ロボットと人間は友達になれる?

 それから数日がたった。ココルは、自分のせいで愛菜あいな勇治ゆうじがまたケンカをしてきずついたら嫌だと思い、あれからずっと不気味ぶきみなほど大人しくしていた。


 そして、ココルがさらに落ちこんでしまうできごとがもう一つあった。


 ネットニュースが、あのスカイカーの事故を報道ほうどうしていたのである。警察けいさつロボットの活躍ばかり注目されて自分の活躍がニュースにのっていなかったことをココルは別に気にしていなかったけれど、その報道の内容が納得なっとくできなかったのだ。


「警察ロボットの活躍はめざましいものがありますね。特にタロースは素晴すばらしいロボットだ。彼が街をパトロールしてくれているかぎり、市民は安心して外に出かけられます」


 という、ロボットに肯定的こうていてきな意見を言ってくれるロボット専門家がいたのはうれしかった。でも、別の意見を言う知識人ちしきじんもいたのだ。


「いいや、ロボットは危険だと思うね。今回みたいにディアボロス・ウイルスで人工知能がくるったら、大事故を引き起こしてしまう可能性があるんだよ? タロースだって、ディアボロス・ウイルスに感染かんせんしたら市民におそいかかるかも知れない。

 近頃ちかごろのロボットはいかにも人間らしくうから人と同じ心があるとだまされそうになるが、しょせん、ロボットはプログラムで動いているだけの機械なんだよ。あいつらに心なんてあるわけがない。ロボットを信用しすぎるのは危険だ」


 その人の意見に対して、かなり多くの人々が「そのとおりだ!」「ロボットが人間の社会になじめるはずがない」などといった賛成さんせいのコメントをしていた。


(ロボットを嫌っている人って、勇治くん以外いがいにもたくさんいるんだ……)


 その事実を知ったココルの電子頭脳はさらに悲しみの感情に支配しはいされてしまうのだった。


「ねえ、ココル。わたしがお父さんに『ココルを学校に行かせてあげて』ってもう一度お願いしてあげようか……?」


 ある日の夜。愛菜は、ココルの部屋をたずねてそう言った。ココルの元気がないのを心配していたのだ。


 ココルは赤ちゃんの状態じょうたいだったころは愛菜と一緒いっしょに寝ていたけれど、愛菜の寝癖ねぐせがあまりにもひどくてココルを何度もベッドからり落としてしまうから、信人のぶとがココルに部屋をあたえたのである。


 ココルは、愛菜の申し出に「いいの……」と元気なく答え、首をふった。


「ロボットを嫌っている人もいるみたいだし……。わたしが学校に行ったら、ロボットが嫌いな人たちとケンカしちゃうかも。もしもだれかとケンカをしてしまったら、その人を傷つけちゃうし、自分も傷ついて悲しい思いをするもん。そんなのは嫌だから……。わたし、人がたくさんいるところに出ていくのが恐くなっちゃったかも」


「ココル……」


 愛菜は、自分と勇治がケンカをしたせいで、ココルが人間と関わることに臆病おくびょうになってしまったのだと思い、責任せきにんを感じた。このままだと、ココルは「人間と友達になりたい」という心を失ってしまうかも知れない。そんなのは、絶対ぜったいに嫌だ。


 愛菜は「ココル。わたしもね、勇治に『心に欠陥けっかんがある』だなんてひどいことを言っちゃって、すごく、すごく反省しているの」と言った。


「わたしたち人間はそれぞれが別々の心を持っているし、他人の心の中なんてのぞけない。だから、自分が気に入らないことがあったら、ケンカしちゃうことがあるんだよ。この世界からケンカを完全になくすのはむずかしいと思う。

 ……でも、言葉を口にする前に自分がこんなことを言われたらどんな気持ちになるだろうって考えて、相手はいま何を思っているだろうと想像することができたら、ケンカを減らすことはできるよ。そういう思いやりの心が、悲しみを減らしていけるはず……。

 人間とロボットだって同じだよ。おたがいの気持ちに寄りそえることができたら、人間とロボットも友達にきっとなれる。わたしは、そう信じている」


 愛菜は一生懸命いっしょうけんめいに考えながらそう言うと、ココルのやわらかな手にそっと自分の手を重ねて、さらに言葉を続けた。


「ネットニュースで『ロボットには心がない』って言っていた人は、ココルたちロボットの心の中がのぞけないから勝手なことを言っているだけなんだわ。ロボットに心がないなんてだれがどうやって証明しょうめいするの? わたしたちは同じ人間の心さえ理解せず、傷つけてしまうことがある生き物だっていうのに。あの人の発言は、わたしが勇治に言った『心に欠陥がある』という言葉と同じくらいひどい言いがかりだわ。勇治は優しい子なのに……。

 ココルは人の気持ちを思いやることができる優しい心を持ったロボットだってお母さんは言っていたわ。絶対、わたしたち人間と仲良くなれるよ。あなたには心があるとあなた自身が証明できる日がきっと来る。だから、人間と関わることをそんなに恐れないで? お願い……」


「愛菜ちゃん……」


 ココルは、ポロン、ポロンと少量の涙を流した。どうやら、毎日泣きらしていたせいで、体内にためこんでいた水がなくなってしまったらしい。


(愛菜ちゃんがそう言ってくれるのは、とってもうれしい。でも、自信がないよ……)


 愛菜に「わたし、がんばる!」と言って安心させてあげることができない自分をココルはとても情けないと感じた。


「ココルのヤツ、かなりネガティブになっているみたいだな……」


 ココルのことが気になって、ココルと愛菜の会話を部屋の前で立ち聞きしていた勇治は、ポツリとひとごとをつぶやいた。


(愛菜が言っていた通り、ココルの心はまだ小さな子供なんだ。小さい子は、まわりの人間の影響を強く受けやすい。オレがココルにネガティブな言葉ばかり投げかけたから、ココルの電子頭脳は悪い影響えいきょうを受けてネガティブな感情でいっぱいになったのかも。だったら、ぜんぶオレのせいだ……)


 勇治はそう思いなやんだ。しかし、素直すなおではない勇治はココルになかなか優しい言葉をかけてやることができず、こうしてかげから見守ることしかできなかったのである。







「ココルをそろそろ家の外に出してみるか。街のいろんな施設しせつやロボットたちを見せて、社会勉強をさせよう」


 ココルと愛菜が夜に語り合った翌日、信人のぶとは急にそんなことを言いだした。そして、ココルは信人とバトラーに連れられて、街に出かけたのである。


(家の外に出て、少しは気晴らしになったらいいんだがなぁ……)


 信人も、ずっとふさぎこんでいるココルのことを心配していたのだ。


「ココル。今日は警察ロボットに会いに行こう。オレはロボット犯罪対策部はんざいたいさくぶ遠山とおやま部長とちょっとした知り合いだから、すでに見学の許可は取ってあるんだ」


「……警察ロボット。タロースとも会える?」


「タロースがパトロールに出かけていなかったらな」


 ココルたちを乗せたスカイカーが警視庁けいしちょうの建物に到着すると、事前にココルたちが来ることを知っていた遠山秀樹ひでき部長と長谷川はせがわ警部けいぶ、タロースが出迎でむかえてくれた。


「よく来てくれたねぇ、ココルくん。今日はゆっくり見学していってくれ。警察ロボットたちに毎日どんな仕事をしているのかを聞いたり、警察の最新のスカイパトカーを見学したり、たくさんのことを勉強して立派なロボットになってくれたまえ」


 遠山部長は、信人より少し年上ぐらいの中年オヤジである。でも、いつも無精ぶしょうひげを生やしてよれよれの白衣はくいを着ている信人にくらべたら、身だしなみをキチンとしていて、なかなかダンディなオヤジだった。


「こ、こんにちは……」


 ココルは、遠山部長からおだやかな感情の電気信号でんきしんごう受信じゅしんして、どうやら自分は歓迎かんげいされているらしいと知った。でも、人とせっすることにすっかり臆病おくびょうになっているココルは、バトラーの背中にかくれながらあいさつをした。


