タロースの暴走
そろそろ明け方に近い夜中、長谷川警部とタロースは、スカイパトカーに乗って夜の街をパトロールしていた。陸上走行モードで走り、
「長谷川警部。廃工場の中に入っていく三つの
タロースが長谷川警部にそう
「え? こんな夜中に廃工場で何をするつもりだろう。
車から降りた長谷川警部とタロースは、忍び足で廃工場の中に入って行った。
すると、工場内では、アケディアと手下二人がいて、先に来ていた怪しげな男にピストルを手渡そうとしていたのである。アケディアは全国に指名手配されている
「このピストルの
ディアボロス・ウイルスが中にたくさん閉じこめられたこの銃弾は、アケディアたちがココルの誘拐に失敗した後、ディアボロス博士が作った。ココルみたいに強すぎて
サーペント団の本部は、「カラクリ天才夫婦が作ったココルを早く手に入れろ」とアケディアをせかしていたが、お金が大好きなアケディアはこのウイルス入りの銃弾を一般市民に売って金もうけをしていたのだ。
「なんだ、思ったよりも
ピストルを受け取った男がそう言う。
「あんたが何の目的でディアボロス・ウイルスを欲しがるのかは
アケディアがヘビのような目ですごむと、取引相手の男はごくりとツバを飲みこんで、「わ、わかった……」と答えた。
「あーあ。こんな真夜中に外出なんかしちゃったから、腹が減ってきちまったぁ~」
「に、にゃあ……。こんな商売、もうやめましょうよぉ~。いつ警察に
「チッ。うるせぇぞ、
アケディアと手下たちは何やらもめだした。こんな会話は彼らにとって
(どうやら、アケディアは手下たちと仲間
と、考えた。そして、タロースに「今この場で、アケディアたちを
「長谷川警部。お言葉ですが、
「目の前に凶悪犯がいるのに、逃がしてしまうのは正義のヒーローじゃない。だいじょうぶ! 正義のロボットのおまえが負けるはずがない!
長谷川警部が
「では、警部。作戦を
「ええと~、そうだな……。正義のロボットたるもの、敵を
ヒーローに
「サーペント団の幹部・アケディア! おまえたちは完全に
物陰から飛び出した長谷川警部は、ピストルをかまえながら、そう
別に「完全に包囲」なんてしていないのだが、警察になったら一度は使ってみたいセリフだったので、そう言っただけである。
「ええ~⁉ や、やべぇよ、ボスぅ~! 早く逃げなきゃ!」
「にゃあ~! にゃあ~! わたし、逮捕なんかされたくな~い!」
長谷川警部が考えなしで言ったハッタリは
「うるさい! 少し落ち着け! 外からは物音ひとつ聞こえない。ただのハッタリだ」
そう言って手下たちを叱った。
「ひ、ひぃ~! 警察だぁ~!」
アケディアからディアボロス・ウイルスを買った男は、工場の裏口から逃げ出そうとした。
「待て!」
タロースは
「次は、おまえたちの番だ!」
タロースは、アケディアたちをキッとにらんだ。金色の両目がキュピーンと光る。
「ぼ、ボスぅ~! あのロボット、めちゃくちゃ強そうだけど、どうすんのさぁ~!」
「泣くな、熊!
アケディアはそう
「……逃げるふりをして、敵を油断させるぞ。あのロボットが追いかけてきたら、
アケディアが
「に、にゃあ……。あのロボット、ネットニュースで見たことがあります。タロースっていう優秀な警察ロボットですよ。タロースにそんな手が
「いくら高性能に作られていても、しょせんは人間の道具だ。人間様の知恵には
アケディアはそう言って笑うと、二人の耳から口をはなして「それ、逃げろ! 熊も全力で走れよ!」と叫んだ。
アケディア、熊坂、ねこはものすごいスピードで走り出す。もしもの時のためにロボットスーツを着ていたから、生身の人間では考えられないような動きができるのだ。
(あの素早い動き、かなり高性能なロボットスーツみたいだ。たぶん、ディアボロス博士が作った特別製だろう。あのロボットスーツで三人がかりなら、
タロースのことを警察ロボット隊の中でもっとも強い
しかし、長谷川警部はちっとも
「タロース、ボーっとしてどうしたんだ? アケディアたちを早く追いかけるんだ!」
(
恐怖心を持たないタロースは「
長谷川警部もトレンチコートを風でひるがえしながら走り出した。でも、ロボットスーツを着ている三人には、生身の体ではとうてい追いつけない。
一方、タロースは、工場の外で、一番のろまな熊坂に早くも追いつこうとしていた。
「はぁ、ひぃ、ふぅ……。腹が減って力が出ねぇよぉ~。もう走れないよぉ~……」
熊坂は、どて~ん! とずっこけた。アケディアとねこは
(何のためらいもなく仲間を置き去りにするとは、悪党の友情とは
タロースは
「か……かかったなぁ~!」
