ロボットと人間は友達になれる?
それから数日がたった。ココルは、自分のせいで
そして、ココルがさらに落ちこんでしまうできごとがもう一つあった。
ネットニュースが、あのスカイカーの事故を
「警察ロボットの活躍はめざましいものがありますね。特にタロースは
という、ロボットに
「いいや、ロボットは危険だと思うね。今回みたいにディアボロス・ウイルスで人工知能が
その人の意見に対して、かなり多くの人々が「そのとおりだ!」「ロボットが人間の社会になじめるはずがない」などといった
(ロボットを嫌っている人って、勇治くん
その事実を知ったココルの電子頭脳はさらに悲しみの感情に
「ねえ、ココル。わたしがお父さんに『ココルを学校に行かせてあげて』ってもう一度お願いしてあげようか……?」
ある日の夜。愛菜は、ココルの部屋を
ココルは赤ちゃんの
ココルは、愛菜の申し出に「いいの……」と元気なく答え、首をふった。
「ロボットを嫌っている人もいるみたいだし……。わたしが学校に行ったら、ロボットが嫌いな人たちとケンカしちゃうかも。もしもだれかとケンカをしてしまったら、その人を傷つけちゃうし、自分も傷ついて悲しい思いをするもん。そんなのは嫌だから……。わたし、人がたくさんいるところに出ていくのが恐くなっちゃったかも」
「ココル……」
愛菜は、自分と勇治がケンカをしたせいで、ココルが人間と関わることに
愛菜は「ココル。わたしもね、勇治に『心に
「わたしたち人間はそれぞれが別々の心を持っているし、他人の心の中なんてのぞけない。だから、自分が気に入らないことがあったら、ケンカしちゃうことがあるんだよ。この世界からケンカを完全になくすのは
……でも、言葉を口にする前に自分がこんなことを言われたらどんな気持ちになるだろうって考えて、相手はいま何を思っているだろうと想像することができたら、ケンカを減らすことはできるよ。そういう思いやりの心が、悲しみを減らしていけるはず……。
人間とロボットだって同じだよ。おたがいの気持ちに寄りそえることができたら、人間とロボットも友達にきっとなれる。わたしは、そう信じている」
愛菜は
「ネットニュースで『ロボットには心がない』って言っていた人は、ココルたちロボットの心の中がのぞけないから勝手なことを言っているだけなんだわ。ロボットに心がないなんてだれがどうやって
ココルは人の気持ちを思いやることができる優しい心を持ったロボットだってお母さんは言っていたわ。絶対、わたしたち人間と仲良くなれるよ。あなたには心があるとあなた自身が証明できる日がきっと来る。だから、人間と関わることをそんなに恐れないで? お願い……」
「愛菜ちゃん……」
ココルは、ポロン、ポロンと少量の涙を流した。どうやら、毎日泣き
(愛菜ちゃんがそう言ってくれるのは、とってもうれしい。でも、自信がないよ……)
愛菜に「わたし、がんばる!」と言って安心させてあげることができない自分をココルはとても情けないと感じた。
「ココルのヤツ、かなりネガティブになっているみたいだな……」
ココルのことが気になって、ココルと愛菜の会話を部屋の前で立ち聞きしていた勇治は、ポツリと
(愛菜が言っていた通り、ココルの心はまだ小さな子供なんだ。小さい子は、まわりの人間の影響を強く受けやすい。オレがココルにネガティブな言葉ばかり投げかけたから、ココルの電子頭脳は悪い
勇治はそう思い
「ココルをそろそろ家の外に出してみるか。街のいろんな
ココルと愛菜が夜に語り合った翌日、
(家の外に出て、少しは気晴らしになったらいいんだがなぁ……)
信人も、ずっとふさぎこんでいるココルのことを心配していたのだ。
「ココル。今日は警察ロボットに会いに行こう。オレはロボット
「……警察ロボット。タロースとも会える?」
「タロースがパトロールに出かけていなかったらな」
ココルたちを乗せたスカイカーが
「よく来てくれたねぇ、ココルくん。今日はゆっくり見学していってくれ。警察ロボットたちに毎日どんな仕事をしているのかを聞いたり、警察の最新のスカイパトカーを見学したり、たくさんのことを勉強して立派なロボットになってくれたまえ」
遠山部長は、信人より少し年上ぐらいの中年オヤジである。でも、いつも
「こ、こんにちは……」
ココルは、遠山部長から
「あれ? この子、こんなに人見知りでしたっけ?」
長谷川警部が首をかしげる。タロースも心配しているのか、ココルをじっと見つめていた。
「あ、あはは……。ちょっといろいろありまして」
信人はごまかし笑いをした。
「信人
遠山部長はそう言うと、信人をロボット犯罪対策部の部長室に
「ココル。まずはどこを見学したい? オレの仲間の警察ロボットたちを
「ええと……あの……」
「??? どうかしたのか、ココル。数日前に会った時の君とは別のロボットみたいだぞ。何か悩み事でもあるのか?」
「悩み事……。うん。わたし、とても悩んでいることがあるの」
「悩み事をいつまでも胸の内に
「えっ、そうなの?」
「ああ。人間もストレスがたまると、
「わたし、生まれたばかりだからロボットの知り合いってそんなにいないの。バトラーは、優しいお兄ちゃんだけれど、信人博士のお手伝いや家事をしていて
「だったら、オレが相談に乗ろう。オレは、ココルのことを仲間だと思っている」
「タロース……。ありがとう」
ココルはタロースの優しさがうれしくて、また泣いた。近ごろのココルは体内に水がたまるたびに泣いている。タロースはココルが涙を流すのを見て、ちょっとおどろいている
