友人の手記
できることなら助けてやりたかった。でも、できなかった。彼はいつも僕を置いて一人で何もかも決めてしまう。僕が何かを言ったところでその意志は変わらない、それを僕は知ってしまっていた。
でも、本当にそうだろうか。本当は助けて欲しかったんじゃないのか。僕はなぜ探偵に手紙を託した? なぜ自分で探しに行かなかった? 休みを取って行くべきだった。彼は僕の親友だったのに。
彼の考えは、昔から人の理解を得なかった。しかし、彼がおかしいわけではなく、彼の周りがあまりにも疎かったのだ。そして、彼の意志を聞こうとしなかった。彼の意見を端から否定して、彼の殻を固くした。僕は彼の理解者でいてやりたかったが、愚かな僕は、結局周りに流されるだけだった。
高校卒業と同時に、彼は突然町を出た。唯一の家族である母親にも何も言わずに、僕に紙切れ一枚残して去って行った。
彼の母親は、僕から見ても彼に厳しかった。厳しいというより、よく酒を飲む、気性の荒い人で、よく彼を理不尽に怒鳴っていた。でもそれはあの人自身にもどうにもできなかったことなのだと、僕は彼が町を去ってから知った。
今、僕は彼からの手紙を手にしている。沸き起こる感情と言えば、後悔。彼の母が彼を心配しているということを、もっと早く、もっと強く言うべきだった。もしくは、やはり何が何でも彼を病院に連れて行くべきだった。もっと言えば、あのとき、町を出ていく彼を、僕が止めるべきだった。
しかし、僕は臆病だった。彼の死を経験してなお死が怖かった。死を考えるだけで涙が出た。震えが止まらなかった。情けないけれど、僕に彼のような強さはなかった。その代り、僕に彼のような弱さもなかった。だから死ねなかったし、死ななかった。
この手紙は、別に誰に宛てたものでもない。ずっとしまっておこうとも思うし、書き上げたらすぐに破り捨ててしまおうかとも思う。何にせよ、誰の手に渡ることもないだろう。
僕は、早く忘れてしまいたいんだ。
手紙 睦月衣 @mutsuki_kinu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます