とにかく彼はそう思っていた。


彼は50歳である、そう世間では初老という、もう頭頂部は禿げていた。

彼は毎朝、同じ電車で都心に通っていた、でも仕事ではない、もうリタイアしていて無職なのである。

無職の彼がなぜ毎朝電車で都心に通うのかというと、理由がある。

どんな理由かというと・・・


そのとき、急ぐ彼の向こう側から、一人のオッサンが歩いてきていた。

中肉中背グレーの鞄、頭髪はすでに薄くバーコードになっていたが、彼よりは若いだろう。

「アイツだ!」

彼は苦々しく呟き足を早めた、目的地は同じなのだ。

すると、先方もこっちに気づいたのか歩く速度を早めてきた。

「負けてたまるか、クソー、あの野郎~」

彼はほとんど小走りになって目的地のコーヒーショップにたどり着き、

カウンターには目もくれず、奥の角席に鞄を置いた。

《ザマー見ろ》

彼は心の中でそう叫び、カウンターにモーニングを買いにいった

彼より少し遅れて、先程のバーコードのオッサンが店に入ってきた


バーコードのオッサンは彼の並びに席を取った。

二人は同じ列の1つ空席を挟んで並んで座る形となった、テーブルにはモーニングセットとパソコンが置かれていた。


15分ほど経った

彼が毎朝ここに座りたい理由がそろそろ現れる頃だ。


彼は女性を待っていた、といっても知り合いではない。

いつも八時半頃、ここに一人の妙齢な女性がモーニングを食べに来るのだ

年の頃は二十代後半、スーツ姿の男性の多いこの駅の地下街で、彼女のスーツ姿はひときわ映えた、スーツスカートからすらりと伸びる脚は、とても健康的で綺麗で誰もが振り向くくらいだ、そう彼もそしてバーコードのオッサンも彼女の隠れファンだったのだ。


彼女はいつも向かい側の一段高い窓際の席に座るのだが、実はここからは彼女の脚が一番よく見えるのだ、ウッシッシ(笑)

そして、あのバーコード野郎も俺がいないときはいつもこの席に座ってやがる、きっと奴は今頃悔しくてしかたないに違いない《スケベ野郎!》と彼は心のなかで呟いた。


もうそろそろ入ってくる頃だ、オッサン二人は揃ってパソコン画面に夢中なふりをした。

自動ドアが開いた、あの女性が入ってきた、ガーン、ショックが彼を襲った。

彼女はズボン姿ではないか、彼とバーコードは苦々しくコーヒーを同時にすすった、が次の瞬間、ズッコーーーーン、衝撃が二人を襲った。

彼女のすぐ後ろから、ベビーカーを引いたカッコいい兄ちゃんが入ってきて

彼女と楽しそうに会話してる。

「あなた~モーニングでいい?」

オッサン二人は、同時にコーヒーをふきだしてしまった。

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目的 カニ太郎 @kanitaroufx

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