「あれ? この子、こんなに人見知りでしたっけ?」


 長谷川警部が首をかしげる。タロースも心配しているのか、ココルをじっと見つめていた。


「あ、あはは……。ちょっといろいろありまして」


 信人はごまかし笑いをした。


「信人博士はかせ。今日はあなたにちょっと相談があるんだ。長谷川警部と一緒いっしょにわたしの部屋に来てくれないか。タロースは、ココルの面倒めんどうを見てやってくれ」


 遠山部長はそう言うと、信人をロボット犯罪対策部の部長室にまねいた。バトラーも信人のおともをする。ココルとタロースは、二人きりになった。


「ココル。まずはどこを見学したい? オレの仲間の警察ロボットたちを紹介しょうかいしようか?」


「ええと……あの……」


「??? どうかしたのか、ココル。数日前に会った時の君とは別のロボットみたいだぞ。何か悩み事でもあるのか?」


「悩み事……。うん。わたし、とても悩んでいることがあるの」


「悩み事をいつまでも胸の内にかかえているのは、電子頭脳によくない。オレたちロボットは、同じことをぐるぐると考え続けていると、電子頭脳に大きな負担ふたんがかかって心が死んでしまうことがある」


「えっ、そうなの?」


「ああ。人間もストレスがたまると、うつという病気になるらしいから、悩み事がある時は仲間に相談して助け合って生きている。だから、ココルも一人で悩まず、ロボットの仲間に相談するといい。人間ではわからない悩みも、ロボットならわかってくれるはずだ」


「わたし、生まれたばかりだからロボットの知り合いってそんなにいないの。バトラーは、優しいお兄ちゃんだけれど、信人博士のお手伝いや家事をしていていそがしそうだし……」


「だったら、オレが相談に乗ろう。オレは、ココルのことを仲間だと思っている」


「タロース……。ありがとう」


 ココルはタロースの優しさがうれしくて、また泣いた。近ごろのココルは体内に水がたまるたびに泣いている。タロースはココルが涙を流すのを見て、ちょっとおどろいている様子ようすだったが、何も言わずにココルが話し始めるのを待った。


「わたし……人間と友達になりたいって、そう思っていたの。でも、人間と本当に仲良くなれるのかだんだん自信がなくなってきちゃって……。タロースは、人間とロボットは友達になれると思う?」


「それは……わからない。人間の中には、わたしたちの存在そんざい邪魔じゃまに思ったり、恐れたりする人々もいるからな」


 どうやら、タロースもあのネットニュースを見たようだ。その声はちょっと悲しそうだった。しかし、タロースはしばらく考えた後、「だからといって、人間と仲良くなりたいという夢をててしまえばいいという話にはならないと思う。そんなのは悲しすぎる」と言った。


「少なくともオレたちロボットを作ってくれた人たちは、ロボットが人間のパートナーとなることをのぞみ、製造せいぞうしてくれた。オレはそう信じている。だから、オレはオレに命をあたえてくれた人たちのためにも、人間のパートナーとなれるロボットになりたいと思っている。

 ……オレは警察ロボットとして、この身が粉々こなごなこわれる日まで人々の平和を守る覚悟かくごだ」


(タロースは、人間のパートナーになるために、がんばっているんだな。……そうだよね。何もしないで恐がっていたら、夢は夢のままで終わっちゃうもん。わたしを作ってくれた信人博士とこころ博士や、わたしのことを信じてくれている愛菜ちゃんのためにも、もっとがんばらなきゃ。人間を守れる立派なロボットになるために……)


 がんばっていたら、勇治もココルのことをいつかみとめてくれるかも知れない。そして、さびしい勇治の心をいやしてあげられるロボットになれるかも。


 そう考えたココルは、ようやく笑顔になった。


「わたしも、タロースを見習ってがんばってみるよ。はげましてくれて、ありがとう!」


「やっと、オレが知っている元気なココルにもどったな」


 タロースもおだやかにほほ笑んだ。タロースの顔のつくりはそれほど表情が豊かではないけれど、ココルにはとても優しそうな笑顔に見えた。


 ココルとタロースは、初めて出会った時と同じように握手あくしゅして、「おたがいにがんばろう!」と約束するのだった。







 同じころ、ロボット犯罪対策部の部長室では――。


「われわれロボット犯罪対策部が調査ちょうさした結果けっか、先日のスカイカーの事故は、サーペント団のアケディアからディアボロス・ウイルスを入手した一般市民の犯行はんこうだったことがわかった。その男は、スカイカーに乗っていたサラリーマンと昔から仲が悪かったので、車の人工知能にディアボロス・ウイルスを仕込しこんで事故を起こさせようとしていたのだ」