倒れていた熊坂がぐわぁっと起き上がり、タロースに抱きついたのである。
おどろいたタロースは、ふりはらうことも忘れて、「な、何のつもりだ⁉」と言った。
「へっへっへっ。よくやったぞ、熊。ほんの数秒だけでいい。タロースの動きを止めろ」
気がつくと、逃げたはずのアケディアとねこがタロースの左右にいて、
(しまった! オレにディアボロス・ウイルスを
このままだと、電子頭脳を
タロースは熊坂をふりはらって逃げようとしたが、相撲取りよりも重たいうえにロボットスーツでパワーアップしている熊坂は顔を真っ赤にしてふんばり、タロースを逃がすまいとしている。
「あのドケチなボスが、この作戦に成功したらハンバーグ定食をおごるって約束してくれたんだぁ~! 死んでもはなさねぇぞぉ~!」
怪力が自慢のタロースが多少の力を込めて熊坂を
「もう遅い! くらえ、ディアボロス・ウイルス‼」
アケディアとねこは、ほぼ同時にピストルの引き金を引いた。二発の銃弾はタロースに命中して、粉々に砕ける。そして、砕けた銃弾から目に見えないナノロボット「ディアボロス・ウイルス」が飛び出てタロースの体内に
「ぐ……ぐわぁぁぁ‼」
タロースはもがき苦しみだした。
「た、タロース! どうしたんだ⁉ だいじょうぶか!」
遅れてやって来た長谷川警部がタロースにそう呼びかける。しかし、タロースは「ぐわぁぁぁ! あががが!」と叫び続けて、何も答えない。
「これでタロースはオレ様の手下だ。タロース、あのトレンチコートの警察をぶっ飛ばせ!」
アケディアは腕時計型コンピューターを
「ぐ……ぐぎぎぎ……。ががが……。ぐがががーーーっ‼」
「う、うわぁ~! タロース、やめてくれぇ~!」
タロースが
「あははは! 自分の部下だったロボットに攻撃されるとは、
「に、にゃあ……。また心の優しいロボットを悪い子にしちゃった。
「え? 何だって?」
見ると、タロースは拳をふりあげたままピタリと止まっている。必死に、拳をふりおろさないように
「ぐ……ぐぎぎぎ。お、オレは、警察ロボットだ。正義のためにしか、この拳は使わない」
おどろいたことに、タロースはディアボロス・ウイルスと戦っているのだ。
「チッ。なんてロボットだ。だったら、もっとディアボロス・ウイルスを撃ちこんでやる!」
アケディアは、バン! バン! バン! と連続で三発撃った。タロースは、大量のウイルスを体内に
「や、やめろ! やめてくれぇー!」
長谷川警部は泣きながら叫ぶ。
「あ、アケディアさん! そんなにウイルスを撃ち込むのはやりすぎですよぉ~!」
「うるせぇぞ、ねこ! 邪魔するな! へへへ……。警察ロボット最強のタロースが手に入ったら、あの憎たらしいココルだって倒せるかも知れない。……おお、そうだ。こいつに銀行
アケディアは舌なめずりしながら、タロースが自分の
「ぐぎぎ……ぎぎぎ……ぐごごががぁぁぁ‼」
「ぼ、ボスぅ~! あのロボット、様子がおかしいぜぇ~?」
タロースは手足を異常なほどガタガタと
「あっつ! な、何だ⁉ タロース、止まれ! そんな熱い体でこっちに近寄って来るな!」
ガシャン、ガシャンとタロースはアケディアたちに歩み寄る。アケディアがいくら
「ぐおおおおお‼」
タロースはケモノのように
タロースの全力のパンチは、ズゴゴゴーン! と、地面に大穴を開けた。
そして、タロースは近くにあった大きな木を怪力でひっこぬくと、ブンブンふり回した後、放り投げた。危うく長谷川警部に当たりそうになり、警部は「ぎゃー!」と悲鳴をあげる。
「ひ、ひぃぃ! 腹減ったとか言っている場合じゃねぇ~! あいつ、敵味方関係なしに攻撃してくるぞぉ~!」
「ち、ちくしょう! なんでオレの命令を聞かないんだ⁉」
「アケディアさんが
「つ……つまり、どういうことだ⁉」
「もうだれの言うことも聞かず、エネルギーが尽きるまで暴れ回ると思いますぅ~! ど、どうするんですか? 暴走したタロースは街をめちゃくちゃにするかも知れませんよ⁉」
「街の人間がどうなろうが、知ったことか! とにかく、今は
アケディアはそう言うと、バビューン! と、風を切って逃走した。
熊坂とねこも、「待ってくれよぉ~! ボスぅ~!」「に、にゃあ~!」と言いながら逃げ出す。
「ぐごごががぁぁぁぁ! ごがぁぁぁぁ!」
タロースは狂ったように吠えると、
「タロース、お願いだから正気にもどって帰って来てくれ! ……タロースーーーっ!」
白みだした空の下、長谷川警部は叫んだ。しかし、タロースはもどっては来なかった。
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