「わたし……人間と友達になりたいって、そう思っていたの。でも、人間と本当に仲良くなれるのかだんだん自信がなくなってきちゃって……。タロースは、人間とロボットは友達になれると思う?」
「それは……わからない。人間の中には、わたしたちの
どうやら、タロースもあのネットニュースを見たようだ。その声はちょっと悲しそうだった。しかし、タロースはしばらく考えた後、「だからといって、人間と仲良くなりたいという夢を
「少なくともオレたちロボットを作ってくれた人たちは、ロボットが人間のパートナーとなることを
……オレは警察ロボットとして、この身が
(タロースは、人間のパートナーになるために、がんばっているんだな。……そうだよね。何もしないで恐がっていたら、夢は夢のままで終わっちゃうもん。わたしを作ってくれた信人博士とこころ博士や、わたしのことを信じてくれている愛菜ちゃんのためにも、もっとがんばらなきゃ。人間を守れる立派なロボットになるために……)
がんばっていたら、勇治もココルのことをいつか
そう考えたココルは、ようやく笑顔になった。
「わたしも、タロースを見習ってがんばってみるよ。はげましてくれて、ありがとう!」
「やっと、オレが知っている元気なココルにもどったな」
タロースもおだやかにほほ笑んだ。タロースの顔のつくりはそれほど表情が豊かではないけれど、ココルにはとても優しそうな笑顔に見えた。
ココルとタロースは、初めて出会った時と同じように
同じころ、ロボット犯罪対策部の部長室では――。
「われわれロボット犯罪対策部が
遠山部長は、先日の事件の
遠山部長と信人は、中学生時代に
「その男は三日前に
「アケディアはココルを
信人が遠山部長にそうアドバイスすると、長谷川警部は「ご心配にはおよびません!」と
「ボクの
ロボットアニメが大好きな長谷川警部は、「正義のロボットは必ず悪に勝つ」という
「長谷川警部。相棒のロボットを信じるのは大事なことだ。しかし、君はちょっと
遠山部長は
「タロースは、人々の安全を守るために作られたロボットだ。だから、人の気持ちをなるべく理解できるように、他のロボットよりもたくさんの感情を電子頭脳にインプットされている。しかし、わたしの前のロボット犯罪対策部長の
タロースは、他人が『
「それが、どうかしたのですか? 悪と
長谷川警部は、遠山部長が何を言いたいのかわからずに首をかしげると、信人が「それはとても重大な問題ですよ、長谷川警部」と言った。
「自分の身を守ろうとする
「は、はぁ……」
長谷川警部は
「とりあえず、アケディアらしき人間が街のどこかに
長谷川警部はそう言うと、部長室を出て行った。
「ふぅ~む……。長谷川警部はロボット愛が強いのはいいが、いささか熱血すぎて慎重さが足りないのが不安だ」
遠山部長は、長谷川警部とタロースのコンビのことが心配で、ため息をついた。
信人は心配性な遠山部長を元気づけるために、「でも、彼はまだ若いのになかなか優秀な警部ですよ」と言った。
「長谷川警部とタロースの活躍に期待しましょう。もしかしたら、アケディアを逮捕できるかも知れません」
「そんなふうに気楽には言っていられないぞ、信人博士。返り討ちにあって、タロースがディアボロス・ウイルスに感染してしまう可能性だってあるのだ。もしも
「…………」
土田博士の名前を久しぶりに聞いた信人は、悲しそうな表情でうつむいた。
土田博士は、今から十三年前、ちょうど愛菜と勇治が生まれた年に、心を持つ世界最初のアンドロイド「フレンド」を作った。博士の研究所で
「ボクハ、人間ト友達ニナリタイ」
と、言った。少年の姿をしたフレンドは言葉の発音も今のロボットたちに比べたら下手だったし、小さな
しかし、ある日、土田博士の土田ロボット研究所で作られたロボットが大きな事故を起こしてしまい、たくさんの人々が大ケガをしてしまったのである。
「土田博士が作ったロボットたちは不良品だ! 欠陥のあるロボットはぜんぶ
という、人々の怒りの声がたくさんあがり、ショックを受けた土田博士は自殺してしまった。博士の死後、土田ロボット研究所で作られたロボットたちは全て
人間と友達になりたいと言ったフレンドは、人間によって
「わたしはそれほどロボットにくわしいわけではないが、タロースたち警察ロボットのことを愛している。あんな悲劇が再び起きて、タロースたちロボットが大量に破棄されるところなんて見たくはない。信人博士も同じ気持ちだろう?」
「……ええ。ココルやバトラーが破壊されるなんて、考えただけでもゾッとします。いまだにロボットのことをただの機械だとしか考えていない人々がいますが、彼らには心がある。心を持ったロボットを、物を捨てるように破棄するなんて、それは人間の
「わたしもそう思う。しかし、ディアボロス・ウイルスで人工知能が狂ったロボットが街で暴れたら、ロボットは危険だという意見が世間に広まることは
「おっしゃる通り、ディアボロス・ウイルスには十分注意するべきです。……実は、ココルはディアボロス・ウイルスを
「おお、そんなすごいアイテムがあるのか⁉」
「はい。ずっと開発していましたが、今日か明日には完成しそうなのです。ですから、アケディアの居場所を探して襲撃する作戦は、
「よし、わかった! 作戦決行は明後日にしよう! それまでにアケディアの隠れ家の場所を警察の
こうして、アケディア逮捕作戦の決行日は明後日に決まったのである。
しかし、この作戦は予想外のことが起きたせいで、実行されることはなかった。
その日の夜、タロースがディアボロス・ウイルスに感染してしまったからだ。
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