 遠山部長は、先日の事件の真相しんそうを信人に語っていた。


 遠山部長と信人は、中学生時代に先輩せんぱい後輩こうはいの関係だった。今でも友人としての付き合いがある。遠山部長は、ロボット開発者となった信人に、ロボットを使った犯罪が起きた時にこうやって会っては相談に乗ってもらっているのだ。


「その男は三日前に逮捕たいほした。しかし、これからもたような事件が起きるかも知れない。アケディアという男は金が大好きだから、ウイルスを欲しがっているたちの悪い人間にかなり高額こうがく値段ねだんでディアボロス・ウイルスを売っているらしいのだ。街の安全を守るためにも、アケディアだけは逮捕しなければならない」


「アケディアはココルを誘拐ゆうかいするためにオレの研究所を襲撃しゅうげきしたことがあります。あの男は油断ならない。十分に気をつけてください。優秀な警察ロボットでも、アケディアが持っているディアボロス・ウイルスに感染かんせんさせられたら、ひとたまりもないでしょう」


 信人が遠山部長にそうアドバイスすると、長谷川警部は「ご心配にはおよびません!」と陽気ようきな声で言った。


「ボクの相棒あいぼうのタロースは人工知能も高性能です。小悪党どものわなになんてかかりませんよ。今日か明日のうちに、アケディアとその一味を逮捕してみせます!」


 ロボットアニメが大好きな長谷川警部は、「正義のロボットは必ず悪に勝つ」という信念しんねんを持っているのだ。


「長谷川警部。相棒のロボットを信じるのは大事なことだ。しかし、君はちょっと猪突猛進ちょとつもうしんすぎる。警察ロボットを指揮しきする立場の人間として、もう少し慎重しんちょうになりなさい」


 遠山部長はまゆをしかめながらそう注意した。


「タロースは、人々の安全を守るために作られたロボットだ。だから、人の気持ちをなるべく理解できるように、他のロボットよりもたくさんの感情を電子頭脳にインプットされている。しかし、わたしの前のロボット犯罪対策部長の意向いこうで、『恐怖』の感情の一部を入れてもらうことができなかった。

 タロースは、他人が『恐怖きょうふしている』ことは理解できるが、『自分の身が危なくて恐怖を感じる』ことはできないのだ。……つまり、自分の身が危機ききにさらされても、『恐い』と思わない」


「それが、どうかしたのですか? 悪と勇敢ゆうかんに戦う正義のロボットなのですから、『恐怖』の感情なんて不用だと思いますが」


 長谷川警部は、遠山部長が何を言いたいのかわからずに首をかしげると、信人が「それはとても重大な問題ですよ、長谷川警部」と言った。


「自分の身を守ろうとする発想はっそうがないタロースは、簡単かんたんに敵の罠にかかってしまう危険性があるということです。だから、タロースたち警察ロボットの上司じょうしである長谷川警部が、アケディアが罠をしかけてこないか細心さいしんの注意をはらって、タロースたちを指揮してあげなければいけないのです。人間が完璧かんぺきではないように、ロボットも完璧ではない。おたがいに助け合わなければ」


「は、はぁ……」


 長谷川警部は生返事なまへんじをした。どうやら、まだ敵であるアケディアのことを甘く見ていて、タロースが小悪党に負けるはずがないと考えているようだ。


「とりあえず、アケディアらしき人間が街のどこかに出没しゅつぼつしていないか、街中の監視かんしカメラを使って調査ちょうさしてみます。一般市民とディアボロス・ウイルスの取引とりひきをする時、必ず街のどこかで会っているはずですから。……だいじょーぶです! ボクとタロースにおまかせください!」


 長谷川警部はそう言うと、部長室を出て行った。


「ふぅ~む……。長谷川警部はロボット愛が強いのはいいが、いささか熱血すぎて慎重さが足りないのが不安だ」


 遠山部長は、長谷川警部とタロースのコンビのことが心配で、ため息をついた。


 信人は心配性な遠山部長を元気づけるために、「でも、彼はまだ若いのになかなか優秀な警部ですよ」と言った。


「長谷川警部とタロースの活躍に期待しましょう。もしかしたら、アケディアを逮捕できるかも知れません」


「そんなふうに気楽には言っていられないぞ、信人博士。返り討ちにあって、タロースがディアボロス・ウイルスに感染してしまう可能性だってあるのだ。もしも凶暴化きょうぼうかしたタロースが街であばれたら、『やっぱりロボットは危険だ』と考える人間が増えるだろう。君たちカラクリ天才夫婦、そして、心を持つロボットを初めて開発した君の恩師おんし土田つちだ博士の『人間とロボットがパートナーとなる世界を作る』という夢はもっともっと遠のいてしまうぞ?」


「…………」


 土田博士の名前を久しぶりに聞いた信人は、悲しそうな表情でうつむいた。


 土田博士は、今から十三年前、ちょうど愛菜と勇治が生まれた年に、心を持つ世界最初のアンドロイド「フレンド」を作った。博士の研究所で目覚めざめたフレンドは、


「ボクハ、人間ト友達ニナリタイ」


 と、言った。少年の姿をしたフレンドは言葉の発音も今のロボットたちに比べたら下手だったし、小さな段差だんさにつまずいてこけるような子だったが、とても心優しいロボットだった。


 しかし、ある日、土田博士の土田ロボット研究所で作られたロボットが大きな事故を起こしてしまい、たくさんの人々が大ケガをしてしまったのである。


「土田博士が作ったロボットたちは不良品だ! 欠陥のあるロボットはぜんぶこわせ!」


 という、人々の怒りの声がたくさんあがり、ショックを受けた土田博士は自殺してしまった。博士の死後、土田ロボット研究所で作られたロボットたちは全て廃棄はいきされた。この時に、フレンドも体をバラバラにされて、てられた。


 人間と友達になりたいと言ったフレンドは、人間によって破壊はかいされたのだ。あの時の悲劇を信人は今でも忘れていない。あんな悲劇をくりかえさないためにも、人間により近い心を持ったココルを作ったのだ。ココルならきっと、人間とロボットがパートナーとなれる世界を作ってくれると信じて。


「わたしはそれほどロボットにくわしいわけではないが、タロースたち警察ロボットのことを愛している。あんな悲劇が再び起きて、タロースたちロボットが大量に破棄されるところなんて見たくはない。信人博士も同じ気持ちだろう?」


「……ええ。ココルやバトラーが破壊されるなんて、考えただけでもゾッとします。いまだにロボットのことをただの機械だとしか考えていない人々がいますが、彼らには心がある。心を持ったロボットを、物を捨てるように破棄するなんて、それは人間の傲慢ごうまんです」


「わたしもそう思う。しかし、ディアボロス・ウイルスで人工知能が狂ったロボットが街で暴れたら、ロボットは危険だという意見が世間に広まることはけられない。だからこそ、サーペント団と戦う時には、タロースたちロボットがディアボロス・ウイルスに感染させられないように気をつけないといけないのだ」


「おっしゃる通り、ディアボロス・ウイルスには十分注意するべきです。……実は、ココルはディアボロス・ウイルスを撃退げきたいするナノロボットを体内にっています。ウイルスに感染したロボットを助けるアイテムも、ココルに持たせるつもりです。そのアイテムをココルが手に入れたら、サーペント団など恐れるに足りません」


「おお、そんなすごいアイテムがあるのか⁉」


「はい。ずっと開発していましたが、今日か明日には完成しそうなのです。ですから、アケディアの居場所を探して襲撃する作戦は、明後日あさって以降いこうに実行してください。タロースたち警察ロボット隊にココルを同行させますから」


「よし、わかった! 作戦決行は明後日にしよう! それまでにアケディアの隠れ家の場所を警察の総力そうりょくをあげて探しておこう。期待しているぞ、信人博士!」


 こうして、アケディア逮捕作戦の決行日は明後日に決まったのである。


 しかし、この作戦は予想外のことが起きたせいで、実行されることはなかった。


 その日の夜、タロースがディアボロス・ウイルスに感染してしまったからだ。

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